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第十三話「旅支度・後編」

 露店街で宴のための手土産を選ぶ事にした。リーシャ村産の芋から作ったお酒を見つけたので、上等の物を一本購入した。十五歳で成人を迎えたのだから、今日の宴でお酒を飲んでみようか。手土産も準備出来たので、俺はルナを連れて町の外に出る事にした。


 自分自身の戦い方を編み出さなければならない。キングの様に強力な魔法は使えないだろうが、スケルトンとの戦闘で、武器に魔力を込める感覚も習得出来た。自分だけの魔法を作り出す事が出来れば良いのだが……。


 ルナをユニコーンに乗せて、暖かい森の中を進む。途中でスケルトンと出くわしたが、魔力を込めた突きを放って討伐した。新たな魔法を生み出すのなら、土の魔法が良いのでは無いだろうか。俺は十五歳まで農業に携わっていた。毎日触っていた土なら自由に制御できると思う。早速新しい魔法を練習してみよう。


 廃坑の入り口に来ると、ルナをユニコーンから降ろした。ここでキング達を待ちながら新たな魔法を創造しよう。地面に手を触れて魔力を感じ取る。やはり俺と土は相性が良いのだろう、大地から暖かな魔力が体に流れる。土から魔法を作り出す……仲間を守るための壁を作ってみようか。大地に魔力を込めると、目の前には背の高い石の壁が出現した。


 魔法が使えた! 魔法とは通常、魔導書を用いて習得すると以前書物で読んだ事があるが、自分自身の魔力の波長と近い素材なら、自在に作り出す事も出来るとも書いてあった。魔力を放出して土を制御するだけで、自在に形を作る事が出来る。俺は土の壁を作り出す魔法を、アースウォールと名付けた。


「ルナ、これが俺の新しい魔法だよ。魔法が使えた!」

「凄いね。ルナも魔法を見せてあげる」


 ルナは土の壁に左手を向けると、風の魔力が炸裂した。ルナの左手には強い風が発生し、風の中から弓が現れた。魔力から作られた弓を射ると、紫色の矢が放たれた。ルナが放った魔法の矢は土の壁をいとも簡単に貫いた。


「今のがウィンドアローだよ」

「ハーピーの固有魔法か。凄い力だね」


 俺は再び土の壁を作り上げた。今度は負けられない。生まれたばかりのルナに負けるなんて悔しいからな。体内から魔力を放出し、土を作り出して壁を作る。ルナはサーペントのレイピアを抜くと、レイピアを頭上高く掲げた。目を瞑って精神を集中すると、剣を包み込む様に強烈な風の魔力が発生し、サーペントの魔力がルナの魔力に融合した。


 ルナがレイピアを振り下ろすと、紫色の魔力から作られた刃が発生した。三日月状の刃は土の壁をいとも簡単に切り裂くと、木々をなぎ倒しながら遥か彼方まで飛んで行った。


 きっと今の魔法がウィンドカッターなのだろう。やはり幻魔獣とは人間を凌駕する魔法能力の持ち主なのだ。一体で国一つを滅ぼす力を持つのだから、俺の様な村人上がりの冒険者が敵う相手ではないだろう。何だか虚しくなってきたが。だが、俺は自分自身の戦い方を追求するまでだ。他人と比較する必要はない。自分に出来る努力をすれば良い。


 暫く土の壁を作る練習を続けていると、キング達が戻ってきた。キングに新たな魔法を披露すると、彼は俺を抱きしめて賞賛してくれた。ルナが楽しそうに土の壁を破壊すると、キングは寂しそうな表情を浮かべた。


 それから俺はキングに宴に招待された事を伝えた。宴に参加するメンバーは、俺、キング、ルナ、ゲルストナーだ。ユニコーンとスケルトン達には留守番を頼もう。廃坑の前で魔法の練習をしてから宿に戻ると、シンディさんが退屈そうに俺の帰りを待っていた。


「サシャ、宴の迎えに来たよ。ずっと待ってたんだからね」

「シンディさん、わざわざありがとうございます!」

「良いのよ……サシャに会いたかっただけだから」

「それでは行きましょうか。ユニコーン、スケルトン達、直ぐに戻るからね」


 俺はスケルトン達にお金を渡し、宿で食事をするようにと伝えると、彼等は楽しそうに宿に入って行った。シンディさんに案内されて宴の会場に向かうと、会場には多くの冒険者や町の人達が集まっていた。どうやら宴は町長の屋敷で行われるらしい。


「やっと主役が来たか」

「ゲルストナー。待ちましたか?」

「さっき来たところだよ」


 ゲルストナーと合流し、町長の屋敷に入った。屋敷の一階部分が来客スペースになっているみたいだ。屋敷に入るや否や、町長が駆けつけてきた。


「ボリンガー様。本日はお越し頂き、ありがとうございます」

「ご招待ありがとうございます。これ、俺の村のお酒なんです。良かったらどうぞ」

「リーシャ村の酒ですか。ありがたく頂きます。さぁ、どうぞ中へお入り下さい」


 屋敷の中にはテーブルが並べられており、テーブルの上には様々な料理が置かれている。肉料理やサラダ、デザートなど。随分とお金が掛かった宴なんだな。ますます招待された意図を知りたくなった。町長の隣の席に座ると、町長が乾杯の音頭をとった。


「町長、今日は招待して下さってありがとうございます」

「いえいえ。私は是非、ボリンガー様にお会いしたかったのですよ」

「お会い出来て光栄です。しかし、招待された意図が分からないのですが…… 俺達は町の周辺に巣食う魔物を倒しただけですし」

「実は……ボリンガー様。このフィッツ町は魔物からの襲撃で人口が減りつつあるのです。最近、冒険者の間では、『フィッツ町は魔物すら自分達の手で退治出来ない、観光する価値も無い町』と噂されております。そんな噂がしばらく続いた頃、町にボリンガー様が来られました」

「そんな噂が流れていたんですね」

「はい。ボリンガー様が来られてからは、廃坑内から湧いて出た魔物が町を襲撃したり田畑を荒らす事もなくなりました。目に見えて町周辺の環境が変わったのです。そこで私は考えました……フィッツ町をボリンガー様の配下に入れては貰えないでしょうか?」


 配下だって? 駆け出しの冒険者である俺の配下に入って何の意味があるのだろうか。きっと俺のレベルの高さや称号を知ってこの様な頼みをしているのだろう。高レベルの冒険者の配下に入るメリットが存在するのだろうか。勇者や賢者などの称号を持つ人間でもせいぜいレベル60程度だ。


 レベル85か……キングを召喚した事により、石碑から生前のキングの魔力が流れ、俺自身が強力な魔力の使い手になってしまったのだろう。町長の話によると、町に召喚獣を滞在させて、フィッツ町周辺に巣食う魔物を討伐して欲しいのだとか。報酬として、町の税収の5パーセントを頂けるらしい。契約金として千ゴールド、それから召喚獣のための屋敷を頂けるらしい。


 ゲスルトナーの方を見てみると、彼は俺に向かってウィンクをした。ゲルストナーはこの申出を受けた方が良いと判断しているみたいだ。


「その提案、是非受けさせて下さい」

「という事は、ボリンガー様の配下に入れて下さるのですね?」

「はい。俺達の力で町をお守りします」


 フィッツ町が俺の配下に入る事が決まった瞬間、会場には熱狂的な歓声が沸き起こった。ゲルストナーが葡萄酒の入ったゴブレットを俺に渡すと、俺は葡萄酒を飲んだ。爽やかな酸味が口に広がった。まさか町を一つ配下に入れる事になるとは思いもしなかったな……。


 それから俺は宴の参加者達に挨拶をして回った。参加者の中に馬車を作る職人も居たので、馬車の注文をしておいた。馬車は一週間もあれば完成するらしい。それからルナやキングと一緒に料理を頂き、葡萄酒を飲んだ。仲間達と次の目的地について相談すると、アルテミス王国に行く事が決まった。大陸で最高の冒険者になると決めているのだから、冒険者が最も多い国で名を上げる事にした。


 暫く葡萄酒を飲んでいると、酔いが回ってきたので、俺達はゲルストナーよりも一足先に会場を後にした……。

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