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第百十三話「エミリアの魔法の盾」

 ついにエミリアの魔法授業が始まった。


「サシャ! 最初にどんな魔法を教えてくれるの?」


 エミリアは朝食を片付けて嬉しそうな顔で俺を見上げた。授業の前に杖を渡しておこう。


「エミリア、実は授業の前に渡したい物があるんだよ」

「えっ! サシャが私に……?」


 エミリアは顔を赤らめて驚いた。俺はマジックバッグの中から「業火の杖」を取り出した。俺が杖を取り出した瞬間、エミリアは今までに見た事ない程の笑顔で飛び上がった。


「もしかして杖を準備してくれたの? 嬉しい!」

「ただの杖じゃないよ。これは俺が作った杖で、名前は業火の杖。ミスリル製で先端にはスケルトンキングの魔法、ヘルファイアを封じ込めたブルーサファイアを嵌めた。この杖はエミリアの炎の魔法とそれ以外の魔法の威力を大幅に引き上げてくれる杖だよ」

「本当? サシャが作ってくれたんだ……嬉しいな……」


 エミリアは小さな手で俺から杖を受け取ると、何故か急に泣き出した。


「サシャはいつも私の事を想ってくれる……こんな人には出会った事ないよ。私に近づいて来る男はみんな私を利用するために近づいてくるの。だけどサシャは純粋な気持ちで私の事を想ってくれているよね……私、人に触れたらどんな気持ちなのか、どんな考えなのか、ある程度分かるんだよね」


 杖を受け取った事がそんなに嬉しかったのだろうか? よく分からないが、エミリアはきっとこれまで多くの男性から贈り物を受け取った事があるのだろう。だが、エミリアに近づく男達は決してエミリアの事を想って近づいている訳ではなく、エミリアの王女としての地位を利用しようとして近づいて来る人間が多かったのではないだろうか。


 近付くというよりは取り入るという表現の方が正しいだろう。幼いエミリアの心を射止めて王族になろうとする者は多いに違いない。幼い頃からそういった汚い大人を見続けたため、エミリアは自分の心を閉ざしてしまったのだろう。何となく理解出来る気がする……。


 俺はエミリアの地位など興味はないし、仲間とのんびり暮らしていければそれでいい。金持ちである必要もなく、毎日の食事と寝床があればそれで良い。俺は村人の頃からもずっとそうして暮らしてきた。


 俺は泣きじゃくるエミリアを抱き寄せた。シャーロットとシルフもエミリアの頭を撫でて慰めている。まさか杖を渡すだけでこんな反応が返ってくるとは思わなかった。彼女は普段は王女らしく振る舞っているが、心はかなり脆いようだ。何か小さな不幸でも起これば、今にでも精神が崩れてしまうような危うさを感じる。しばらくは俺が守ってやらなければならないな……。


 だが、強くなれよ、エミリア。力があれば自分に不利な状況を覆す事が出来る。自分で道を切り開くんだ。俺はエミリアを応援する事しか出来ないけど、俺が近くに居る時には守ってあげよう。


「サシャ、私から離れないでね……」

「勿論だとも。俺はいつでもエミリアの傍に居るよ」


 しばらく俺達はエミリアを慰めていると、エミリアは泣き止んで立ち上がった。


「早速始めましょう! 何から覚えたらいいのかな?」


 やっとやる気になったか。今から魔法を覚えようとする者は強気でなければならない。


「今日はマジックシールドとファイアを教えるよ。俺が許可するまで他の魔法は使わない事、勉強もしない事。ただ俺を信じて同じ魔法の鍛錬を続ける事。分かったね?」

「わかっているわ! 私はサシャを信用しているんだもん。勝手に他の魔法を覚えたりしないわ」

「よし。それならまずは手本を見せるから技の性質を見極めてくれ」


『マジックシールド!』


 俺は説明もせずに魔法を見せた。最初に見せた魔法はマジックシールドだ。なぜ何も説明しなかったかと言うと、自分で魔法について使い道を考えて欲しかったからだ。


「エミリア、この魔法はマジックシールドだよ。どんな魔法だと思う?」


 俺は左手に持った魔法の盾をエミリアに見せた。


「普通に考えるなら盾かな? だけど盾を作る必要ってあるのかな? 私は既に雷撃の盾を持ってるし……」

「もう少し考えてごらん」


 と言って俺は左手から盾を離して宙に浮かせた。宙に浮かせた盾をシャーロットの前に移動させた。


「あ! わかった! その盾は自分以外も守る盾なのね! きっとそうに違いないわ!」


 マジックシールドは任意の場所に作り出したり、移動させたりする事が出来る。自分の体から離れれば離れる程、盾の制御は難しくなり防御力は落ちる。反対に自分に近ければ近いほど、盾は防御力を増す。盾の形状は好きに作る事が出来るが、俺の場合は片手でも持ちやすい小さなバックラーとして作る事が多い。


「正解だよエミリア。この盾は自分と仲間を守る盾。盾の強さは魔力の強さ。盾を作り出す時は、まず頭の中に作りたい盾の形をはっきり想像する事が大事だよ。これは召喚の基礎でもあるんだけど、どんな物を作りたいかはっきり想像する事が一番大切なんだ。頭の中で盾を思い浮かべた後、魔力を体から放出させて実際に盾を作るのさ」


 エミリアは持っていた雷撃の盾を邪魔にならないように背中に背負い、業火の杖をベルトに挟んだ。


「わかったわ! やってみる!」


 エミリアは俺の説明を理解したようだ。精神を集中させて左手を体の前に突き出している。左手で盾を持つつもりなのだろう。エミリアがしばらく精神を集中させていると、左手からは微かに光が輝き始めた。魔力が外に出たか。あとは盾の形を作れば良い。マジックシールドを練習するエミリアを見ていると、以前クリスタルに同じ魔法を教えた事を思い出す。


「エミリア! もっと強い気持ちで盾を想像してごらん!」


 俺がアドバイスをすると、エミリアは更に魔力を強めた。


『マジックシールド!』


 エミリアが魔法を叫ぶと、左手には光輝く小さな盾が握られていた。マジックシールドの完成だ。盾は小さくて弱弱しくて、どう考えても敵の攻撃を防げるような代物ではないが、間違いなく魔法は成功した。


「サシャ! 出来たわ! 私の盾よ!」

「よく出来たね。作り出した盾にもっと魔力を込めてごらん」


 エミリアは盾を見て大喜びをしている。


「エミリア! 凄いわよ!」


 シャーロットもシルフもエミリアの初めての魔法の成功を祝福している。だが、この魔法が難しいのはこれからだ。作り出して完成ではない。実際に相手の攻撃を防げるくらい丈夫に作る事が出来て初めて完成だ。それから、ただ盾が丈夫であれば良いという訳でもない。 盾が強くても相手の攻撃に対して瞬時に反応出来なければ、どれだけ盾が丈夫でも意味はない。


 マジックシールドは常に作り出したまま生活して貰おう。確かクリスタルもマジックシールドを覚えてからは、朝起きてから寝るまでずっと魔法の盾を制御しながら生活していた。ひとまずマジックシールドは後で復習するとして、早速ファイアを教えよう。攻撃と防御の魔法を同時に覚えさせて実戦形式で使わせる授業にしよう。俺は早速ファイアの魔法を教える準備を始めた。

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