第百四十話「引っ越し」
今日のパーティーはただのパーティーではなく、俺達騎士団の団員が新たに別々の人生を歩み始める日でもある。勿論、同じ騎士団の団員として、これからも行動を共にする事は変わりないが、それぞれが自立した大人な訳だから、お互いの生活や生き方には干渉しない。
俺と俺の召喚獣(シルフ、ルナ、シャーロット、オーガ、ワイバーン、ユニコーン、ドラゴン達、キング)それからクーデルカとアイリーンはこれからの人生でも常に俺と行動する。
クリスタルは最近よく『そろそろ召喚獣と旅にでも行こうかな』と言っている。彼女は冒険の旅の準備でもしているのだろうか、今度クリスタルから今後の予定を聞き出さなければならないだろう。
ゲルストナーはクラウディアと共に暮らす事も決まり、本拠地の管理をしながら新しい店の出店を計画しているらしい。本拠地に彼が留まってくれるなら安心だろう。
実は俺にも新しい冒険の考えがある。エイブラハムから聞いた話だが、最近、大陸内に新しいダンジョンが出来たらしい。ダンジョンというのは一体何なのか、詳しくは知らないが、ダンジョンの主となる強力な魔物が作り出した建物、もしくは強力な魔物達が住み着いた建物の事をダンジョンと呼ぶらしい。引っ越しをして少し落ち着いたらダンジョンの攻略をしてみるのも良いかもしれない。
それから、ゲルストナーから聞いた話だが、俺達の住んでいるアルテミス大陸以外にも他に二つの大陸がこの世界には存在するらしい。他の大陸を旅してみるのも面白いかもしれないな。
やりたい事が沢山有りすぎて何をしたら良いか迷ってしまうが、しばらくは本拠地に滞在しながらエミリアとフランシスを育てつつ、王国の復興を手伝うつもりだ。王国の復興に関してはあと一カ月以内に終わるだろう、きっとその頃にはエドガー達も帰ってくるはずだ。再開が楽しみだな。
今日は新しい生活が始まる一日目だ。俺はシルフとシャーロットと共にアルテミシアで買い物をする事になった。
「サシャ。今日の料理楽しみだよね! 料理長がサシャのために作るんですって」
「俺のため? 俺達皆のためだって聞いたけど」
「いいえ、サシャのためなのよ。料理長、サシャから貰った首飾りがよほど嬉しかったのか、『勇者様の屋敷で料理人として暮らしたい』なんて言うのよ」
シャーロットは俺が全く知らなかった情報を教えてくれた。シルフとシャーロットはシュルスクのパイの作り方を料理長から教わってからも頻繁に城の厨房に顔を出している。二人共、料理長とかなり親しい様だ。
「そうだったの? 今日の料理は俺のためなのか……料理長が作る料理は絶品だからな! 楽しみだよ!」
俺は今夜の料理を楽しみにしながらアルテミシアでお酒を買う事にした。料理と共に飲むためのお酒だ。パーティーにはお酒が必要だろう。俺達はアルテミシアの商業区でお酒やパーティー用の食べ物を買う事にした。
ちなみにワイバーンは俺達を商業区に降ろした後、すぐにどこかに飛び立ってしまった。ワイバーンも気を利かせてパーティーのために食材でも採ってきてくれるのだろうか。奴は冒険の間も獲物を俺達のために持ってきてくれた事が何度かあるからな。
俺は商業区で一番高価なお酒を取り扱っている店に来た。小さな店だが扱っているお酒の種類が多く、気さくな店主が居る店でいつも贔屓にしている。
「勇者殿! 今日はどんなお酒をお求めですか?」
三十代後半の店主は俺の姿を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
「今日はお祝いなのですが、葡萄酒とエールを一番高価な物、二十人分……いや、三十人分下さい」
エイブラハムは大量にお酒を飲むからな。パーティーの最中でお酒が切れてしまってはいけない。余ったとしても食糧庫に仕舞っておけば良い。
「かしこまりました!」
店主は樽に入った葡萄酒とエールを持ってきてドラゴンの背中に積んでくれた。いつからだろうか、お酒を当たり前の様に樽で買う様になったのは。大酒飲みの仲間が増えてからだろうか。
オーガとも毎晩のように一緒にお酒を飲むが、エイブラハムと同じ位の大酒飲みだ。酒を買い終えた俺達は町の復興の進み具合を確認した後、城で料理長から料理を受け取って本拠地に戻った。
〈領主の屋敷〉
俺達が屋敷に戻ると、既に他の仲間達は集まっていた。エミリアは綺麗なドレスを着てパーティーに参加するようだ。俺は早速、料理長から頂いた料理を食堂に運んだ。クーデルカとルナは屋敷の中を見て回っている様だ。ちなみに寝室は皆で一緒に寝られるようにとかなり広めに作られてある。
キングには個室があり、彼一人で自由に使える部屋をエイブラハムに作ってもらった。料理とお酒を運び込んでからしばらくパーティーの支度をしていると仲間達が食堂に集まってきた。今日のパーティーは今後の事も話し合う良い機会になるだろう。俺はまずクリスタルとじっくり話し合う事にした……。