表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

鳥居の向こう

寂しかった

ただただ寂しかった

家にいても一人の寒さだけが待っているだけだし

学校なんて地獄そのものだった


玄関を出て戸締りを確認して階段を降りる

ローファーが地面を蹴る

耳にはイヤホンから流れる音楽

いつにも増して冷え込んだ空気からのがれるようにマフラーに顔を埋めて歩く

校門をくぐった時ふと顔を上げてみるとある人と目が合った


結城(ゆうき)メグ


私の学校生活を地獄に変えた1人だ

目が合ったことにメグも気づいたのかうっすらと笑い立ち止まっている

「おっはよ」

イヤホンを引き抜かれ声をかけられたが返事はしない

「冷たいじゃん佐倉(さくら)

今日は何して遊ぼっか

あ、そういえば昨日さ、雪菜(ゆきな)陽菜(ひな)からの連絡無視ったらしいね」

喋るメグを無視して歩き続けるが隣にくっついて離れない

黙々と歩き続ける私にイラつきを隠しながら耳元に近づいてきた

「昼休み覚えとけよ」

そう言うと同時に後ろから声が聞こえた

「メグ〜おはよ」

同時に振り返ると大きく手を振る雪菜(ゆきな)とケータイをいじりながら歩く陽菜(ひな)の姿

メグは突き飛ばすように私の背中を押して二人の元へ行った

よろめきつつ校舎の中に入る

小さくため息をつくと白い息がもくもくと出た

下駄箱に靴を入れて今日も地獄教室へ向かう


カバンを下ろし机の中を覗く

何もないのを確認してから1限目と2限目の教科書を入れまだ中身のある鞄は鍵のあるロッカーの中に仕舞い再び席に戻った

制服のポケットからスマホを取りだし授業までの5分間、意味もなくいじる

画面をスクロールしていると視界の端の方にさっきの三人組が教室に入ってくるのが見えた



そして、事は例の昼休みに起きた

「さーくら」

机を取り囲むように三人が目の前に現れた

「ちょっと外の空気でも吸わね?」

そう言うと雪菜(ゆきな)とメグに両腕を掴まれ無理やり立たされた

「早く歩け?」

取り囲まれて歩いて逃げられないまま屋上に来てしまった


フェンスを背に追い込まれた

「あのさぁ、無視するって結構な度胸だよね

懲りないの?」

「じゃあ逆に聞くけど

懲りてどうなるの?

言っとくけどあの時のこと私悪いと思ってないから」

メグを睨むように言うと腹部に衝撃が走り

同時にフェンスの揺れる大きな音がした

「本当にムカつく

毎日平気な顔して学校来てさ

そんなんだから親にも捨てられんのよ」


最後の一言で私の中の何かが切れる音がした


「捨てられてない…」

「は?声小さくて聞こえないんだけど」

「捨てられてない!!!」

目の前にいたメグに掴みかかると雪菜(ゆきな)が抑えてきた

「おい!離れろよ!」

「うるさい!わさらないで!」

雪菜の方をむいた瞬間メグに突き飛ばされた

勢いよくフェンスに叩きつけられ


そのままフェンスごと倒れこんだ

幸いフェンスの後ろは少し床が広がっていて下に落ちることはなかったがあと数センチ後ろに下がっていたら確実に落ちていた

衝撃的な出来事に暫しの沈黙が流れる

最初に口を開いたのはメグだった


「なに生き残ってんのよ

落ちて死ねばよかったのに」

その表情は俯き垂れた髪で見えない

ゆっくりと一歩一歩踏みしめるように私の目の前まで来た

見上げるように覗き込んだメグの顔は微笑んでいた


「親にも捨てられたんだから佐倉(さくら)に生きてる意味はないんだよ」


私はもういいかえす気力はなかった

何を言ってもダメだ

そう諦めがついた

それと同時に初めて涙が出そうだった

今まで何をされても不思議と涙が出なかったのに今になって溢れそうになった


気づくと走り出していた

上履きのまま後者を飛び出し逃げるように走っていた

何かに追われているような気がした

たまに振り返るがなんの姿もない

どのくらい走ったろうか

力尽きた私は住宅街の真ん中で立ち止まった


上がった息を整えるように誰かの家の塀に寄りかかる

その時だった

ふぅっと自分の横を風が通って気がした

チラリとみてみると塀と塀の間大きな赤い鳥居がある

「あれ、さっきもあったっけ?」

塀にもたれかかる体を起こして鳥居の向こう側を覗くと終わりが見えないほど長く鳥居の道が続いている


「風が吹いてる」

汗ばんだ体を冷やすように冷たい風が吹いていた

なんだか不気味に思えたが好奇心から鳥居をくぐってしまった

荒い石畳の道

視界は赤い鳥居でいっぱいだ

終わりがだんだん近づいてくる


最後の一つを超えた時後ろの方でカサリと乾いた音がした

振り向いてみると踵のあたりに和紙でできた人形の紙が落ちていた

「え、こわ」

さすがに怖くて拾わずに見なかったことにした

境内を見渡すと住宅街を思わせないほど広々としている

お賽銭箱のあるところまで来ると

建て物の扉が開いていて中が見えた


なんとなく覗き込むと汚れた丸い鏡のようなものが見えた


「なにしてるの」

「っうわ!」

身を乗り出して中を覗き込んでいると後ろから突然声をかけられた


そこには煌びやかな袴姿の女性が立っていた

「あまり見るな、恥ずかしい」

「あ、ごめんなさい」

なんでこの人が恥ずかしがるんだろうという疑問はあったがとりあえず謝った

女性はスタスタと近づいてきて顔を近づけてきた

あまりの近さに身を引くと後頭部を掴まれ逃げ場がない

「あの、ちょっと近いです…」

さすがに気まずくなりそう言うと整った顔を微笑ませて離れていった

「悩んでるのか」

「え?」

「ここはそう言う人が来る場所だから

人が来るのは本当にたまになんだ」

近くにあった岩の上に座り袴に挿していた扇子を抜き手の上で遊ばしながら話す

「で、貴女はその悲しみを願うの?」

手にしていた扇子で私を指してきた

私は何もかも知っているかのような口振りの女性に不信感しかなかった

なのに体と心は別々に動いていて

不思議と口が動いてポツリポツリと言葉が漏れる


「わたしは

ずっと一人で、必要とされなくて

今のこの世界が大嫌いで

何もかもから逃げ出したい」


私の言葉を聞いた女性は座っていたところから立ち上がり再び私のそばに来た

「貴女にはこの世界への未練はない?」

「…ない」

未練がない事に少しの悲しみがあったけれどそれが事実だった

「じゃあ後ろを向いて

お社の中の鏡に願うの

きっと気に入るから」

言われるがままに振り返り願ってしまった


『神様、私を助けてください

1人は嫌

こんな生活ももううんざり

この世界から私を助けてください』


閉じていた目を開くと後ろから声がした


「貴女の願い聞き入れたり」


後ろを振り向いたがそこにはあの人形の紙が落ちているだけで誰もいない

ゾッとして逃げようと思って走り出そうとして

その瞬間誰かに目を塞がれた


「おやすみ佐倉桜花(さくら おうか)

…ありがとう」


そのまま私の意識は消え去った

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ