第十二話「旅支度・前編」
俺はルナとユニコーンを連れて露店街に向かった。旅に出る前にルナの装備を整える必要があるからだ。まずはルナのための武器を買う。軽くて殺傷力の高い物を選ぶつもりだ。ルナは翼を使って自在に空を飛べる訳だから、彼女の敏捷性を活かせる武器を選ばなければならない。
それから防具や日用品も必要だろう。旅に必要な食料や馬車なども買う必要がある。ゲルストナーから借りたお金で必要な物を買い揃えよう。まずは装備を買うために、シャーローンさんの店に向かう事にした。
ユニコーンにルナを乗せて町を歩くだけでも随分目立つ。ルナの容姿に見とれる男も随分多く。ユニコーンが珍しいのか、辺りには人だかりが出来ている。シャーローンさんの店の前でユニコーンを待たせ、ルナと共に店内に入る。
「いらっしゃい。今日は何を探しているんだね?」
「こんにちは。実は旅の支度のために来たのですが、この子のための武器と防具、それから俺が装備する防具を買おうと思いまして」
「そうか。直ぐに用意しよう!」
「いつもありがとうございます」
しばらくしてシャーローンさんはルナのための防具を持ってきた。デザインが統一されているセット装備だ。足の先から膝までを覆い隠すグリーヴと、ガントレット、それからメイル。デザインは白銀をベースにして金の装飾が施されている。
防具の名前は疾風のライトグリーヴ、疾風のライトガントレット、疾風のライトメイルだ。疾風装備は全てマジックアイテムなのだとか。移動速度や攻撃速度などを増加させる効果があるらしい。
それからシャーローンさんは俺の装備も持ってきてくれた。守護のライトグリーヴ、守護のライトメイル。どうやら俺の装備もルナの防具と同じ素材で作られた物らしい。ガントレットは父の遺品のグラディエーターのガントレットを使う。シャーローンさんが持ってきた装備をルナに着せてみた。
「これがルナの新しい装備だよ」
「サシャ、体が軽いよ!」
「ああ。それが疾風のマジックアイテムの効果だ」
「シャーローンさん。どうやらルナと疾風の装備は相性が良いみたいです。この装備に決めました」
「そうかい、そいつは良かった!」
シャーローンさんの説明によると、同一の効果を持つマジックアイテムを三点以上装備すると、マジックアイテムの効果が増幅するのだとか。ガントレットも守護の効果を持つマジックアイテムにすれば、更に防御力を上げる事が出来るらしい。
父のガントレットは、シャーローンさんの提案により、首飾りに作り変える事にした。ガントレットを溶かし、効果をそのままで首飾りに作り直す事も出来るらしく、仕上がりは三日後になると説明を受けた。それから俺はルナのための武器を選ぶ事にした。広い店内をルナと一緒に見て回る。
「ルナ、軽くて使いやすそうな武器を選んでごらん」
「わかったわ」
ルナは数ある武器の中からレイピアのコーナーで立ち止まった。壁には何本ものレイピアが掛かっている。ルナは一振りのレイピアを手に取った。俺は幻魔獣の判断を信用する事にしている。すると、一部始終を見ていたシャーローンさんが唸った。
「サシャの連れは目が高いな! それはサーペントのレイピアと言ってな。大蛇・サーペントの毒牙を金属に溶かして作ったレイピアだ。サーペントは主に奇襲を得意とし、鋭い牙で魔物や冒険者などを見境なしに殺す生物だ」
「サーペントのレイピアですか……ルナ、この武器が良いのかい?」
「うん。これにする」
ルナが鞘からレイピアを引き抜くと、紫色の魔力が刃を包んだ。ルナがレイピアを握り締めると、爆発的な魔力が魔力が店内に流れた。これがハーピーの魔力か……やはりルナも幻魔獣なのだ。人間の俺とは比較にならない力を持っている。
ルナが剣を振ると、剣からは紫色の魔力を纏う風が吹いた。心地良くも力強い魔力を肌に感じる。ルナが突きを放つと、爆発的な風が飛び出した。
「ルナ。随分剣の扱いが上手いんだね」
「何だかサーペントが戦い方を教えてくれるみたいなの」
「それは武器と相性が良いからだろうな。サーペントがハーピーに力を貸すとは……この武器はどの冒険者が手に取っても魔力を放出する事は無かった。自分よりも弱い存在に力を貸すつもりがなかったのだろう」
ルナの剣技を見て俺は焦りを感じた。魔法ではキングを超える事は出来ないだろう。剣の扱いではルナの足元にも及ばない。生まれ持った力が違う。もしかすると騎士団で一番弱いのは俺なのではないだろうか。強い魔物を侍らせているだけの人間にはなりたくない……。
俺は召喚士ではあるが、召喚魔法を使った戦い方も知らない。早めに自分自身の戦い方を編み出す必要がある。シャーローンさんから装備を買い取り、全て身に付けてからギルドカードを確認してみた。
『幻魔獣 LV0 ルナ』
武器:サーペントのレイピア
防具:疾風のライトグリーヴ・ライトガントレット・ライトメイル
魔法:ウィンドアロー ウィンドカッター
効果:疾風(移動速度上昇、攻撃速度上昇)
『幻魔獣の召喚士 LV85 サシャ・ボリンガー』
装備:ショートソード
防具:守護のライトグリーヴ・ライトガントレット・ライトメイル
装飾品:守護のアイアンリング
効果:守護(物理防御力上昇、魔法耐性上昇)
シャーローンさんにお礼を言ってから店を出ると、ユニコーンの周りには人だかりが出来ていた。五十人以上は居るのではないだろうか。一人の男性が歩み寄ってくると、男性は深々と頭を下げた。
「あなたが幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガー様ですか?」
「そうですが……」
「お会い出来て光栄です。私はこの町の町長、ルシウス・アルバーンと申します」
「どうも。サシャ・ボリンガーです」
「ボリンガー様の召喚したスケルトンと、幻魔獣のスケルトンキング様が最近、町の周辺の魔物を排除して下さっているお陰で、魔物による被害が減りました。ありがとうございます……」
町長が頭を下げると、町の人達も一斉に深々と頭を下げた。どうやらキング達は廃坑内の魔物だけではなく、町の周辺に巣食う魔物も退治していた様だ。
「皆様のお役に立てたのでしたら光栄です。地域を守りながら生きるのが冒険者としての務めですから」
「ボリンガー様、どうかこれからも町を守って頂けませんか? 魔物討伐のお礼と言っては何ですが、本日の十七時に宴を開かせて頂きます。是非騎士団員の皆様と共にご参加下さい」
「宴ですか、それでは仲間達と共に参加する事にします」
スケルトンを数十体倒しただけで宴が開かれるのだろうか? まさかそんな事はないだろう。きっと何か裏があるんだ。わざわざ町長が俺を尋ねてきたという事は、特別なクエストの依頼でもあるのだろうか? 相手の意図が分からないから、ひとまず宴に参加する事にした。
「サシャ、宴って何?」
「宴は、沢山の人が集まってお酒を飲んだり、美味しい食べ物を食べたりするんだよ」
「お酒に食べ物? 楽しみ!」
「そうだね、俺も楽しみだよ。宴なんて本当に久しぶりだからね」
「そうなの?」
「うん。俺が生まれた村はそんなに裕福じゃなかったから、宴の機会も少なかったんだ」
「楽しそうだな。ルナもいつかサシャの村に行ってみたい」
「いつか連れて行ってあげるよ。ゲルストナーを誘いに行こうか。彼も団員だからね」
俺とルナはゲルストナーの店に直行した。宴の事を伝えると、彼は二つ返事で了承した。町長との宴までかなりの時間がある。市場に出て手土産でも買う事にしよう。ルナをユニコーンに乗せて市場に歩き始めた……。