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第百三十六話「戦争捕虜の男」

 俺は早速奴隷と話をしてみる事にした。


「俺はアルテミス王国の近くで町作りをしようとしている者だが、あなたに興味がある」


 俺がそう言うと、奴隷は相変わらず地面を見続けたままだった。


「旦那様。こいつには何を言っても無駄ですぜ。人の話すら聞かないんで今まで売れ残っているんですよ」


 俺は奴隷商の無駄なアドバイスを無視して更に奴隷に対して話しかけた。


「もし自由になれるなら何をしたい?」


 俺がそう言うと、ついに奴隷は顔を上げた。


「奴隷に自由などは無い……」

「いや、自由は存在する。俺がもしあなたを解放したら、これから先の人生で何をしたい?」


 更に話しかけると、奴隷は一人の女の奴隷を見つめた。


「妻と再び暮らしたい……」

「そうか……その望み、叶えてあげられるかもしれないよ」


 奴隷が見つめる先には女の奴隷が裸に近い恰好で売り物にされている。彼の妻なのだろうか?女の奴隷の値段は二万ゴールドだった。


「奴隷商! あの女の奴隷を買おう」


 俺が奴隷商を呼びつけると、奴隷商は急いで俺の元に駆け寄ってきた。


「旦那様! あの奴隷は使い物になりませんよ。この男と同様、客が話しかけても返事すらしません。あんな奴隷を買ってどうするんです?」

「どうするかどうかは俺の勝手ですよ。一万ゴールドで買います」

「一万ゴールド? 馬鹿を言ってはいけませんよ旦那様。あの奴隷は顔は良いので性奴隷として必ず高く売れます。一万ゴールドでは私の損ではありませんか」


 奴隷商が性奴隷と言う言葉を使うと、ルナは露骨に嫌そうな顔をして俺に抱き着いた。


「ルナ、大丈夫だよ……」


 この奴隷商は手強いな……。俺は更に条件を提示する事にした。


「それなら、この男の奴隷とあの女の奴隷、二人で二万ゴールドで買います」


 俺が値段を提示すると、奴隷商は面倒くさそうに首を横に振った。


「旦那様。ふざけているんですかい? この男は一万ゴールド、あの女の奴隷は二万ゴールド、合計で三万ゴールドですぜ」

「随分と高いんですね。それなら他の奴隷商を当たる事にします」


 俺はそう言ってマジックバッグの中から金貨を手で持てるだけ掴んで取り出した。取り出した金貨を手の上で数えるフリをして見せると奴隷商の顔つきが変わった。


「あなたが値段を下げないなら他の奴隷商から買うまでです」

「ご予算は十分にあるんですね! それなら二万八千ゴールドではいかがでしょうか?」

「二万ゴールドで買いますよ。それ以上出すつもりはありません」


 俺はこの奴隷商に二万ゴールド以上渡すつもりはない。勿論、二万ゴールドが適正な値段なのかもわからない。もしかしたら二万ゴールドでもかなり高い方なのかも知れない……。


「旦那様。私の話を聞いていましたか? 二万六千ゴールドではいかがでしょうか?」


 奴隷商はあくまでも値段を大幅に下げるつもりはないらしい。それなら……。俺は更にマジックバッグの中から金貨を大量に取り出した。


「予算ならいくらでもあるんです。あなたが適正な価格を示すならいくらでも金を使いますよ」


 俺がそう言うと、戦争捕虜の奴隷は俺の持つ金貨を見つめた。


「それなら二万五千ゴールドではいかがでしょうか?」


 あくまでも二万ゴールドで売るつもりは無いということだろうか。


「サシャ。他の奴隷商から買いましょう」

「そうだね。他の奴隷商から奴隷を買おうか。せっかく大量に奴隷を買おうと思ったんだけど……」


 俺が捨て台詞を吐くと、流石に奴隷商も客を逃したくないのか、急いで俺の手を掴んだ。


「ええい……! 二万ゴールドで結構ですよ! 全く、これでは商売になりません!」


 奴隷商はついに諦めたのか、戦争捕虜の奴隷とその妻を二万ゴールドで売る事に決めたらしい。


「次は最初から値段を下げて下さいね。あなたの店で奴隷を買う事にします」

「はい! それではすぐにお持ちします!」


 俺が奴隷商に代金を支払うと、奴隷商はすぐに二人の奴隷を連れてきた。奴隷契約書にサインをすると奴隷達は正式に俺の奴隷になった。勿論、すぐに契約は破棄するつもりだ。契約を破棄する前に、俺達の町で暮らして貰えないか頼まなければならないな。戦争捕虜の奴隷は妻と同時に買われた事を喜んだが、まだ表情は暗いままだ……。


「俺はアルテミスの勇者、サシャ・ボリンガーだ。俺はあなた達二人に俺が作る町で生活をして欲しいと思っている。当分の間の仕事と家、それから食料は与える」


 俺がそう言うと女の方の奴隷は恐る恐る口を開いた。


「勇者様……? 性奴隷ではないのですか……?」

「ああ、勿論違うよ。あなた達二人には自由民として俺の作る町で生活をして貰いたい。奴隷契約はすぐに破棄する」

「自由民……信じられないな……もし俺達が逃げ出したらどうするんだ?」


 戦争捕虜の奴隷は鋭い目つきで俺を睨んだ。


「自由民に逃げるという概念は無いよ。自由民は俺の所有物じゃない。奴隷契約を破棄した後、あなた達は自由に生きる事が出来る。どこに行こうがあなた達の自由さ」

「あなた……勇者様が提案して下さっているの。何を反発しているの? 私達の立場を分かっているの?」


 女の奴隷は不安そうな目で男を見た。


「今から奴隷契約を破棄するよ。その後の生き方はあなた達次第だ。だけど、俺に力を貸してくれるなら、俺の領地で家を与えようと思う。まだ作りかけだから立派とは言えないけどね……」


 俺はそう言って、奴隷商から受け取った奴隷契約書をヘルファイアで燃やした。俺が奴隷契約書を燃やすと、二人は愕然とした表情で俺を見た。


「どうかな? 町が気に入らなければいつか出て行ってもらっても構わない。あなた達にとって悪い条件ではないと思うけど」

「私達が自由民……! あなた! ついに自由になったのよ!」


 女の奴隷は自由になると、男の奴隷に抱き着いた。男の奴隷は信じられないと言う表情を浮かべて地面に膝を着いた。突如現れた勇者を名乗る男が家を無料で提供すると言い、更に奴隷契約を破棄した。奴隷にとってこの出来事は喜ぶべき出来事なのではないだろうか。


 それとも、あまりにも条件が良すぎて自分に起こった出来事を理解しきれないのだろうか。俺は念のため自分の身分を証明する事にした。ギルドカードを懐から取り出して男に見せると、男はやっと俺の事を信用したのか、目に涙を浮かべて喜んだ。


「ボリンガー様……ありがとうございます……」


 男は俺の手を取って泣きながら喜んだ。一部始終を見ていたアイリーンは嬉しそうに一緒になって涙を流した……。よし、これで新しい仲間が二人増えた。俺は早速、更に奴隷を買い足す事にした。

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