第百一話「勇者と王女」
朝起きると俺はエミリアと散歩のために支度をした。今日はシルフとシャーロットも連れて行く事にした。
「ルナ、俺とシルフとシャーロットはエミリアと散歩に行ってくるよ。今日も復興の手伝い宜しくね」
「わかったよ……いってらっしゃい」
俺はベッドで寝ているルナを起こしてからエミリアを迎えに行く事にした。一応念のため、武器と防具を装備しておいた。
「シルフ、シャーロット。それじゃ行こうか」
俺達は部屋を出るとエミリアを探す事にした。予定では俺がエミリアの部屋まで迎えに行く事になっている。しかし、エミリアの部屋の位置が分からない。俺は城中を巡回している兵士に聞く事にした。
「ボリンガー様! おはようございます!」
「おはようございます。エミリア様の部屋を探しているのですが、案内して頂いても宜しいですか?」
「はい! 陛下からボリンガー様はエミリア様の部屋に案内しても良いと命令を受けています。それでは向かいましょう!」
俺達は兵士に案内されてエミリアの部屋の前に着いた。部屋の扉は木製で、立派な金の装飾が施されており、一目見ただけで王族の部屋だという事が分かる。随分と豪華だな……。
「エミリア様! ボリンガー様をお連れしました!」
「開けていいわよ」
「それではボリンガー様、良い一日を」
「待っていたわサシャ。それにシルフとシャーロット! 早速出かけましょう!」
エミリアの部屋は王女の品格がある立派な部屋だ。白を基調とした部屋で、天蓋付きのベッドに立派なドレッサー、部屋には動物をモチーフにしたぬいぐるみがいくつか置かれている。エミリアは王国の紋章が入ったマントを羽織っている。既に準備が整っている様だ。それから、なぜか背中には雷撃の盾を背負っている。
「エミリア、今日も盾を持っていくのかい?」
「ええ、勿論。これは私の宝物だから……」
気に入ってくれたのは嬉しいが、盾を常に持ち歩くのは邪魔ではないだろうか。早く杖を作ってあげた方が良さそうだな。小さい杖なら邪魔になる事もなく、常に装備しておけるからだ。
「早速出かけようか。今日は町を出て森の方まで行ってみよう」
「森に入るのね。楽しみだわ!」
俺はエミリアと手を繋いで部屋を出た。エミリアの部屋は城の三階にあり、俺達の客室と談話室は二階だ。大広間と中庭が一階にある。どうやら三階は国王の部屋と書斎、エミリアの部屋と大臣の部屋があるらしい。二階から三階に上がる階段には兵士が二名立っており、許可された者しか三階に上がる事は出来ない。俺は特別に 三階に上がる許可がされている様だ。
俺達は一階に降りてユニコーンを迎えに行った。ユニコーンは中庭で朝食を摂っている。野菜中心のバランスの良い食事を与えられてるらしい。城に滞在しているボリンガー騎士団の団員には、毎日の食事と部屋が提供されている。ユニコーンも例外ではなく、城に来てからは毎日豪華な食事を楽しんでいる。俺はユニコーンのたてがみを撫でてから、手綱を引いた。
「サシャ、私は厨房に行ってくるわ。ちょっと待っていてね」
エミリアは中庭を出て厨房に向かった。朝食でも持ってきてくれるのだろうか。まさかそんな事はないか……。しばらく待つと、エミリアは大急ぎで戻ってきた。手にはアルテミス王国の紋章が入った箱を持っている。
「食べ物を貰って来たの。森で一緒に朝食を食べましょう」
「わざわざありがとう」
気の利く女の子だ。俺のパーティーでこんなに気が利くのはゲルストナーしかいない。ゲルストナーは魔王討伐に向かう俺達に、調味料を小分けにした袋を持たせてくれたり、日数分の食料を計算して持たせてくれたりした。彼は体が大きくて、見た目は屈強な戦士だが、女性の様に繊細な部分がある。
俺はエミリアから食料が入っている箱を受け取ってユニコーンの背中に固定した。ユニコーンの使い方が間違っている気もするが、元々ユニコーンは旅の荷物を運ぶために召喚した魔物だ。
俺達は城を出て町に向かった。俺はエミリアとシャーロットを抱きしめる要領で手綱を握っている。シルフは俺の肩の上に座り、朝の町を楽しそうに眺めている。一頭の馬の上に大精霊と大魔術師、王女、勇者が乗っているとは。こんなに防御力が高い馬は居ないだろう。
アルテミシア区の朝は静かで、外に出ている者はほとんど居ない。アルテミシア区は貴族や位の高い冒険者などが住んでいる地区だが、魔王軍の襲撃以降は人口は一気に減ったらしい。ゲルストナーから話を聞いたが、貴族達は魔法軍の襲撃を受けるや否や、町から急いで逃げ出したらしい。町を出ても暮らしていける貴族は家を捨てて町を出たが、アルテミア以外に居場所が無い市民は町を守りながら生き延びた……。
アルテミシア区を抜けて商業区に入ると、エイブラハムの店が見えた。店中を覗いてみると、店の奥ではエイブラハムが巨大な金槌を持って金属を叩いていた。以前エドガーから聞いた話だが、エイブラハムは早朝から仕事をし、夕方から酒を飲み始めるのだとか。海賊である自分よりも早い時間から酒を飲み始めると言っていたな。近いうちにエイブラハムを飲みに誘おう。
商業区は朝から賑やかで、買い物をする人や店を修理する人で溢れている。心なしか昨日より市民が増えている気がするが……。エミリアを乗せて商業区を進んでいると、冒険者や市民が近づいてきた。
「勇者様とエミリア様がユニコーンに乗っているぞ!」
「ボリンガー様! 私は昨日キング様に家を直して頂きました。これを受け取ってください」
市民は近付いてきて果物が入った籠を渡してくれた。
「ありがとうございます! キングに渡しておきますね」
キングは見えないところで頑張っている様だ。帰ったら褒めておこう。俺達は商業区の正門を抜けて外に出ると、正門の前でワイバーンが待っていた。ワイバーンも一緒に来たいのだろうか?
「ワイバーンも一緒に行こうか! 上空から付いておいで!」
俺はワイバーンに上空からついて来るように指示をした。ワイバーンは嬉しそうに頷いて飛び上がった。
「サシャの召喚獣は素直だよね。私も召喚してみたいな」
召喚か……。エミリアに召喚を教えるのも良いかもしれないが、低級の召喚獣ではエミリアの立場には相応しくないだろう。王女に相応しい召喚獣。少なくとも幻獣以上の召喚獣だろうか。召喚に関しては後回しでいいだろう。まずは魔法を教えなければならない。俺達はユニコーンを走らせて、アレラ山脈方面に向かった。