第百三十三話「炎の魔術師」
〈翌朝〉
今日からはルナ、クーデルカ、アイリーンと共に行動する。俺はシルフとシャーロットを部屋に置いて、エミリアを迎えに行く事にした。
「エミリア様の魔法授業、サシャがどんな魔法を使うのか楽しみなの。サシャは魔王を倒してから随分強くなったの」
「俺が強くなったのはヘルフリートのお陰かな。海賊船での移動期間で基礎から剣術を教わったんだよ」
「もうあたしではサシャには勝てないの……」
「それはどうか分からないよ。アイリーンだって魔王軍と戦い続けていたじゃないか。アイリーンの戦い方に憧れて槍で戦う兵士が増えたって話をこの前聞いたよ」
俺は以前、城の兵士からアイリーンに関する噂を聞いた。俺は王国に戻ってきてから、仲間の活躍が知りたくて兵士相手に話を聞いて回った事があるからな……。
「知らなかったの……」
少しだけ恥ずかしそうにしながら尻尾を体に巻き付けている。俺達は三階に上がってエミリアを迎えに行った。
「サシャ、今日はシルフとシャーロットは一緒じゃないのね……?」
エミリアは少しだけ残念そうにして雷撃の盾を握っている。なぜ今盾を持つ必要があるかは分からないが、俺が盾を作ってあげてからは肌身離さず持ち続けている様だ。
「その代りに今日は違う仲間が一緒だよ」
「聖戦士様が二人に大魔術師様が一人! 楽しみだわ!」
クーデルカを今日連れてきたのは正解だったかもしれない。エミリアには色々な魔法を見て貰いたいからな。
「それじゃ早速行こうか」
俺はフランシスとオーガを迎えに行ってから城を出た。フランシスとオーガはエイブラハムの助手をしてもらうからだ。ちなみにエイブラハムは本拠地が完成するまで本拠地の土の家に滞在するらしい。城を出ると既にワイバーンとドラゴン達が待機していた。
「フランシスはオーガと一緒にレッドドラゴンに乗ってくれ」
俺はエミリアと一緒にワイバーンに乗り、ルナとクーデルカ、それからアイリーンはブラックドラゴンに乗った。
「それじゃ早速本拠地に向かうよ!」
俺達は今日も本拠地に向けてワイバーンを飛ばした。
「サシャ、授業が終わったらどうするつもり?」
今日はレイリス町で奴隷をありったけ買わなければならない。
「今日は奴隷を買いに行くよ。買った奴隷を解放して俺達の町作りを手伝ってもらおうかと思ってさ」
「奴隷解放に町作り……どんな町になるんだろう!」
エミリアは俺と同じくらい新しい町の完成を楽しみにしている。果たして町の完成とは何をもって完成なのかは分からないが、市民が不自由なく生活出来る環境を作り上げれば完成なのだろうか?
まぁ、難しく考えるより今はひたすら行動だ。行動して失敗すれば目標を再度設定して行動をすればいい。金がある限り、町作りが失敗する事は無いとは思うが……。俺は朝から必要のない事をワイバーンの背中の上で考えていると本拠地に到着した。エイブラハムは朝から土の家の前で何やら作業をしている様だ。俺達がエイブラハムの近くに降りるとすぐに駆け寄ってきた。
「サシャ! ここで一晩過ごしてみたが意外と寂しいものだな。早く仲間を増やしてくれんか?」
「ああ、寂しい思いをさせてごめん。計画通りなら今日、大量の奴隷が仲間になるよ」
「そいつは楽しみだな! 一緒に酒が飲める仲間が欲しいわい!」
エイブラハムは朝から元気だな。レイリス町でエイブラハムのために酒でも買って帰るとしよう。俺はエイブラハムに今日の予定を伝えた後、早速エミリアの授業を始める事にした。
「サシャ、授業の間、私達は何をしていたら良い?」
そう言ったのはルナだった。オーガはエイブラハムと共に作業を始めた様だ。フランシスにはエミリアの授業と並行して剣術を教えよう。城の兵士にも剣術を教える約束をしているが、エミリアの授業中にフランシスを鍛える事が出来れば時間の短縮になるからな。
「そうだね、それなら……クーデルカは俺と一緒にエミリアと魔法の授業をしようか。ルナとアイリーンはフランシスに戦い方の基礎を教えてくれないかな?」
「わかったの! フランシス! 斧を持つの!」
アイリーンは朝からやる気満々だな。フランシスは昨日俺が作った斧で戦い方の練習をするつもりらしい。アイリーンが俺の代わりに鍛えてくれるならそれでも良いだろう。俺は早速エミリアの授業を始める事にした。
「エミリア! ファイアショットを見せてくれるかな?」
まずは復習からだ。エミリアは俺が昨日、木を切っている間にひたすらファイアショットを練習していたらしい。
「分かったわ! 見ていてね!」
そう言って彼女は右手で杖を構えた。杖に魔力を集中させると、杖の先端が激しく燃え出した。炎は瞬く間に球状に変わり、杖から少し離れた位置で宙に浮いている。エミリアは既に球状に作り上げた炎の球を完璧に制御出来るようになったらしい。
『ファイアショット!』
エミリアが宙に作り上げた炎の球を土の壁に目がけて放つと、球はかなりの速度で土の壁に激突し、心地の良い破裂音を立てて消滅した。エミリアのファイアショットは完璧だった。速度、威力、炎の球を生成するまでの時間。ファイアショットはファイアボールとは違い、瞬時に炎の球を作り出して飛ばす魔法だ。
この魔法は、時間を掛けずに魔法を放つ事が大切だ。反対にファイアボールは多少時間が掛かっても威力が高ければ良い。威力の高い炎の球と、威力は低いが発射速度の早い炎の球の攻撃を使い分けられるようになって、初めて初級卒業という感じだろうか。時間が有る時に『火と炎の魔術・初級』を読んで、俺自身が更に魔法を覚える必要がありそうだな……。
「クーデルカ、今の魔法をどう思う?」
俺はクーデルカの意見を聞いてみる事にした。
「威力は低いけど、なかなかの速さね。魔法の制御もかなり上手。流石サシャの弟子と言ったところかしら?」
エミリアはクーデルカに威力が低いと言われた事を少しだけ気にしている様だ。当たり前の事だが、強力な氷の魔法を自由に操るクーデルカの魔法と比較すると、エミリアの魔法はかなり威力が低い。
エミリアのファイアショットは、敵がスケルトンや低級な魔獣相手なら倒せるとは思うが、戦いに慣れている者や高度な知能を持つ魔物には通用しないような単純すぎる魔法だ。更に威力の高いファイアボールを教えるとしよう。
「エミリア、今の魔法はかなり良かったよ。沢山練習したんだね!」
俺がエミリアを励ますと、満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「そうよ、毎日練習しているんだから! 暇な時は常にファイアを作り出しているわ」
偉いな。昔のクリスタルを思い出す。俺は次にファイアボールを教える事にした。