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第十七話「奇襲」

 店を出た俺達の前には一人の女性が立っていた。年齢は四十代程だろうか、疲れきった表情を浮かべ、俺に対して深々と頭を下げた。


「主人がご迷惑をおかけしました……申し訳ありませんでした」

「いいえ。気にしないで下さい」

「付かぬ事をお伺いますが、あなた様が連れている魔物は幻獣ではないでしょうか」

「そうですが。それがどうかしましたか?」

「幻獣の様な高位な魔物を従わせている冒険者様……ご相談があるのですが」

「何でしょうか?」

「実は村の娘達が盗賊に囚われてしまいまして。私の娘ももう二週間も村に戻っていません。夫は酒を飲んで人様に無礼を働く様な人ではなかったのですが。娘を失ってからは、あの様に落ちぶれてしまいました……」


 詳しく話を聞いてみると、二週間前に盗賊が村を襲い、若い娘を誘拐したのだとか。ルナを泣かせた男は自分の娘が盗賊に誘拐されて、悲しみを忘れるために酒を飲んでいたらしい。娘を誘拐される気持ちは分からないが、どうして酒に酔ってルナに手を出すのだろうか。全く理解できない男だ。


「冒険者様……! どうか私の娘を盗賊達から救い出しては頂けないでしょうか? 私達の様な農民では盗賊達に歯向かう事すらできません」

「俺も少し前までは農民でした。俺が皆さんのお役に立てるか分かりませんが、冒険者として、盗賊の行いを許すつもりはありません。俺達が村の娘を救出します」

「ありがとうございます!」


 俺は村人達を集めると、盗賊に関する情報を集めた。どうやら村の近くに盗賊のアジトがあるらしく。誘拐された娘達は奴隷商に売られる事になるのだとか。この付近では、若い娘が誘拐されて、奴隷として売られる事件が続いているらしい。この様な非道な行いを見過ごして、冒険者を名乗れるだろうか。冒険者とは民を守る存在。俺達の力で村の娘を取り戻そう。


「俺は幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガーです。これから誘拐された娘達を救出に行きますが、皆さんの中でアジトまで俺達を案内してくれる人は居ませんか?」

「私がアジトまでご案内します!」

「それではお願いします」


 村で待っているだけで、強い冒険者が娘を救ってくれると思っている人が随分多い様だ。他力本願で生きているのだろう。俺も最近までは魔物と戦う力も無い村人だった。しかし俺は冒険者になると決意し、毎日死に物狂いで己を鍛えている。娘を誘拐され、酒を飲みながら他人に絡む様な男のために働くのは複雑な気分だが、誘拐された娘達には罪は無い。


 戦う力を持つ者が、弱い者を助ければ良い。それが冒険者としての生き方だ。俺は一流の冒険者になると決意した者。力の無い者を守るのも冒険者としての務めだ。勿論、彼等のために命を賭ける義理は無い。しかし、盗賊の行いを見過ごすのは人として間違っている。


 俺には強い仲間も居る。盗賊のような野蛮な輩すら倒せない様では、一流の冒険者になる事も、ブラックドラゴンを倒す事も出来ないだろう。何が何でも俺達の力で村の娘を救出してみせる。


 勇敢な少女を馬車に乗せ、俺達は村を出発した。少女の名前はボニーと言うらしい。馬車で盗賊達のアジトに向かいながら、ボニーから敵の情報を聞き出した。アジトは村から二時間程の距離にあるらしく、良い開けた高原の上に小さなアジトを構えているのだとか。見張りの塔が一つあり、塔の最上部では常に数人の見張りが侵入者を警戒しているらしい。


「塔の見張りは遠距離から仕留めた方がいいだろう」

「それじゃ、キング。サンダーボルトで見張りを倒してくれるかな?」

「ワカッタ……!」

「ルナはどうしたらいいの?」

「俺と一緒に盗賊と戦ってくれるかな?」

「分かったよ。サシャは私が守るんだから」


 まず、俺とルナはアジトの裏側、見張りの塔から目の届かない場所で待機する。キングとゲルストナーはアジトの正面から突破してもらう事にする。キングのサンダーボルトを開戦の合図とし、一斉に奇襲をかける。


「キング、どんな魔法を使ってもいい。盗賊を一人でも多く倒してくれ。ゲルストナーはキングのサポートを。俺とルナは二人で盗賊を討つ。皆、何が何でも今回の戦闘に勝利するんだ。大勢の娘の命が掛かっている。力を持つ者が弱き者を助ける。俺達は冒険者なんだ。負けは許されない」

「そうだな。久しぶりに暴れるという訳か……若い頃を思い出すな」

「頼りにしているよ、ゲルストナー」

「任せておけ」


 ゲルストナーはロングソードを握り締めると、魔力を込めた。周囲には彼の心地良い魔力が流れ始めた。ルナは興奮した面持ちでレイピアを抜いた。盗賊のアジトに到着すると、ユニコーンを待機させ、俺達は作戦を実行するために配置についた。



 〈奇襲開始〉


 俺はルナと奇襲をするにあたって、新しい魔物を召喚をする事にした。以前ゲルストナーから貰ったホワイトウルフの頭骨を使って、ホワイトウルフを三匹召喚する事にした。魔物に関する本で読んだが、狼系の魔物は団結力が強く、基本的には集団で狩りをするらしい。狼が三匹も居れば奇襲の際の大きな戦力となるだろう。俺は久しぶりの召喚を試みた。


「幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガーの名によって召喚する……ホワイトウルフ・召喚!」


 地面に置いた召喚書からは三匹の中型のホワイトウルフが姿を現した。ある程度召喚に慣れてきたせいか、召喚によって生まれる魔物が、比較的強い状態で生まれている様な気がする。三匹のホワイトウルフは俺に近寄って頭を擦り付けた。どうやら俺が主人だという事を理解しているらしい。モフモフした白い体毛を撫でると、狼達は心地良さそうに目を瞑った。


 俺は狼達に武器を与える事にした。前足に装備するタイプの爪が良いだろう。硬い土で作られた爪を想像し、土を放出させて使って装備を作り上げる。硬質化された土の爪を狼達の足に付けると、俺はアースランスを握り締めた。これで準備は整った。あとはキングの合図を待つだけだ。



 アジトの裏側の茂みに身を隠し、合図を待った。すると、アジトの上空には雷雲が集まり始めた。規模はかなり大きく。見張りの塔を破壊するには十分な規模の雷雲だ。その時、雷雲の中からは爆発的な魔力が発生し、一筋の巨大な雷撃が見張り塔に落ちた。


 作戦が始まった。俺はルナとホワイトウルフを連れて、アジトの裏側から奇襲をかけた。

キングのサンダーボルトで盗賊達の大半が正門から飛び出した。キングが待機する正門に向かう盗賊に対し、地面から土の槍を放った。


 硬質化した土の槍が地面から生き物の様に伸び、盗賊の背中貫いた。一撃で心臓を捕らえたのか、盗賊は命を落とした。ルナはサーペントのレイピアを振り下ろし、三日月状の魔力の刃を飛ばした。


 紫色の刃は次々と盗賊を切り裂くと、盗賊達は恐れおののいて逃げ出した。ホワイトウルフが盗賊と取り囲むと、俺はアースランスを投げて盗賊の心臓を貫いた。腰に差しているグラディウスを引き抜き、背の高い髭面の盗賊に切り掛かる。


 盗賊はグラディウスの一撃を剣で受け止めたが、俺は盗賊の足元にアースウォールを作り上げ、盗賊の体を宙に浮かせた。地面から土の槍を伸ばし、盗賊の胸を貫くと、盗賊は一撃で命を落とした。


 ルナは俺を援護するようにウィンドアローを放ち、的確に盗賊を射抜いた。盗賊はルナの魔法の矢に恐れをなして逃げ出したが、キングのサンダーボルトが炸裂し、盗賊の頭上に落ちた。ゲルストナーはキングを守るように盗賊と交戦している。


 大剣を構えた大柄の盗賊が襲い掛かってきた。俺は敵の攻撃をグラディウスで受けると、グラディウスは敵の攻撃に耐えきれずに地面に落ちた。武器を失った俺は、急いで地面に両手を付け、ありったけの魔力を放出した。地面からは無数の土の槍が伸び、大男の体を串刺しにした。まるで拷問器具のアイアンメイデンの様だ。


 ルナはレイピアで次々と盗賊を切り裂くと、全ての盗賊が命を落とした。やはり俺の騎士団は強い。討伐数が一番多いのはルナだ。その次はキングだろうか。幻魔獣の力には毎日驚かされる。


 アジトに入り、村娘達を探す事にした。アジトの中は薄暗くて男臭い。こんな場所に娘達は二週間も囚われているとは気の毒だ。アジトの奥に進むと、大きな鉄の檻を見つけた。檻の中には、ボロの布を体に纏う人間の娘や、猫耳の娘が囚われていた。囚われている娘達は俺を見ると安堵の表情を浮かべた。ギルドカードを見せて身分を証明してから、娘達を開放すると、涙を流しながら俺に抱きついた……。

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