第百三十一話「談話室でのひと時」
俺はそれからフランシスに続いてオーガを紹介する事にした。
「それから、こちらは俺の召喚獣の幻獣のオーガだよ。本拠地作りと警備を任せるつもりだ」
オーガは俺が仲間に紹介すると、跪いて頭を下げた。フランシスよりも遥かに礼儀正しい……。
「マスターの召喚獣のオーガです。宜しく頼む」
「こちらこそよろしくなの。サシャ、随分強い状態で召喚したの」
「あぁ、オーガには本拠地を守って貰うからね。強く生まれるように魔力を込めて召喚したんだよ」
アイリーンはオーガの筋肉を興味深そうに触っている。俺が新しい仲間の紹介すると、国王は待っていたかの様に俺を自分の隣の席に招いた。
「勇者殿、本拠地作りは順調なようですな。エミリアの魔法の授業の進み具合はいかがですかな?」
「はい、エミリアの授業も順調ですよ。授業は私の本拠地で行っています」
「授業も本拠地作りも順調で何よりですな。いつもエミリアと一緒に居てくれて有難う……」
そう言って国王は頭を下げた。
「いいえ、私もエミリアと一緒に居られて楽しいですし、魔法を教える事は私の魔法の訓練にもなるので……」
「そうか。勇者殿はどこまでも謙虚なのだな。エミリアの魔法の授業は別に強制ではないし、勇者殿の好意によって成り立っている事。あまり無理はせずにこれからもエミリアの友達として、先生として接して欲しい」
「わかりました。陛下」
俺がそう言うと、国王は俺の肩に手を置いて微笑んだ。俺はそれから仲間やエミリアとの楽しい会話と共に夕食を存分に味わった。今日はこれからの活動方針について仲間達と話さなければならないだろう。俺はフランシスを兵舎に返した後、新しく仲間になったオーガと仲間達を連れて談話室を利用する事にした。
「皆、楽にしてくれよ。少し今後の事について話があるんだ」
俺は仲間達を談話室のソファに座らせて今後の事について話す事にした。
「まず、本拠地作りに関してだけど、エドガーの兄のエイブラハムに協力をしてもらう事になった。それから本拠地での出店もする事になったらからね」
「本当? エドガーの兄なら頼もしいわね」
「次に、シルフとシャーロットは明日からパイ作りを学ぶ事になったよ、しばらくの間は別行動になるからね」
俺がそう言うと、ルナは不思議そうな顔で俺を見た。
「パイって言うのは、俺も良く分からないんだけど、パンのようなお菓子なんだよ。シュルスクって言う果実をお菓子の中に入れて焼くらしいんだよね」
「そうなんだ。シルフとシャーロットの料理か……食べてみたいな!」
ルナは無邪気に喜んだ。
「それから、俺が以前レイリス町で奴隷を買った事を覚えているかな? セシリアとアリス、それからアラスターの事だけど。俺は明日、ゲルストナーと共にレイリス町に行って奴隷を買おうと思う。勿論、買った奴隷はすぐに解放して、町の市民として生活をして貰う」
「師匠。どこまでも考える事が凄いんですね……私、やっぱり師匠の事をサシャなんて呼べません。報酬を自分のために使わず、奴隷を解放するために使うなんて……」
「ああ、とんでもない事を想いつく男だよな。全く」
クリスタルとゲルストナーは微笑みながら喜んだ。
「奴隷を解放するの? 私も行きたい!」
そう提案したのはルナだった。最近はシルフやシャーロットと一緒に居る時間が長く、ルナとはあまり遊べて居ないから、そろそろ復興の手伝いより本拠地作りを優先して貰おう。
「明日からは本格的に本拠地作りが始まる。ルナとクーデルカとアイリーンは明日から俺の手伝いをしてくれないかな。クリスタルは引き続き、ガーゴイルとサイクロプスと共に復興の手伝いを頼むよ」
クリスタルを復興の手伝いの要因として残すのは、魔王軍との戦いで市民達を直接救出して信頼されているからだ。魔王を倒しただけの俺よりも、直接市民を救ったクリスタルが王国内で復興の手伝いをしていた方が、市民や冒険者達も俄然やる気が出るだろう。
「明日からやっと私のサシャと居られるのね。長かったわ……」
「そうなの。たまには飼い猫とも遊ぶの」
ルナもクーデルカもアイリーンも最近少し放置気味だったからな。勿論、俺はいつでも仲間の事を想っているが、最近は忙しすぎて仲間と遊ぶ時間すらほとんど作れなかった。
だが、俺は忙しい事は良い事だと思う。それに、本拠地作りのために俺が知恵を出して忙しく動けば、今現在苦しんでいる奴隷達をすぐに解放してあげる事が出来る。自分が苦労して誰かが楽を出来るならそれで良いのではないだろうか。今の俺には魔王討伐者としての名声とアルテミスの勇者の称号もある。
奴隷制度のような容認すべきではない制度がこの大陸に蔓延している限り、真に平和な世界を作る事は出来ない。自分達だけが楽しんで生きられる本拠地を作る事ならすぐにでも出来るだろう。
だが、この世界の自分の目が届かない所で、奴隷達が苦しんでいる事を知らないふりをして生きるのは俺の生き方ではない様な気がする。俺の様に称号や力を持つ者が、自ら率先して奴隷制度の廃止のために動かなければならないと思う。奴隷制度の廃止と言うか、奴隷の解放だが……。
「明日も早いからそろそろ解散しようか。ゲルストナー、明日はエミリアの授業が終わったら迎えに行くよ」
「あぁ。分かったぞ」
俺は談話室での報告を終えて部屋に戻った。オーガは体が大きすぎて部屋には入れなかったため、ユニコーンやヘルハウンドと共に中庭で過ごして貰う事になった。さて、今日も色々な事があったな……。俺は部屋に入ってマントを脱ぐとベッドに腰を掛けた。