優しさ
「まぁ悩んでも仕方ないんだしさ
僕毎日、紗弥加にご飯持ってきてたんだよね
今日もそれできたんだ
今日の献立はお稲荷さんにほうれん草のおひたし
お味噌汁もあるよ」
目の前に並べられた重箱には美味しそうなご飯が詰まっていた
「あ、電気はここにあるからね
トイレとかは後で教えるから
今は不安だろうけど僕は毎日来るし今は食べようよ」
「はい…」
しゅんとしていた私に気を使ってかとても優しくしてくれた嶺巴さんに少しホッとした
インスタントの味噌汁に社にあった湯沸かしを使ってお湯を入れる
2人で手を合わせて食べ始めた
「…嶺巴さんこれ」
「ん?味付け好きじゃなかった…?」
「いえ、これ凄く美味しいです」
凄く驚いた
自分ではあまり料理をしないから久しぶりの手料理という事もあるのかとっても美味しかった
(そういえばこうやって誰かと食べるのもいつぶりだろ)
私の言葉を聞いて安心したように微笑む嶺巴さんをみて少しだけ前の生活より良かったかもしれないと思った
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
夕食の後は社の中を案内された
「お社は前と後ろの二つに分かれていて前側が外陣で奥側が内陣
内陣の奥にまた階段があって一番上に鏡が見えるでしょ、あそこが祭壇
外陣の右側にドアがあるんだけどここから横に建ってるところに出られる
そっちにはトイレと台所とお風呂があるから
他にも何かわからない事があったら言ってね」
中を一周し外陣に戻ってくると嶺巴さんは帰り支度をし始めた
「あ、帰るんですね…」
「うん、僕はこの時間にご飯届けるのが役目だから
でもやっぱり初日だし不安…だよね
うーん…僕はここに泊まってもいいけど靫巴がなぁ…
ちょっと待ってね、聞いてみるから」
「なんかすみません、あの、無理しなくて大丈夫ですから」
「そう言って無理しようとしてるのは桜花ちゃんでしょ?」
そう言うと嶺巴さんは私の頭に軽く触れながら後ろを振り返った
スマホで連絡しているみたいで電話し始めた
「もしもし?うん、まだ神社にいる
代替わりしてて紗弥加は引き継ぎもしないで出て行ったみたい
それでさ、今日帰らなくても大丈夫?
こっちは大丈夫だよ、え?やだなぁ、神様に変なことしないよ
靫巴とは違うんだから〜
…はーい」
電話を切るとまた振り返り袴の横の切れ目にスマホをしまった
「あ、これね、ポケットなくて不便だからここにポケットつけたの
あと許可出たから今日はここに泊まっていくよ
心配だから靫巴も来るって言ってたから安心してね!」
垂れた目を優しく細めて言った
「ありがとうございます!
靫巴さんてどんな人なんですか?」
上の方を見ながら少し悩んだ
「そうだなぁ、すごく優しいんだけど不器用なんだよね
みんな怖がって離れていくけど本当に優しいんだよ」
「仲良いんですね」
なんだか少しだけ羨ましくなってしまった
私には優しいと言える人も優しいと言ってくれる人もいなかったから
「ん?どうしたの?」
浮かない顔に気づいた嶺巴が顔を覗き込んだ
「大丈夫です!仲良くなれるかなぁって思っただけですから!」
嶺巴はふんわりと笑って立ち上がった
「心配ないよ
さ、靫巴が来る前に寝床の準備しようか」
「はいっ」
内陣の脇の方の襖を開けると布団が5セットほどあった
2人で手分けして敷いていると外から扉を叩く音がした