第百十一話「仲間との時間」
復興の作業を終えて城に戻ると、大広間には今日も陛下と大臣、それからエミリアとクラウディアが先に待っていた。帰りを待っていてくれる人が居るのはなんだか気分が良いな。エミリアは今日も俺を自分の隣の席に招いた。既にエミリアと共に食事をする事も当たり前のようになってきた。俺はルナを背中から降ろして向かいの席に座らせた。ちなみに俺の隣の席にはシャーロットが座っている。エミリアの反対側だ。
「サシャ。今日もご苦労様! サシャって毎日頑張ってて凄いよね!」
「ありがとう。エミリアは何をしていたのかな?」
「私は今日はつまらないお勉強……サシャとルナが試合をしたんですってね? 私も見たかったなぁ。城の兵士達はサシャとルナの試合の話題で持ちきりだよ!」
俺が席に座るとエミリアは俺のゴブレットに葡萄酒を注いでくれた。肉体労働の後の葡萄酒は最高に美味しい。俺はお酒は冷やしてから飲むのが好きだ。クーデルカに葡萄酒を冷やして貰おうか。
俺が頼むとクーデルカはすぐにゴブレットを冷やしてくれた。ちなみにゲルストナーは巨大なジョッキにエールをなみなみと注いで美味しそうに飲んでいる。ゲルストナーの隣にはクラウディアが座っており、クラウディアはゲルストナーと楽しそうに食事をしている。
この二人は今後どうなるのだろうか? クラウディアは復興の手伝いのために城に滞在しているらしいが、復興が終われば離れ離れになるのだろうか。クラウディアがゲルストナーを見る時の目つきは完璧に恋をしている女性の目つきだ。今度ゲルストナーにクラウディアの事を聞いてみようか。
それから、ゲルストナーはそろそろ落ち着いた生活をしたいのではないだろうか? 彼の当初の目的は『魔物と人間が共存する町を作る事』だからな。彼は冒険も好きだが、魔物を育てたり管理したりする事も好きだ。本拠地が完成すればゲルストナーの当初の目的は達成する。今後も俺の冒険に付き合うかどうかは彼次第だ。
一応クリスタルとも本拠地が完成すれば基本的には別行動だ。勿論、仲間である事には変わりないし、騎士団の団員である事は何があっても変わらない。兎に角、今は考えるより食事だな……。
「サシャ。魔法の授業は明日からなんだよね! 朝からするの?」
エミリアは随分と嬉しそうにしているな。余程俺との授業が楽しみなのだろう。
「そうだね、早い時間からしようかな。エミリアは時間は大丈夫?」
「うん、私は特にする事は無いんだ。お父様は忙しいけれど、王女の私はこんな時は何の役にも立てないんだよね……」
「そうか……だけど役に立てないと思ってはいけないよ。常に人の役に立とうと思う心が大切なんだ。魔法の授業だって、エミリアの工夫次第ではすぐに人の役に立つ魔法が覚えられるかもしれないよ。何を覚えて何を成し遂げるかは自分で決めるのさ」
俺は寂しそうにするエミリアの頭を撫でて言った。
「うむ。勇者殿の言う通りだよ。私よりも王の素質があるのではないか? エミリア、勇者殿から様々な事を学んで国の役に立てる人間になりなさい」
「わかったわ! サシャから色々学ばないとね。お父様の役に立てる王女になるためにも!」
前向きで良い子だ。俺自身も明日からの授業は本当に楽しみだ。相手に教えるという事は、自分自身も教える内容について深く理解しなければならない。この機会に簡単な魔法を覚えるのも良いだろう。
魔法や召喚に関して、俺はあまりにも基礎を飛ばし過ぎた。基礎を飛ばした結果、普通の召喚士ならマジックシールドを使うところでアースウォールを使ったり、敵を攻撃するためにわざわざ土を槍に変えて攻撃をしたり。かなり遠回りをしながら今まで訓練を重ねてきた。エミリアには基礎を学んで貰いながら、最短ルートで強くなって貰おう。
その前に……。すっかり忘れかけていたが、アイリーンに新しい装備を渡さなければならないな。俺はクーデルカと楽しそうにエールを飲んでいるアイリーンの席に向かった。
「アイリーン、良いものをあげるよ」
「何をくれるの? サシャがあたしのために何か作ってくれたの……?」
アイリーンは猫耳を嬉しそうに立てて席を立ちあがった。
「昔、斧が得意だって言っていたよね? 斧と腕輪を作ってみたんだけど」
俺はそう言ってマジックバッグからミスリル製の神風の腕輪と神風の斧を取り出した。
「あたしに腕輪と斧……嬉しいの」
アイリーンは装備を受け取ると喜んで俺に飛びついてきた。アイリーンのしなやかな体が俺に絡みつく……。
「喜んでもらえて嬉しいよ」
俺は飛びついてきたアイリーンを降ろしてから腕輪をはめてあげた。
「綺麗な腕輪なの。それに斧は本当に久しぶりなの……村では斧を使って魔物を退治していたの」
アイリーンは新しい斧を嬉しそうに見つめている。村で暮らしていた頃を思い出したのだろうか。いつかアイリーンが生まれた村も見に行きたい。
「ありがとうなの。一生大切にするの」
アイリーンは斧を大切そうに抱えて椅子に座った。そんなアイリーンの頭を撫でてあげてから、食事を終えて部屋に戻った。部屋に戻ると既にルナとシャーロットとシルフが先に戻っていた様だ。他の仲間はまだ夜の食事を楽しんでいる。
「シルフ! 髪に巻いているリボン可愛いね!」
ルナはシルフのリボンに気が付いた様だ。
「うん……サシャから貰ったの!」
「サシャから……いいな! 私も欲しい! シャーロットの新しい服も可愛いし……」
ルナは羨ましそうに二人を見ている。私も欲しいか……。ルナには俺とお揃いの首飾りもあるし、指環も腕輪ももある。装飾品は十分にあると思うが、女性という生き物は装飾品は多ければ多いほど良いらしい。昔、母は『毎日好きな服を選んで出かけるのが楽しいのよ』と言っていた。毎日同じ装備をしている俺にはよくわからないが……。
兎に角、今日も一日頑張ったな。明日は朝からエミリアの授業、それからエイブラハムに頼んでいたマントを受け取らなければならない。
「サシャ! 今度私にも何か買ってよ! ねぇ……!」
俺がベッドに腰を掛けていると、ルナは俺に抱き着いてきた。やっぱりルナは落ち着くな……。
「うん。好きな物を買ってあげるよ……」
「本当? 嬉しいな!」
「勿論、ルナのためならなんだってするさ」
ルナを抱きしめながら話していると急に眠気が襲ってきた。今日はこのまま寝よう……。俺はルナを抱いたまま眠りに就いた……。




