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第百二十六話「開拓」

 俺は召喚を終えるとフランシスとオーガのための斧を作る事にした。フランシスの使う斧は白銀のインゴットとブラックライカンの爪を。オーガのためにはミスリルのインゴットと幻獣ブラックライカンの爪を使って作る事にした。


 オーガが使う斧の方が素材が高価なのは、フランシスには最初から最高の装備を与えてはいけないと思ったからだ。フランシスには白銀のインゴットを使った斧を作った。斧の名前は「ブラックライカンの斧」と名付けた。


「フランシス、これは新しい装備だよ。手入れを忘れずに大切に使う様に」

「ありがとうございます! 勇者様!」


 フランシスは俺から斧を受け取ると、嬉しそうに喜んだ。


「フランシス、俺の事は勇者様なんて呼ばなくても良いぞ」

「本当ですか? それなら……アニキって呼んでも良いですか?」


 何を考えているんだか……。まぁ、勇者様と呼ばれるよりは遥かに良いだろう。勇者と呼ばれると、自分自身が立派に生きなければならないような、窮屈な気持ちになるしな。


「ああ、好きに呼んでくれて構わないよ」


 俺は引き続き、オーガのための斧を作った。斧の名前は「祝福されたブラックライカンの斧」と名付けた。オーガに渡す方の斧には、魔力を増幅させるエンチャントを掛けた。巨大な斧で、俺の力では持ち上げるだけで精いっぱいだ。オーガは俺から斧を受け取ると、片手で軽々と持ち上げた。


「ほう! 良い斧ですな!! 大切にしますぞ!」


 オーガは斧を眺めて喜んでいる。巨体のオーガに巨大な斧、どう見ても魔王城に居たオーガより強そうだな。一緒に木を切る俺は使い慣れたデュラハンのブロードソードを使う事にした。斧の様な使い方は出来ないが、一撃で木を根元から切れば良いだけの事だ。


 さて、俺達は早速片っ端から木を切る事にした。ミリアには引き続きファイアショットの練習をさせた。勿論、エミリアを一人にする事は危険だから、シルフとシャーロット、それからワイバーンとガーディアンには傍に居て貰う事にした。俺は切った木を運ぶためにも、ドラゴン達を引き連れて森の中に入った。


「アニキ。アニキはどこで生まれたんですか?」

「俺はリーシャ村っていう小さな村の出身だよ。十五歳の成人の日に冒険者を目指して旅に出たんだ」

「リーシャ村……いつかアニキの生まれた村に行ってみたいです」

「そうだな、いつか皆で行こうか」


 俺はフランシスと話していて、帰れる家がある事の幸福に気が付いた。フランシスは家族を殺されて帰る家もない。俺がフランシスを弟子にしなかったら、自分でお金を稼いで生きていく事も出来なかったのではないだろうか。


 もしくは……盗賊の様に力で相手から金や物を奪うような人間になっていたのではないだろうか。幼い者を守るのは目上の仕事。目上と言っても俺とフランシスは三歳しか違わないらしい。だが、俺は自分がフランシスに教えられる事は多いと思っている。


「アニキ、今日はどこに泊まるんですか?」

「今日は城で泊まるよ。フランシスの滞在が許可されるかは分からないが、もし許可が貰えなかったら宿をとるよ」

「そうですか……何から何までありがとうございます。俺、アニキみたいに強い男になります!」


 フランシスは真っ直ぐな目で俺を見た。今ならはっきり分かる。エイブラハムがフランシスを認めた理由が。フランシスは道を間違わなければ偉大な男になるだろう。俺がしっかりと鍛えてやらなければ……。


「マスター。このあたりで木を切りましょうか」


 マスター? 日はひたすら変なあだ名が付く日だな。オーガは俺の事をマスターだと思っているらしい。頼もしい仲間が生まれて良かった。オーガのためにエイブラハムに装備を作って貰うのも良いかもしれないな。後でエイブラハムに相談してみよう。


「そうだね、早速木を切ろうか」


 俺は本拠地の中央から少しだけ離れた場所から木を切り始める事にした。デュラハンのブロードソードを鞘から抜いて構えると、俺は木に切りかかった。


『スラッシュ!』


 俺はブロードソード魔力を込めて水平切りを放つと、巨大な木はバターの様に簡単に切れた。


「アニキの剣術凄いです! 俺もやってみたいです!」

「フランシス、オーガ、今の技はスラッシュだよ。魔力を込めた水平切りさ。二人ともやってごらん」


 俺は二人に手本を見せると、まずは最初にオーガが斧を構えた。俺の動きを忠実に再現して斧を水平に走らせた。


『スラッシュ!』


 オーガがありったけの魔力を込めて水平切りを放つと、目の前の巨大な木は一撃で根元からへし折れた。


「凄いな! オーガ! スラッシュを一発で覚えるなんて……」

「マスター、俺の体を流れる魔力が教えてくれたのさ……」


 俺は今日一番格好いいセリフを聞いた気がする。オーガの言った言葉は間違いではない。彼の体には俺の魔力とデュラハン、ヘルフリートの魔力が流れている。スラッシュを一発で使えるのも理解できる。


「俺もやってみます!」


 フランシスは斧に魔力を込めてスラッシュを放った。


『スラッシュ!』


 ブラックライカンの魔力を纏った白銀の斧は、巨大な木に強烈な一撃を与えた。フランシスのスラッシュは成功したが、一撃で木を切り倒す程の威力は無かったようだ。それからフランシスは魔力を使い果たす一歩手前まで木に斧を振り続けた。フランシスがスラッシュを八回放った時、やっと木を切り倒す事が出来た。


「フランシス! 上出来だよ! これで今の給料は1ゴールドだな! 魔力に気をつけながら切り続けるんだよ」

「はい、お任せください!」


 俺はフランシスやオーガと共に、ひたすら木を切り続けた。俺達が切った木はドラゴン達が軽々と前足で持ち上げて本拠地まで運んだ。久しぶりの肉体労働は楽しい。森の中で作業をしていると、リーシャ村で母さんと一緒に住んでいた頃を思い出す。


 あの頃は朝起きてから晩まで、ひたすら農作業に明け暮れていた。今の生活とは大違いだな……。冒険に出てから色々事があったが、今はこうして最高の仲間に囲まれて人の役に立てる人生を送れるようになった。俺はこの本拠地を最高の町にしよう。


 レイリス町で奴隷を買い取ってこの町に住まわせるのも良いかもしれないな。俺は以前から奴隷制度には反対だ。金には余裕があるし、高価な幻獣の素材も余っている。買えるだけ奴隷を買おう……。勿論、奴隷は買い取った後、すぐに奴隷契約を破棄する。


 移住を希望する者には無料で家を提供しよう。立派な家ではないが、土の家なら無制限に作る事も出来る。奴隷として生きるよりは、俺の町の市民として、新しい人生を歩む方が良いのではないだろうか。


 勿論、奴隷の意思を確認してから、新しい人生を望む者だけを買い取るつもりだ。早速明日、奴隷市に顔を出してみるか……。俺達は疲れ果てるまで木を切ってから、エミリアが授業をする本拠地の中心に戻った。

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