第百二十五話「新たなる幻獣の誕生」
「フランシス! 剣術の授業を始めようか」
「はい! お願いします!」
俺がフランシスに声を掛けると、彼は大きな声で嬉しそうに返事をした。完璧に改心をした様だ。剣術の授業はまずは基礎体力作りから始める事にした。俺の場合は長い間、母と共に農業をしていたせいか、基本的な体力や筋力は冒険に出る前からある程度備わっていた。冒険出てからも剣術の訓練をし、海賊船の上でも毎日ヘルフリートからしごかれた俺の体は筋肉も増えて以前とは比べ物にならない程逞しく成長した。
フランシスには剣術と体作りを並行して行ってもらおう。ちょうど本拠地を作るこの大地は森林地帯だ。巨大な木々が鬱蒼と茂るこの土地は、木を切らなければ町作りも始められないだろう。俺はフランシスと共に木を切って筋力と体力を付ける事にした。剣の使い方を学ぶよりは、まず精神的に成長して欲しい。
勿論、タダでこき使う訳ではない。切った木の本数だけお金を渡す事にした。これは稽古でもあるが、本拠地を作るための仕事でもあるからな。フランシスが従者を目指す俺の弟子だとしても、俺は彼を奴隷の様に扱う気はない。他の仲間と同じように接するつもりだ。
「フランシス! 一緒に木を切ろうか! 筋力と体力を増やすのも剣術の訓練の内だぞ。それから、木を一本切るごとに1ゴールド払おう」
「1ゴールド? そんなに貰って良いんですか?」
フランシスは木の剣を投げ捨てて嬉しそうに俺に駆け寄ってきた。
「ああ、これは稽古でもあるが仕事でもある。切った本数に応じてお金を払うからね。俺が払ったお金は自由に使うと良い、お金を貯めて装備を揃えるのも良いだろう。それから、俺の弟子になったフランシスには毎日の食事と寝床、生活に必要な物は全て用意する。生活面に関して心配する必要はない。稼いだお金は好きに使いなさい」
俺がそう言うとフランシスはガッツポーズを取った。
「ありがとうございます! 俺! ひたすら木を切りますよ!」
「お互い頑張ろう。俺は本拠地のために、フランシスは強くなるために!」
「はい! 頑張ります!」
俺はすぐにフランシスが使うための斧を作る事にした。斧はマジックバッグに仕舞ってあった素材を使って作る事にした。流石に今のフランシスでは通常の斧で木を切るような力はないだろう。彼は肉体労働とは無縁だったかのような体をしているからな。俺はマジックバッグを覗いて使えそうな素材がないか確認した。
「幻獣ブラックライカンの爪」2「幻獣ブラックライカンの牙」×2「幻獣・ブラックドラゴンの牙」「幻獣・ブラックドラゴンの翼の破片」「幻獣・ブラックドラゴンの爪」「幻獣・ブラックドラゴンの心臓」「幻獣・デーモンの頭骨」「幻獣・レッドドラゴンの頭骨」「幻獣・オーガの頭骨」「幻獣・オーガの右腕」「幻獣・オーガの左腕」
金属に関してはオリハルコンのインゴット、白銀のインゴット、金のインゴット、『ミスリルのインゴット等、使いきれない程の金属がある。
金属と幻獣の素材を溶かして強力な斧を作る事にした。それから、木を切るだけでは土地を広げる事は出来ない、木の根も抜く必要がある。新しく幻獣を召喚して木の根を抜いてもらおう。本拠地を本格的に作り始めるなら、この土地を守る事の出来る召喚獣が必要だ。
ブラックライカンはクーデルカがトラウマを持っているから却下。木の根を抜く要因として、俺は「幻獣・オーガの頭骨」を使ってオーガを召喚する事にした。オーガは魔王城で俺と対決した幻獣。言葉も自由に操れる高度な知能を持った幻獣だ。オーガは俺がサンダーボルトのエンチャントを掛けたソニックブローを両手で受け止めた、信じられない程の怪力の持ち主だった。きっとオーガなら本拠地作りの役に立ってくれるに違いない。俺は早速オーガを召喚する事にした。
「シルフ、シャーロット、新しい仲間を召喚するからね」
俺は地面に上級召喚書を置いて、オーガの頭骨を乗せた。召喚も久しぶり行う気がする。俺は最近、自分が召喚士だと言う事を忘れそうになる時がある。剣術も魔法も最近はかなり得意にはなったが、俺のルーツは召喚魔法だ。俺は召喚魔法の力を使ってここまで生き延びた……。
召喚の準備が整うと、上空から獲物を探していたワイバーンが下りてきた。新しい仲間の誕生を見届けに来たようだ。俺は地面に置いた召喚書とオーガの素材に魔力を込めると、召喚書と素材は辺りに強い魔力を放って輝き始めた。以前、魔王城で出会ったオーガの様な禍々しい魔力は感じられず、俺とデュラハン、ヘルフリートの魔力を吸収した素材からは、暖かくて優しい魔力を感じる。
『オーガ・召喚!』
俺がありったけの魔力を込めると、俺の魔力を糧にして光の中からオーガが現れた。頭には二本の角が生えており、巨大な人間の様な見た目をしている。真っ赤な体は筋骨隆々で、以前魔王城で出会ったオーガを思い出す。無事に召喚に成功したみたいだ。シルフもシャーロットも新しい仲間の誕生を喜んでいる。ワイバーンも翼を広げて嬉しそうにしている。オーガは俺の前に立つとおもむろに跪いた。
「俺はアルテミスの勇者、サシャ・ボリンガーだ。オーガ、君の力を貸してくれないか?」
俺がオーガに頼むと、跪いたままの状態で返事をした。
「勿論です。このオーガ、全ての力をあなたのために使います」
頼もしい仲間が生まれた。やっぱり言葉を話せる仲間は楽でいい。俺はオーガを立たせると、ボリンガー騎士団の活動や町作りの事を説明した。
「ほう……それは楽しそうですな。早速取り掛かりましょう!」
オーガは生まれたばかりなのに賢くて頼りになりそうだ。オーガの体からはかつてのヘルフリートやデュラハンの魔力を感じる。彼ならきっとこの地を、本拠地を守ってくれるだろう。
それから、王国からの資材の運搬や、人の運搬をするために更に幻獣を召喚する事にした。ワイバーンは移動手段として優れているが、背中に乗せる相手を選びすぎる。俺はワイバーンよりも位が低い、レッドドラゴンとブラックドラゴンを召喚する事にした。ドラゴンが二体居れば、移住希望する者をすぐにこの地まで運ぶ事が出来るだろう。
勿論背中に乗せてだ。それに、フランシスをここまで移動させるのに、毎回ワイバーンの口に咥えさせるのも良くないからな。俺は早速「幻獣・ブラックドラゴンの心臓」と「幻獣・レッドドラゴンの頭骨」を使って新しいドラゴンを召喚する事にした。ワイバーンが俺がマジックバッグから素材を取り出すと嬉しそうにはしゃいだ。ワイバーンはドラゴンではないが、系統の近い仲間が生まれる事を喜んでいる様だ。俺は早速召喚の準備をしてからブラックドラゴンとレッドドラゴンを召喚した。
ブラックドラゴンはかつてアレラ山脈で遭遇したドラゴンより遥かに強力に生まれた。レッドドラゴンは初めて目にするが、確かこの素材はエドガーから頂いた物だった。どちらのドラゴンも賢そうで、体はワイバーンより一回りだけ小さい。資材の運搬と本拠地の警備、それから移住希望者の移動手段としてこれから活躍してもらおう。俺は召喚を終えると、フランシスとオーガのための斧を作り始めた……。