第百三十二話「解放の条件」
談話室での話し合いを終えて部屋に戻った俺は、久しぶりに仲間達とゆっくり遊ぶ事にした。
「サシャ。やっぱりクリスタルはいつか冒険の旅に出るのかな。クリスタルの夢は召喚獣と旅をする事なんだもんね」
ルナはベッドに座ってシルフを抱きしめている。
「そうだね、クリスタルが俺の弟子になりたいって言った日、確か召喚獣と共に旅がしたいって言ってたし、本拠地が完成したら旅に出るのかもしれないね」
「少し寂しくなるけど、今までクリスタルはずっとサシャに守られていたからね。そろそろ自分の力で生きていく事も大切だと思うわ」
クーデルカは優雅に葡萄酒を飲んでいる。今日は紫色のネグリジェを着ていて、彼女の紫色の髪によく似合う。仕事などせずにずっと見ていたい姿だな……。
「俺もそう思うんだよね。フランシスが成長したら、クリスタルの旅を助けられる存在になるんじゃないかなって思って弟子にしたんだけどね」
「そうね。サシャがしっかり育てるなら大丈夫よ」
「うん、頑張ってみるよ」
俺はクーデルカと他愛のない話をしながら葡萄酒を飲んだ。酒のつまみとして、マジックバッグからシュルスクを取り出して食べてみると、みずみずしい甘みが口の中一杯に広がった。
「シルフとシャーロットは明日からパイを作るのよね? もし上手に出来るようになったら町で店を出すのも面白そうね」
「ああ。実は俺もそう思っているんだよ。シュルスクのパイとポーションの専門店が有ったらきっと人気が出ると思うんだよね」
俺がそう言うと、二人共やる気が出たのか嬉しそうに喜んだ。シルフは体が小さいから復興の手伝いや本拠地作りではあまり活躍出来ないだろうから、将来店を出した時に役に立つであろう、シュルスクのパイの作り方を学んでもらう事にした。シルフ一人では心細いだろうから、シャーロットも一緒にパイの作り方を学んでもらおう。それに、料理に興味があるシャーロットが新しい料理を覚えてくれるのは助かるしな……。
「サシャ、奴隷はどれくらい買うつもり?」
具体的な人数はまだ考えていなかったが、可能ならレイリス町で奴隷として販売されている全ての奴隷を買いたい。お金にはかなりの余裕があるし、万が一、足りない様ならアレラ山脈でブラックドラゴンを倒して素材を売るのも良い。まぁ、お金が足りなくなる事は無いだろう。
「犯罪歴が無くて、不当に奴隷にされた者を選んで買い取るつもりだよ。勿論、奴隷として買う前に町作りを手伝って貰えるか確認してからだけどね」
「もしも買った奴隷が逃げ出したらどうするつもり? 町と言っても自由に出入り出来るのでしょう?」
「俺は別に奴隷が逃げ出しても良いと思うんだ。奴隷というか、買い取ってからすぐに解放する訳だから一般の市民なんだけれど。解放されてからどう生きるかは個人の自由だよ。町作りを手伝うか、町で生活をするかは自由に選択してもらう。だけど、俺に協力してくれる者に対しては家と仕事、それから食料を提供するつもりだよ」
「計画は完璧という訳ね」
「ああ、上手く進めばね」
買い取った奴隷の中には、働きたくない者や、以前住んでいた場所に戻りたいという者も居るだろう。だが、別にそれはそれで良い。解放した後の生き方は本人次第だからな。
「サシャは優しいのね……やっぱり私のサシャは素敵よ……」
クーデルカは俺の膝の上に乗って、俺の体を胸元に抱き寄せた。俺の顔にクーデルカの柔らかい胸が当たる。ずっとこうして居たい……。
「クーデルカ、明日も宜しく頼むよ。奴隷商の中には適正な売値以上の値段を提示するような輩も居ると思うんだ。俺は奴隷制度を絶対に許す事が出来ないから、奴隷商に1ゴールドたりとも儲けさせたくないんだ」
「値引き交渉をしなければならないわね」
「ああ、俺達の身分を知ってまで、金額を吹っかけてくる奴が居るならね」
「身分を明かしてから交渉した方がスムーズに進みそうね」
取引の前に身分を明かせば相手は恐縮して適正な価格を最初から提示するだろうか。俺は奴隷商に儲けさせてやるほどお人好しではない。
「サシャ、気をつけてね」
俺を心配したのはシャーロットだった。
「大丈夫なの。あたしが居るの」
「そうだね、俺の飼い猫も居るから大丈夫だな!」
俺はアイリーンを抱き寄せた。
「明日も忙しくなりそうなの。早く寝るの」
そう言ってアイリーンは一人だけ先にベッドに飛び込んだ。不思議な事に、ベッドに飛び込んだはずなのに物音は一切立たなかった。物音が一切立たなかったのは彼女の体の使い方が上手すぎるからだろうか。隠密行動では騎士団の団員で彼女の右に出る者は居ないからな。俺は仲間とゆっくり風呂で疲れた体を癒した後、すぐに眠りに就いた……。