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第百十七話「クラウディアとこれから」

 酒場でエールを注文して待っていると、エイブラハムがクラウディアを連れて俺達の席に来た。


「クラウディア」

「ボリンガー様。相談があるのですが……」

「サシャでいいですよ。敬語も使わないで下さい。それで、どうしたのですか……?」


 クラウディアは思いつめた様な表情で席に着いた。俺に相談か。ほとんど話した事も無いのに……。 


「実は……復興が終わった後の事だけれど」


 そう言ってクラウディアは長く伸びた金色の髪をかきあげて俺の目を見た。彼女は何か決心した表情をしている。


「サシャは本拠地を作るのよね? 私にも手伝わせてくれないかな……?」


 どうして彼女が手伝う必要があるのだろうか。俺は真意を探る事にした。


「人手が多いのは嬉しいのですが、どうして手伝ってくれるんですか?」

「少し恥ずかしいのだけれど……実は私、ゲルストナーと一緒に居たいの」


 彼女のゲルストナーを見る目は、明らかに好意を抱いた女性の目だった。やはり彼女はゲルストナーの事が好きなのだろう。


「実は俺もそんな気がしていたんです。。ゲルストナーと一緒にですか。勿論それはかまいませんよ。ゲルストナーもクラウディアと居る時はいつもより楽しそうですし」

「えっ? そうなの……? ゲルストナーは若い女の人から人気だし……復興の手伝いをしているゲルストナーに言い寄る女性も多いのよ」


 確かに……。ゲルストナーはボリンガー騎士団の中でも特に人気があるからな……。クラウディアがゲルストナーに恋心を抱いている事は前々から気が付いていたが……。一緒に居たいか。クラウディアには魔王軍との戦いで仲間を守ってもらった恩もある。なるべく彼女の意思を尊重してゲルストナーとの仲を取り持ってあげよう。


「俺に出来る事なら何でも協力しますよ。魔王軍との戦いでも、クラウディアは仲間を守ってくれましたからね」

「本当? ありがとう……」


 クラウディアは俺の手を掴んで喜んだ。彼女の手から伝わる魔力は暖かくて優しい。


「サシャ! クラウディア! まずは飲もう!」


 エイブラハムは運ばれてきたエール酒を豪快に飲み始めた。俺は酒の入ったゴブレットをシャーロットとクラウディアに渡して皆でお酒を飲み始めた。シルフはお酒には興味ないのか、俺達の会話を俺の肩の上に乗って楽し気に聞いている。


「クラウディアはいつからゲルストナーの事が好きだったの?」


 質問をしたのはシャーロットだった。


「いつからかな……魔王軍と戦い始めて偶然ゲルストナー達と行動するようになって……それからすぐにゲルストナーの魅力に気が付いたの。ゲルストナーって仲間を守るためなら何でもするでしょう? 私は長い事冒険者をしているけど、他人を守るために犠牲になれる人ってなかなか居ないの」


 確かに。ゲルストナーは常に仲間を守る事だけを考えているような男だ。戦闘が始まれば率先して攻撃を受けて仲間を守る。そんなゲルストナーに惹かれたのだろうか……。


「それに、私はそろそろ落ち着いた生活がしたいの。私達エルフ族は人間よりも寿命が長くて……私は生まれた時から今までずっと魔物との戦いに身を置いていたわ。だけど、魔王軍との戦いも終わって、そろそろ休んでも良いかなって思ったの。勿論、聖戦士として戦わなければならない時はこの地に住む民のために戦うわ」


 落ち着いた生活か。クラウディアの様に長い間冒険者をしている者なら、落ち着きたくなる時期が来るのだろうか? 俺は本拠地を作った後も冒険をしたいし、冒険者を続けるつもりだ。


「それで、将来の事を考えると、ゲルストナーみたいな男性が良いかなって思ったの。私の気持ち、分かってくれるでしょう?」


 分かると言えば分かる。本拠地が完成した後、ゲルストナーが本拠地に留まるならクラウディアと関係を深めて、人生を伴にする関係にもなれるのではないだろうか。ゲルストナーが俺と旅をしてきた目的はあくまでも「人間と魔物が暮らせる町を作る事」だからな。ゲルストナーと話し合って本拠地完成後の予定等も確認する必要がありそうだ。


「兎に角……俺はクラウディアの恋を応援しますよ。きっと上手くいくと思います」


 俺がクラウディアそう伝えると、シルフもシャーロットも嬉しそうに頷いた。帰ったらゲルストナーと話すか……。


「そう言えば! 実は今日、サシャを待っている間に面白い客が来たんだぞ! あんなに楽しい気分になったのは久しぶりだったなぁ……」


 エイブラハムが楽しそうにエールを飲んでいる。


「面白い客? どんな客だったの?」

「あいつは駆け出しの冒険者って感じだったな。年齢はサシャより少し若くて……俺の店に入ってきて『店で一番良い剣を寄越せ』と言ったんだよ」


 エイブラハム相手にそんな突拍子もない事を言う若者が居るとは……。命知らずだな。エイブラハムの強力な魔力を感じ取れる力すらないのだろうか。相手が優しいエイブラハムでなければどうなっていただろうか……?  


「勿論断ったがね。金を持っているのかと聞いたら、懐から財布を取り出して中身をカウンターにぶちまけたんだ。それで奴はなんて言ったと思う? 『この金で最強の剣を買いたい!』って言ったんだぞ」


 エイブラハムは笑いながら無鉄砲な若者の事を楽し気に話している。


「それでどうしたの?」

「それで金を数えてみたら100ゴールドだったんだ。100ゴールドで俺の店で一番良い剣を買いたいなんて。時々訳の分からない冒険者は来るのだが、そいつの眼は本気だったんだよ。俺は圧倒されてしまってな。『なんで強い剣が必要なんだ?』って聞いたら『倒さなければならない男が居る』って言ったんだぞ……」

 

 倒さなければならない男……。

 俺にとっての魔王の様な存在が、その少年には居るのだろうか。


「それでな、『倒さなければならない男って誰なんだ』って聞いたんだよ。そしたら面白い返事が返ってきてな……」

「誰だったの? その男って」


 シャーロットは上品にエールを飲みながら楽しそうにエイブラハムの話を聞いている。


「その男と言うのは……俺の知り合いだったのだよ。まぁ、名前は言えんが、そのうちお前さん達も知る事になるだろう」


 俺達も知る事になる? まさか国王陛下なのか……? 陛下の暗殺を企てる男? 一体その少年は誰を倒したいのだろう。


「俺はその少年に惚れちまってな。本当なら100ゴールドでは買えないような、少しだけ良い剣を売ってやったんだよ。あいつ今頃何してるかなぁ……鍛冶屋をしているとたまにああいう無鉄砲な若者が居るから面白ろいんだ」


 と言うとエイブラハムはジョッキになみなみ注がれたエールを一気に飲み干した。エイブラハムが認めた少年。何者なのだろうか。かなり気になるが……。しかし、今日はクラウディアの話を聞けただけでもここに来た甲斐があった。あとは建築士さえ見つかれば良いのだが……。エイブラハムとクラウディアに聞いてみる事にするか。


「エイブラハム、クラウディア、ちょっと聞きたいんですが。建築士の知り合いは居ませんか?」

「建築士? 本拠地を作るためのか? 勿論居るぞ!」

「えっ! どんな人?」

「何を言っているんだか、お前さんの目の前に居るじゃないか! 俺だよ!」


 何……? エイブラハムが建築士?まさか建物も作れるのか?


「俺は生活に必要な物は大抵作れるんだぞ。国王から頂いた『伝説の鍛冶職人』の称号は伊達じゃねぇんだ。建物なんざ強力な装備を作るより遥かに簡単なんだよ」


 そうなのか? もしかしてエイブラハムは俺のアースウォールを使った家の様に、素材を自由自在に作り出せるのではないだろうか。


「エイブラハムって凄いな。本拠地作りに協力してくれないかな?」

「ああ。勿論良いぞ。お前さん達と居ると楽しそうだしな! それに弟のエドガーを魔王から守ってくれた恩もある。俺達ドワーフ族は他人から受けた恩は一生忘れねぇんだ!」


 ドワーフ族は恩を忘れない種族か……。もしかして、本拠地での出店を頼んだら引き受けてくれるのではないだろうか。頼んでみるか……。


「それなら本拠地の建築士はエイブラハムで決まりだ! それからもう一つ頼みがあるんだけど……」

「頼み? なんでも言ってみろよ」

「本拠地で店を構えてくれないだろうか? 俺は冒険者や魔物が共存して生きられる町を作る!」


 俺がエイブラハムに頼むとエイブラハムは満面の笑みを浮かべた。


「良いだろう! サシャの夢に付き合ってやるぜ! 伝説の鍛冶職人、エイブラハム・アルムガルドはボリンガー騎士団の本拠地で出店をする!」


 エイブラハムが大声で宣言すると、店の中に居た客は大いに盛り上がった。エイブラハムはこの町でもかなり知名度が有るに違いない。こうして本拠地の建築士と、店の出店予定が決定した。細かい事は明日話す事にしよう。


「ありがとう! これからもよろしく頼むよ! マスター! 料理と酒をありったけ持ってきて下さい!」


 俺はエイブラハムのために酒と料理を注文した。まさかエイブラハムが力を貸してくれるとは……。強力な仲間が増えたな。俺達の本拠地にエイブラハムの店があれば、エイブラハムの装備目当てに町を訪れる観光客も増えるだろう。

 よし、俺の計画は順調だ。


「サシャ! 今日は祝いだ! とことん付き合えよ!」

「勿論だ!」


 その日、俺達は城に戻るまでエイブラハムと酒を飲み、将来の夢を語り合った……。

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