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第百十二話「シュルスクの木の元へ」

 早朝から俺はシルフとシャーロットに起こされた。他の仲間はまだ寝ているが、俺達は今日から毎朝エミリアと魔法の授業をする事になっている。朝早く起きた方が一日の中で使える時間が増えるからな。昨日の夜、久しぶりに夜更かしをせずに眠ったせいか、ルナとの稽古で消耗した魔力は完全に復活していた。心地良さそうに眠るルナの頬に口づけをしてから部屋を出る。


 朝食は今日も森の中で食べる事にしよう。場所は昨日と同じで、アルテミス王国からアレラ山脈方面に向かった場所。シュルスクの大きな木が目印で、人の手の付いていない、森の小動物達の憩いの場。神聖な魔力が流れており、その場に居るだけで癒やされるような美しい森だ。様々な果実が実っていて、落ち着いて時間を過ごせる場所だ。俺はエミリアとの魔法授業をあの場所で行う事にした。俺達は今日も朝からエミリアを迎えに城の3階部に向かった。


 階段を上がると既にエミリアが待っていた。エミリアは左手に雷撃の盾を装備している。いつから待っていたのだろうか? 俺達がいつ迎えに来るかもわからないのに、ずっと待っていたのだろうか。


「サシャ! 授業が楽しみで朝早くに目が覚めたの! 早速行きましょう。今日もお弁当を作らせているの。厨房で受け取ってから行こうね!」

「おはようエミリア。朝から元気だね! 俺も楽しみだよ。それじゃ早速向かおうか」


 俺はエミリアの手を取って一階の厨房に降りた。城の中では既に兵士達が忙しそうに働いている。俺達は今日も厨房で弁当を受け取ってから城を出た。ちなみに、今日はユニコーンには乗らず、ワイバーンに乗って行く事にした。


 たまに乗らないと拗ねるからな。ワイバーンは体も大きく、見た目は獰猛な魔物だが中身は幼い子供の様に無邪気で可愛い。獰猛といってもワイバーンは善良な人間や魔物を襲ったりはしない。ワイバーンがいつも好んで狩る魔物は、人間に危害を加えるような悪質な魔物だけだ。


 それに、ワイバーンと一緒に行動した方が安全だろう万が一、エミリアが襲われる事があっても俺やシルフ、シャーロットが居れば傷一つ負わせる事なく守り切れるとは思うが……。


 何といっても俺達三人は魔王を倒した最強の組み合わせだからな。魔王以上に強い者に出くわさない限り、エミリアが危険にさらされる事は無い。そもそも、悪意を持った者が近づいて来れば魔力の雰囲気ですぐに分かる。


 俺達が城を出ると、城のすぐ目の前には既にワイバーンが待機して待っていた。何と賢い召喚獣なのだろうか。ちなみに、ガーディアンは昨日の食事の後に「帰還」させた。意味は分からないが、彼もなぜか仲間と共に食事をしていた……。キングもガーディアンも好んで食事をするようだが、体のどこに吸収されているかは全く不明だ。


 俺は城の前で待っていたワイバーンの頭を撫でると、エミリアを背中に乗せるために許可を貰う事にした。事前に話もせずに俺以外の人間を乗せると機嫌を悪くするからな。ワイバーンの様に高度な知能を持つ幻魔獣には敬意を払って接しなければならない。


「ワイバーン! エミリアを乗せても良いかな?」


 ワイバーンのゴツゴツした頭を撫でて話し掛けると、彼はエミリアに顔を近づけて匂いを嗅いだ。エミリアの匂いを嗅ぐと、ワイバーンは嬉しそうに目を瞑って頷いた。エミリアは無事ワイバーンに認められたらしい。


 以前、城の兵士からワイバーンに乗ってみたいと言われた事があって、俺がワイバーンに背中に乗せていいか聞いてみると、兵士の方を見もせずに顔を横に振った。ワイバーンなりの判断基準があるのだろう。


 ワイバーンは自分の背中に乗せる価値なしと思った相手にはとことん冷たい……。だが、認めた相手に対してはどこまでも優しくなる。海賊船での移動中も甲板の上で長い時間を過ごし、海上から襲い掛かってくる低級な魔物を駆逐してくれた。


「乗っていいの? やった! ワイバーンが私の事を認めてくれたのね!」


 エミリアは嬉しそうにワイバーンに抱き着いた。ワイバーンを目を細めて嬉しそうにしている。俺達は早速ワイバーンに乗って昨日と同じ森に向かった。アルテミス王国を出発してすぐに昨日の森を見つける事が出来た。


 木々が生い茂る森の中に少しだけ開けた場所があり、目印は大きなシュルスクの木が生えている。そう言えば昨日の夕食の時、シュルスクを使った料理は出なかったな。食べてみたかったのに……。俺達が魔法の授業をする場所に降りると、ワイバーンは獲物を探すために飛び立った。


「サシャ! まずは朝ご飯を食べましょう。実は特別な物を作らせたのよ」


 エミリアが弁当箱を開けると、中には見た事も無い料理が入っていた。城での滞在を始めてから、俺は毎日知らない料理を食べているような気がする。俺達の旅では基本的には乾燥肉や乾燥野菜を使った質素な料理を食べる事が多かった。


「サシャ! これはパイっていうのよ。朝食には向かないからこれは後で食べましょう。今日も朝はサンドイッチよ」


 パイという食べ物は昼に食べる事になった。俺達は今日もサンドイッチと冷たい紅茶で朝ご飯を済ませた。さて……。今日からついにエミリアの魔法授業が始まる。その前に、エミリアには内緒で作っておいた杖を渡さなければならない。

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