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第百三十四話「猫耳の斧使い」

 俺は早速エミリアにファイアボールを教える事にした。


「エミリア、今日からファイアボールの使用を許可するよ。ファイアボールは覚えているよね?」

「えぇ、勿論よ。ファイアショットの強化版でしょう?」

「そうそう。一度やってごらん。イメージはファイアショットの炎の球より大きくて、強力な魔力を込めて球を作り上げる感じだよ」


 エミリアはクーデルカに威力が低いと言われてムキになったのか、先程の炎の球とは比べ物にならない程の大きな球を作り上げた。

 

『ファイアボール!』


 エミリアが大きな声で魔法を唱えると、巨大な火の球は土の壁に向かって飛んだ。エミリアが飛ばした炎の球は、大きさは立派だったが、剣士や戦士などの接近戦闘系の職業の人間なら簡単に回避出来る速度だった。ファイアボールは土の壁に当たると、先程のファイアショットよりも軽い音を立てて破裂した。

 

「どうして……? ファイアショットよりも魔力を込めたのに威力が低かったわ!」


 エミリアはただ魔力を込めれば攻撃が強くなると思っていたらしい。球を飛ばす場合は速度も重要だ。同じ魔力を使って作り出した炎の球だとしても、速度が速い方が威力が増す。


「まだまだ遅いわね。私が手本を見せましょう」


 クーデルカはそう言ってアイスロッドを抜いた。彼女の魔法は久しぶりに見る気がする。クーデルカは杖を土の壁に向けると、ありえない量の冷気を杖の先端に溜めた。杖の先端に強力な冷気を溜めると、冷気の中からは圧縮された円盤状の氷の群れが生まれた。


『アイスフューリー!』


 クーデルカが魔法を唱えると、杖の先からは目で追いきれない程の速度、尚且つ大量の氷が発射された。クーデルカの放ったアイスフューリーは一瞬で土の壁に激突し、いとも簡単に土の壁を貫いた。まさか彼女の魔力がここまで上がっていたとは……。流石、魔王と戦って生き抜いた女性だ。彼女が魔王戦でアイシクルレインを放たなければ俺達は死んでいたかもしれない……。


「これが本物の攻撃魔法よ。分かったかしら、王女様」


 クーデルカはカメオの件で少しだけエミリアに嫉妬しているのだろうか。自分の実力を披露するとはクーデルカらしくないな。だが、魔法を学ぶ者として他の属性の魔法を知る事も重要だ。


「クーデルカ様の魔法って凄いわね! 流石サシャの魔術師よ!」


 エミリアはクーデルカを尊敬の眼差しで見ている。


「クーデルカ、以前よりも魔力が強くなったね」

「そうね。私もそれなりに訓練しているのよ。毎晩サシャのゴブレットを冷やしてあげたりね……? そうよね、サシャ」


 クーデルカは俺の手に指を絡ませてエミリアを見つめた。しかし、それは魔法の訓練と言えるのだろうか……。エミリアは俺とクーデルカを見ると、恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「サシャのゴブレットを? 良いなぁ……私もいつか氷の魔法を覚えたい!」


 俺のゴブレットを冷やすために覚えたいのだろうか?女性の考えは分からないな……。それから俺達はクーデルカと共にエミリアに魔法を教え続けた。エミリアはクーデルカの魔法からヒントを得たのか、ただ炎の球が大きくて強力であれば良いという考えを捨て、球の速度と威力を最大限まで上げたファイアボールを撃てるようになった。


 勿論、魔法は一日では完成しない。毎日の様に魔法を使い続け、魔力を高め、戦闘で使えるようになって初めて完成と言える。動きもしない土の壁に魔法を当てるだけなら簡単だが、実戦では敵は回避もすれば反撃もする。エミリアがファイアボールを使い熟せるようになったら、更に実践的に、俺が敵の役をして反撃と回避をする授業に切り替えよう。


 しばらくファイアボールの練習を続けると、エミリアの魔力の残量が少なくなってしまい、今日の魔法の授業は終了した……。俺はエミリアの魔法授業を終えると、アイリーンの斧の使い方の授業を見に行く事にした。アイリーンは冒険の間は槍しか使う事が無かったが、斧も槍と同じくらい上手に使いこなせるらしい。フランシスは俺が昨日プレゼントした斧を構えてアイリーンに向けている。フランシスの前に立つアイリーンは、なんと武器一つ持っていなかった。フランシス相手なら武器を使う必要すらないという事だろうか。


「かかってくるの。あたしのサシャに立ち向かった罰を与えるの」


 フランシスはアイリーンに挑発され、両手で斧を握りしめてスラッシュを放つも、いとも簡単に避けられてしまった。力を込めて放ったスラッシュは無残に宙を切ると、斧の勢いを制御しきれずにフランシスは倒れた。まだ斧を使いこなす筋力は無いようだ。今のフランシスは斧の強さを引き出す事も出来ず、斧に使われている様だ。


「立つの! そんな事でクリスタルの従者になれると思っているの?」


 アイリーンは楽しそうに猫耳を立ながらひたすらフランシスを挑発した。すると、フランシスは持っていた斧を思い切り振りかぶってアイリーンに投げた。武器を手放すとは……愚かだな。


「フランシス! 武器を投げるな! 何があってもだ!」


 俺がフランシスにアドバイスをすると、急いで斧を拾いに駆けだしたが、アイリーンの方が遥かに早く、フランシスの斧を拾い上げた。


『トマホーク!』


 アイリーンは拾いあげた斧に魔力を込めてフランシスに目がけて投げつけた。強力な魔力を纏った斧は高速で宙を切り、斧は一瞬でフランシスの足元に突き刺さった。


「今のはトマホークなの。あたしの村に伝わる斧の技なの」


 初めてアイリーンのトマホークを見たが、ルナのウィンドカッターと同等の速さだった。もしかしてアイリーンって斧使ったら最強なんじゃ……?果たして俺はアイリーンと勝負したら勝てるのだろうか。勿論、勝負をする必要はないが、武器だけの戦いではきっと勝てないに違いない。


「斧を拾うの」


 フランシスはアイリーンに命令されて恐る恐る地面に突き刺さる斧を抜いた。その後もアイリーンとフランシスの授業は続き、最後までフランシスはアイリーンに一撃も当てられる事も無く、フランシスが体力の限界に達して倒れた瞬間授業が終わった。


「今日はここまでにしようか。アイリーン、俺の代わりに教えてくれてありがとう」

「気にする事は無いの。久しぶりに斧を使って楽しかったの」


 もしかしてアイリーンが今まで斧を使わなかった理由って、強すぎるから?そんな事は無いか。兎に角、アイリーンは槍と同じくらい斧も自在に使いこなせる事が分かった。フランシスの成長より、今日の授業でアイリーンの戦い方を見れた事の方が俺にとっては大きな収穫だ。


 俺達はそれから昼ご飯を本拠地で食べてから、フランシスを兵舎に戻してエミリアと別れた後、ゲルストナーと合流した。レイリス町の往復に何日掛かるか分からないから、エミリアには明日は自習して貰う事にした。

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