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来訪者

気づくと暗闇の中に立っていた

本当に意識があるのかわからないほどの真っ暗闇

だんだん不安になり焦ってくる

たまに後ろに気配をかんじてふりむくけれどだれもいない

なのに遠くの方から声がする

『産むんじゃなかった』

『必要ない』

『このまま死ねばよかったのに』

私の存在を否定する声に耳を塞いだ



そんな中に私を呼ぶ初めて聞く声がした

罵詈雑言の中のその声に耳を澄まして声のする方を見ると一点の光が見えた

”あそこに行かなきゃ”漠然とした思いに突き動かされ走り出す

だんだん光が強く眩しくなってくる

手を伸ばしてあと少しで触れるところでその光に飲み込まれた


「っ!」

勢いよく身体を起こした

「夢…?」

小鳥のさえずりが聞こえ、右を見ると丸い窓から光が差し込んでいる

窓の奥には神社の中が見える

外から覗くのではなく中から外を覗いている感じだ

ここで2つの異変に気付いた

うっすらと照らされる自分のいるこの部屋には扉がない

ただひとつこの丸い窓だけ

「ここまさかあの鏡の中?」

恐る恐る窓に手を伸ばすと透明な膜を透過するように奥に行けた

取り敢えず外に出る事はできるようで安心した

そしてもうひとつの異変は自分の服が変わっている事

制服からさっきの女性が着ていた袴に変わっている

髪も綺麗に整えられなんだか少し長くなっている

「どういうこと?」

不安な気持ちを抑え一先ず窓の外に出てみることにした

着なれない袴姿で少し高いところにある窓から出るのは容易ではなく、何か足場になるものでもないか見回してみると木の踏み台があった

使い古された感じのそれを使い足から外に出た


丸い鏡は階段のようになった祭壇の上に在りそこから出てきた私は取り敢えず建物から出ようと考え階段の下に降りた

社の中はガラス戸で前後二つに分かれていてガラス戸を開けると少し段差になっていた

そして外につながるガラス戸に手をかけるが

「あれ、」

ガタガタと音を立てるだけでビクともしない

「嘘でしょ、出れない」

他の場所も開けてみるが同じだ

「割ったらやばいかな

お腹すいたし寒い…

ケータイも無いしどこにも連絡できないし」

ガラス戸に寄りかかり座りその場に座った

外は夕暮れ時で人影は無い

今から誰か来るだろうかと途方に暮れていた時ふとある言葉が頭に浮かんだ


『悩んでるのか


ここはそういう人が来る場所だから

人が来るのは本当にたまになんだ』


あの女性の言葉が本当ならここに人が来るのはいつになるんだろうか

そう思うと急に不安になって立ち上がった

割って出よう、そう思いそばにあった机を離れたところからガラス戸に向かって投げた

聞こえてくるだろうガラスの割れる音に耳を塞いだが不思議と聞こえてこない

ただ鈍い音が聞こえたきりだ

恐る恐るそちらを見てみるとガラス戸が割れていない

「出して…助けて…」

ふらふらと戸に寄るとポタポタと涙が溢れてきた

「ねぇ!誰か!誰か出して!」

震える声で精一杯叫んだ

力の限りガラスを叩いた

しかし時間はただ虚しく過ぎ去るだけだった


疲れて座り込んでいると暗い境内に一筋の光が見える

電灯の光のようだ

「すみません!私ここに!出られないんです!」

電灯を持った人が近づいてくる

私に気づいたらしく顔を上げた

「あれ?紗弥加(さやか)?」

浅葱色の袴の20代前半程の男の人だった

賽銭箱の横を通りガラス戸に手をかけると容易に開ける事ができた

「あんなに開かなかったのにどうして…」

中に入ってきた男の人は私に座るよう促した

「初めまして

僕は狐坂嶺巴こさか みねは

君の名前は?いつからここにいるの?」

佐倉桜花(さくらおうか)です

今日のお昼くらいにここに来て

女の人と少し話して

気を失って?目が覚めたらここにいて

ずっと出られなくて…」

「その女の人には何か聞いた?」

「特になにも」

嶺巴(みねは)は少し悩む素振りをして桜花(おうか)を見た

「凄く受け入れがたい話だと思うんだけど落ち着いて聞いてね

君が話した女の人は紗弥加(さやか)と言う人なんだ

ここの神様を…何年かな、大体150年くらいしてたかな

この神社にお参りすると願い事が必ず叶う

でも願い事によっては君のようになってしまうんだ

その時の神様と代わり神様になってしまう

紗弥加(さやか)は君の体を奪って逃げてしまったんだね」


信じがたい話だった

「えっと、じゃあ

その話からすると私はここの神様になったんですか」

「そうなるね

さっき外に出られなかったって話だけど、ここの神様は外に出られないんだ」

「でもその紗弥加(さやか)さんは外に出てきて私と話しました」

そう言い終えると同時にある事に気がついた

「あ、もしかして」

「分かった?

さっき鳥居の前に式神が落ちてるのを見たよ

外に出られるのは簡単に言えば魂だけ

肉体は外に出られないんだ」


絶望感とはこういう事なのか

そう思ってしまうほどに目の前が真っ暗になった

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