第百二七話「フランシスの滞在先」
木を切り終えて本拠地に戻ると、エミリアは優雅に紅茶を飲んでいた。なぜがワイバーンもエミリアと共に紅茶を飲んでいる。小さなカップに舌を付けて舐めているのだ。紅茶の味が分かるのだろうか、美味しそうに微笑みながらエミリアを見つめている。
「エミリア、今日の授業は終わりにしようか。城の中で魔法を練習する時は、ファイアの威力を高める練習をする事。基本が大事だよ。ファイアショットは危険だから使わないようにね」
「分かったわ! 早速お城に戻りましょう!」
俺はブラックドラゴンの背中にはフランシスとガーディアンを、レッドドラゴンの背中にはオーガを乗せて王国に戻った。勿論俺とエミリア、シルフにシャーロットはワイバーンの背中に乗った。今日はまずフランシスの滞在先を探さなければならない。流石に騎士団の団員と同じ部屋に寝かせるのはまだ早いだろう。俺は大臣にフランシスの事を相談してみる事にした。
「エミリア、明日も同じ時間に迎えに行くからね」
俺はエミリアとは城の前で別れた。
「分かったわ! 今日もありがとう! それじゃ夕食の時に会いましょう! 私の勇者様!」
エミリアは元気に挨拶をすると走って城の中に戻った。さて、まずはフランシスの滞在先を探そう。俺はシルフとシャーロットと共に城に入った。俺の召喚獣である、オーガに関しては無条件で城に入る事が出来る。俺達は大広間に入ると大臣の姿を見つけた。大臣は俺の姿を見つけると、笑顔で駆け寄ってきた。
「ボリンガー様! アルテミシア市民の移住の募集を始めましたよ!」
「ありがとうございます。それから、大臣。実は相談があるのですが」」
俺はフランシスの事を全て話した。
「昨日陛下と話していた少年の事ですね。それでは兵舎の利用を許可しましょう。ボリンガー様の頼みですからね、それから……」
大臣は改まって俺の顔を見た。
「もし、可能でしたらそのフランシスという少年に剣術を教えるついでに、城の兵士にも剣術を教えて貰っては頂けないですか……? ボリンガー様とルナ様が稽古をした日から、ボリンガー様から剣術を習いたいという者が後を絶えないのですよ。無理なお願いだと思っていたので兵士からの申し出は全て断ったのですが……」
フランシスに兵舎を利用させる代わりに兵士の稽古をしてくれと言う事か……。大臣もなかなか策士だな。そんな事で良いなら喜んで力を貸そう。フランシス一人に教えるのも、兵士達に教えるのもほとんど変わりはないからな。俺が剣術を教えるよりアイリーンかゲルストナーの方が先生として適任だとおもう。俺の場合は剣術だけではなく、魔法と召喚を組み合わせた戦い方をするからな……。
「勿論、お教えしましょう。大臣、フランシスを連れてきます」
俺はすぐにフランシスを大臣の元に連れてきた。
「私は勇者ボリンガー様の弟子、 フランシス・アヴァロンです!」
フランシスは元気よく大臣に挨拶をすると、大臣はその場で兵舎の使用許可書を作成した。勿論、念のためフランシスのギルドカードを確認して身分を確かめた。
「兵舎も食堂も自由に使って下さい。それではボリンガー様。稽古の件、よろしく頼みましたぞ」
そう言って大臣は嬉しそうに仕事に戻った。
「良かったな! フランシス! 兵舎を自由に使えるぞ!」
「はい! ありがとうございます! アニキ!!」
フランシスは初めて城に入ったのか、嬉しそうに辺りを見回している。これでフランシスの滞在先も決まり、今日はこれからゲルストナーとエイブラハムと合流し、町の開発について話し合えば良いだけだ。俺は早速町に出てゲルストナーを探しに向かった。勿論、フランシスやドラゴン達、オーガ、シルフとシャーロットも一緒にだ。
町でゲルストナーを探しているとギルド区でゲルストナーを見つける事が出来た。ゲルストナーが俺の姿を見つけると、彼はあんぐりと口を開けて新しい召喚獣を見た。一日の間にオーガ、ブラックドラゴン、レッドドラゴンとフランシスが仲間になれば誰でも驚くだろう。
「サシャ! 随分と賑やかになったな! オーガにブラックドラゴン、それにレッドドラゴンだな」
俺はゲルストナーにフランシスを弟子にした事。それから本拠地で木を切った話や新しい仲間を召喚した事を伝えた。
「確かに、ドラゴンが居れば人や物資を運びやすくなるだろうな」
ゲルストナーは嬉しそうにドラゴン達とオーガを見てからフランシスの前に立った。
「どうも俺は昨日からこういう展開になるのではないかと思っていたよ。俺はボリンガー騎士団副団長、聖戦士のゲルストナー・ブラックだ。よろしくな」
「ボリンガー様の弟子になったフランシス・アヴァロンです。宜しくお願いします!」
ゲルストナーはフランシスと硬く握手を交わした。それから俺達はすぐにエイブラハムを迎えに店まで行った。この店には何度来たのだろうか。俺は店の扉を開けると、エイブラハムは工房の奥から駆けつけてきた。
「本拠地に行くのか! 昨日の若造も一緒かなんだな!」
「ああ。エイブラハムさえ大丈夫ならこれから本拠地に行こう!」
「勿論大丈夫だ。今日はもう店を閉める! 早速本拠地を見せてくれ!」
エイブラハムは工具や紙、羽根ペンなどを詰めた巨大な箱を店の奥から持って来てドラドンの背中に乗せた。
「良いドラゴンだな! もしかしてエドガーが倒したレッドドラゴンと同じ種族か?」
「そうだよ。エドガーから貰ったレッドドラゴンの素材を使って今日召喚したんだ」
貰ったというか、エドガーとの喧嘩に勝って頂いた素材だ。俺はふと、エドガーとの出会い方も、フランシスとの出会い方もさほど変わりは無かった事に気が付いた。
エイブラハムはレッドドラゴンの背中に荷物を固定してから背中に飛び乗った。ゲルストナーとフランシスはブラックドラゴンの背中に乗った。このブラックドラゴンは以前、俺達がアレラ山脈の麓で倒したブラックドラゴンの素材から召喚した幻獣だ。ブラックドラゴンを倒した事が遥か昔の事のように感じる……。俺とシルフとシャーロットはいつも通りワイバーンに乗った。ガーディアンは今日はもう活躍の機会が無いと思ったから帰還させておいた。
「それじゃ早速本拠地に行こうか!」
俺達はワイバーンとドラゴンを飛ばして本拠地に向かった……。