第百三十八話「元奴隷達の想い」
俺達は以前レイリス町で滞在した時に利用した宿に泊まる事にした。勿論、元奴隷達も一緒だ。部屋割りは、俺、ルナ、クーデルカ、アイリーン。ゲルストナーと元奴隷達の半分、それからガーディアンと残りの元奴隷達で泊まる事になった。
宿を決めてから俺は元奴隷達のために新しい服を用意した。新しい服を元奴隷達に渡すと、皆喜んですぐに服を着替えた。それから、俺は今後の活動について説明をするためにアルテミス大陸料理の店に移動した。この店は俺達のお気に入りの店だ。レイリス町で滞在していた時は毎日のように通った店。俺は仲間と元奴隷達を座らせてから料理を注文する事にした。
「葡萄酒を人数分と肉料理を適当に見繕って持ってきてくれるかな?」
「はい! かしこまりました」
俺はメニューも確認せずに注文をすると、すぐに葡萄酒が運ばれてきた。ゴブレットに入った葡萄酒を皆に配ると、俺はまず乾杯をする事にした。
「あなた達は今日、自由民となった。自由民は自分で仕事を選び、人生を決める。俺はあなた達にこれからの人生で喜びを与えられる自信がある。共に協力し合ってこれからの人生を生きてゆきましょう!」
俺がゴブレットを持ち上げると、元奴隷達も嬉しそうにゴブレットを持ち上げてから酒を飲み始めた。
「ボリンガー様。解放して下さってありがとうございます」
そう言ったのは戦争捕虜の男だった。
「気にする必要はないよ。ただ、これからの人生で俺の町作りを手伝ってくれればそれで良い」
「勿論、私にできる事なら何でも手伝うつもりです。ボリンガー様には感謝してもしきれません……」
戦争捕虜の男はそう言って涙を流した。奴隷生活から解放され、酒を飲んだ事でやっと自分達が自由民になった事を実感したのか、嬉しさのあまり泣き出す元奴隷が何人か居た。俺は料理が来るまでの間、町づくりについて詳しく説明した。まず、家が当分の間土の家になる事。
「土の家だとしても仕事と食料があれば十分に生きていけます。私達が奴隷だった頃は三日間も食事が与えられない事もありました……」
「ボリンガー様。私達はどんな環境でも生きていける自信があります。私達はボリンガー様にこれからの人生を託します」
「そうだ! 俺達は一生ボリンガー様と共に生きます!」
犬耳の男がそう言うと、他の元奴隷達も大きく頷いた。しばらく待つと料理が運ばれてきた。俺は料理を食べながら他の仲間の事やこれまでの冒険の話を聞かせた。成人の日に冒険者を目指して田舎の村を出た事、アイリーンや村娘を解放した事、魔王を倒して国王から称号を頂いた事など。俺が話をしている間、元奴隷達は目を輝かせて希望に満ちた顔で俺を見ていた。一通り冒険の話や町作りの話をしてから、今日は早めに休む事にした。
「それじゃ、明日は本拠地に行くからね、今日はゆっくり休むんだよ」
俺は元奴隷達を宿の部屋に戻してから自分達もすぐに休んだ。
〈翌朝〉
俺達は朝から早速本拠地に戻る事にした。レイリス町を出る前に、食料や服、その他生活に必要な物を買っておいた。それから、エイブラハムに渡すお土産の酒だ。彼は大酒飲みだから葡萄酒を樽ごと買ってドラゴンの背中に乗せた。
ブラックドラゴンにはアイリーンと元奴隷達が乗っている。今日は本拠地に戻ってアースウォールで家を建て、領地を囲う塀を建てなければならない。早速俺達はワイバーンとドラゴンを飛ばして本拠地に向かった。
「サシャ、奴隷は誰一人逃げ出さなかったわね」
そう言ったのはクーデルカだった。解放した元奴隷達が逃げ出す可能性はあったが、朝起きても誰一人姿をくらます事は無かった。
「そうだね、皆も新しい場所で人生をやり直したいんじゃないかな」
「真面目に働いてくれると良いけれど……」
「確かにね。だけど、しばらくは自由を楽しんで欲しいな。仕事と言っても今のところは木を切ったり、シュルスクを植えたり、単純な作業しか無いけど」
元奴隷達には楽に生きて欲しい。自由を満喫しながら明るい時間帯には簡単な仕事をして社会復帰して貰う。俺は彼らがしっかりお金を稼げるようなシステムを作るつもりだ。正直そこまでしてあげる義理も義務もないが、どうも放っておく事は出来ない。
「やっと本格的に町作りって感じだよね。頑張りすぎないようにね」
「大丈夫だよ。だけど俺達は最近働き過ぎかもしれないね。王国に戻ってきてからずっと働いているような気がする……」
「そうよ。たまには丸一日休んで私達と遊ぼうよ」
「そうしようか、今度休みを取るよ」
「うん、それが良いよ。私はサシャと遊びたい」
「俺もだよ、ルナ……」
それも良いかもしれないな、だが今は休める段階ではない。町作りが進んだらしばらく何もせずに休んで暮らすのも良いかもしれない。俺達は町作りに関するアイディアを交換し合いながら本拠地に向かうと、すぐに本拠地に到着した。




