Story6 絡まった現実と、それをほどこうとする意識と、それらを無視する心。
「…一本のライトノベルを創ってきてください」
ピンクメガネは、そう伝えてきた。
「ライト…ノベルですか」
「ええ。──会社の方針でね、そうしようという話になったのです」
…おや、と感じた。『会社 の方針』の単語のあたりで、ピンクメガネはいつになく投げやりな話し方をしたのだ。
「会社の方針…とはいったい──」
と言いかけたところで、ピンクメガネはいつものように被せてくる。
「ところで、牧瀬さんはライトノベルをどう定義しますか?」
「…10代向けの物語…ですかね。ファンタジーや学園恋愛ものが多く、主人公や登場人物も10代の設定が多くて…」
「フムフム、良い線行ってますね、さすがです。…では、ライトノベルのメイン読者層は、どのあたりだと思いますか?」
メイン読者層?…年齢層のことだろうか。
「やっぱり10代…ですよね?男女比はわかりませんが…女性も結構多いような…」
「そこはハズレですね。
ライトノベルを購入しているユーザー層で一番多いのは30代です」
「へえ、そうなんですか」
…意外だった。ああいうの、俺と同じ年代の奴らも読んでいるのか。
「ええ。かつ、不況が騒がれる出版業界の中で、ライトベル市場はまだ規模は小さいものの右肩上がりで成長しているんです。…驚くべきは30代ユーザーの購買意欲…といったところでしょうか。そして、今回我々が制作するゲームのターゲットユーザーも、30代です」
「…なるほど」
「あとは、これは私なりのライトノベルの定義ですが、他の小説や文学のジャンルと比較すると『フランクな会話』という表現がしっくり来るのではないかと思っています。…つまり、『さあ読むぞ!』みたいな肩の力を入れずに、気軽に楽しめる」
「…たしかに、そんな感じはしますね」
「──さらに言いますと、ラノベ作品の世界設定は、その多くが『ドラえもん』のもしもボックスのような構成になっています」
「…もしもボックス?」
「ええ…もしもボックスって牧瀬さんの年代でしたらご存知ですよね?…そうですそうです、IFの世界と言いますか、『もし自分が○○だったら…』を実現するようなストーリー…そういうのがラノベ作品には多いんですね。読者はそんな世界観に感情移入して、現実からの離脱をも楽しんでいるのでしょう」
…若干表現が理屈っぽい気もするが、なかなか面白い見方だな、と思った。こいつ、結構クリエイター気質じゃないか。
「つまり、都会の30代の『心の隙間を埋める』ためのストーリー…そのヒントは、ライトノベルの、そういった『フランクな会話』と、『空想世界で活躍する自分の実現』──にあるんじゃないか、と。…僕らの会社は、そんな見解に至りました」
「…その見解に至ったというのが、方針の変更に関係しているんですね?」
「ええ、それでですね。ここからの牧瀬さんへのお仕事の進め方も、当初の予定から大きく変えていきたいと思っています」
「お仕事の進め方…ですか」
変えるも何も、具体的な進め方すらまだ聞けていなかったような気がするが…
「ええ…」
そう言ったあと、ピンクメガネは目を閉じて椅子に深くもたれかかり、
そのままの態勢ででじっと、黙りふけた。
「…どうかされましたか?」
「…え?…ああ…少し喋り疲れましてね。
…あ、すみません。実は昨日一昨日と徹夜でしたもので…ちょっとガス欠気味です。
───おい、カスミ」
ピンクメガネは急に隣に座るアシスタントの女性──たしか、タナベ カスミという女性──に声を掛けた。
「はい」
「あとの説明、頼むわ。…あと、この後この会議室予約入ってるみたいだから」
「…わかりました」
タナベ カスミはそう応えた後、俺の方を向いた。
「…牧瀬さま」
…タナベカスミが俺に直接声を掛けたのは、この時が初めてだったのかもしれない。
まだ10代のあどけなさの残っているような、若々しくて、…そして少しだけ、不安定な雰囲気を持ったような、そんな声だった。
「──このあと、もう少しだけお話させていただきたいのですが、
場所を変えてもよろしいでしょうか?」
◇ ◇ ◇
タナベカスミに連れてこられたのは、株式会社ワークカラットの食堂兼カフェスペースだった。
かなり広めの──30畳くらいあるだろうか、まだ内装には新しさも感じられる、清潔できれいなフロアだった。木材の質感をしっとりと感じさせるような上品なテーブルと椅子がいくつも置かれ、ところどころに観葉植物が配置されている。そして、フローリングには柔らかめの人工芝が敷き詰められていた。
「ずいぶん立派なリフレッシュスペースだね」
「…はい。社員に十分にリラックスできる場所を、ということで作られたんです。…反面、業務フロアの方はいつもバタバタしているんですが」
タナベカスミはそう言って軽く微笑み返す。
「そこのテーブルに座っていていただけますか。私、飲み物を持ってきます。…コーヒー…で良いでしょうか?」
「ああ、うん。ありがとう」
俺はテーブルに座り、レジカウンターへと注文しに行くタナベカスミの後ろ姿を眺めた。
…若々しく引き締まったウェストに否応なく目を奪われる。──小柄で華奢な体格だ。亜希子や麻紀と比べると、若干中性的な印象も受ける。
途中男性社員に声を掛けられ、笑って返している横顔が見えた。…前回会ったときは20代後半あたりに見えたのだが、もっと全然若い──おそらく20歳を少し過ぎたあたり──というのが会話をしてすぐにわかった。話し方にまだあどけなさがあるのだ。それに、外見の美しさの割りには男性を惹きつけるような吸引力があまりないのも、きっと女性としての初々しさ…の裏返しなのだろう。
…そういえば、最近あんな若い娘と話してない。…過去によく話していたのはいつ頃だったろうか…と過去を辿っていくうちに、10年前までさかのぼり、亜希子や麻紀とはじめて出会った頃を思い出していた。
あの頃の2人も、タナベカスミと同じような感じだったかもしれない。生命力にあふれていて、だけどどこかあどけなくて、そのギャップが少し危うくて、放っておけなくて───。そして、その時期から数年経って、2人とも洗練され、落ち着きと憂いのある、大人の女性に変貌していった。
「…お待たせしました」
タナベカスミは2人分のコーヒーと、それに軽くつまめるような小さいクッキーの入った皿をテーブルに置いた。
「ありがとう…お金払わないとね」
「いえ、大丈夫です。会社の支払いにできますので」
「そっか…ありがとう。ちょうどコーヒーが飲みたかったんだ」
「良かった。お気になさらず、召し上がってくださいね…あの、それより」
「…ん?」
「…すみません。
いろいろご迷惑をおかけしまして」
タナベカスミは本当に申し訳なさそうに、そう言った。
「え、なにが?」
「いきなり呼び出してしまったり、…あとは、ライトノベルを創れだとか急に言ってしまったり…」
…なるほど、無理を言っているという自覚はあるわけか。少なくとも、この娘の方には。
「いや、大丈夫だよ。こういうノリは慣れてるし。それに、一番大変なのは現場の開発チームの人たちだろうからね」
そう言って俺は笑って見せる。
「…本当にすみません…少し、こちらもバタバタしてまして…」
「だからいいってば。…協力して頑張ろうよ。俺もやれる範囲で最大限取り組むからさ」
「…ありがとうございます」
「それより、話を進めようか。…これからどうしていくか、も含めて」
「はい。」
彼女は少し気を許したような、親し気な笑みを向けてくれた。
◇ ◇ ◇
タナベカスミが話した内容をざっとまとめると、こういうことだった。
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【状況】
・1か月前にワークカラット社のオーナーが新しく 変わり、そのオーナーはゲームの企画やスケジュールに対していろいろ口出すタイプだった。
・そのため、社内のゲーム制作チームは進捗ごとにオーナーのチェックや要望の吸い上げが必要となり、全体的にバタバタするようになった。
(つまり、全体的に「やり直し」リテイクの回数が増え、それに合わせて今まで以上にスピード感ある制作が必要となってきた、といことだろう)
【お願いしたいこと】
・シナリオ作成の報酬を若干上げるので、納期を早めてほしい。
・また、連携を密に取りたいので、週に1回は同じ業務スペースで作業してもらえないか。
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「…ふーん、なるほどね…」
…まあ、いろいろと面倒な感じは受けたが、報酬が上がるというのはありがたい依頼だった。
少し検討する素振りを見せた後、そのことを正直に彼女に伝えたら、彼女は引き受けてくれそうでよかった、断られたらどうしようかと思っていた、ということを言ってくれた。
「でも、別に俺から断られても、そんなに困らなかったでしょ?シナリオプランニングができるという人はほかにもいるだろうし」
「たしかにそうですが、…牧瀬さんにお願いしたいと私たちは思っていたんです。…特に、尾下のほうで。…実際、以前牧瀬さんが手掛けられたゲームも、尾下はその当時にプレイしてるんですよ?」
「え、そうなの?」
…かなり意外だった。
「はい。『このゲームは確かに、ストーリーとキャラデザインに助けられてるね。これでゲームシステムが良ければ、もっと売れたのに』とよく話していました」
「…そんな風に評価してくれてたなんて、ちっとも思わなかったよ」
…そんな風に思っていて、どうしてあんな態度になるのかがまったく理解できなかった。
「すみません…尾下はあんな風に、少しだけ…周囲への対応に癖というか、特徴があるので…」
…俺の考えていることが伝わったのか、タナベカスミは自分の上司へのフォローをする。…どうやら、話しぶりからすると彼女自身はピンクメガネを嫌っているわけではなさそうだ。
「いやいや、そんな謝らないで。気にしてないからさ。…とりあえず、大枠は了承したよ。あとは、契約や次の会合についてだね。…その点は別途また連絡もらえるってことで良いかな?」
「あ、はい…それと、もうひとつ」
「うん?」
「これは…お仕事とは関係のない話なんですが…」
タナベカスミは少し言いにくそうに俺の顔を見ている。
「実は私、牧瀬さんのことを街で何度か拝見していまして…」
「…え?」
嫌な予感がし た。──俺を街で目撃していた…だって?…ちょっと待ってくれ…いったいいつだ?何していたときだろう…まさか…
「…どこで見かけた…のかな?」
「あの、牧瀬さん、西新宿のテラスアゼリアというマンションにお住まい、…ですよね?」
…『西新宿のテラスアゼリア』は、俺が住んでいるマンションの名前だ。
「…そうだけどさ、…あの、なんでそれを知っているの?」
「実は…私も、そこに住んでいるんです」
タナベカスミは、そう言った。
◇ ◇ ◇
「初めてお打合せでお会いしたとき、すぐわかりました。──あ、同じマンションでたまに見かける人だ…って」
タナベカスミは恥ずかしそうにそう言った。…そうか、だから初回のミーティングの時、彼女は俺のことをじっと眺めていたのか。
──俺は彼女を、マンション付近で見たことはあっただろうか……全然、思い出せない。
「牧瀬さんはいつも、考え事をされるような風で歩いてらっしゃるので、私のことは気づかなかったかもしれませんが」
…タナベカスミは外見的に決して目立たないタイプではない。というより、その逆だ。すれ違う時に異性の多くは彼女のことを見るだろう。そんな彼女を、今まで同じマンションであることに、この俺が気づかなかった…そんなことってあるんだろうか。
「…次回ばったりお会いした時に、びっくりされないようにお話しておこうと思いまして」
「あ、ああ。うん、そうだよね。…たしかに、いきなりマンション内で会ったらびっくりしそうだ。…ありがとうね、教えてくれて」
「…いえ。いろいろとお会いする機会が増えそうですが、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
…俺の部屋で16万ほどの物件だ。社歴3年目の若手スタッフの給料だけではやっていけないだろう。彼女はまだまだいろいろ秘密がありそうだ──そんな下世話な好奇心が静かに湧き上がってくる。…だが、そんな感情を一切見せないように、俺達はしばらくのあいだ、自分たちのマンション付近の地域話に淡い花を咲かせた。どこのスーパーで食材を買っているか、とか、クリーニング屋はどこが安いかとか、近くのおいしいお薦めの飲食店とか…。
──ふと俺は、タナベ カスミと二人で近所の川沿いの遊歩道を散策する、そんな風景を想い浮かべる。
『悪くないな』
という感情が産まれ、少ししてそれに意識が追いついて、急いでかき消した。
…おいおい、数か月ぶりの仕事の、大事なクライアントだぞ?…何考えているんだ、俺は。
「今度、ランチでも如何でしょうか」
「え?」
…俺じゃない。誘ってきたのは、彼女からだった。
「あ、いえ…お、お仕事の相談もできるかな、と思いまして…」
少し顔を赤くしながら、タナベカスミはそう訂正した。
「…いいね。──タナベさんは、好きな食事とか、ある?」
極力、自然に、落ち着いた声で反応しながら、俺は自問する。
──今、俺の心の内なる表情はどうなっているんだろう?
だらしなく鼻の下を伸ばした間抜け顔か、…それとも…。
まだ『潤い』と呼ぶには、その源泉はとても、か細くて──、
だが確かにそこに存在している。
…彼女の、心のほんの一部分の小さな箇所にだが。
でも俺は、その潤いを無意識に、本能的に、求めてしまう。
それが途中で枯れ果ててしまわなうよう、慎重に、細心の注意を払って───
◇ ◇ ◇
タナベ カスミと別れ、ワークカラット社を出たときは昼の2時頃だった。
──まっすぐ家に帰ろうかと思ったが、途中考え直して新宿駅の後西口地下にある、落ち着いた感じの軽食店に入った。
少し、状況をまとめたかったのだ。ここ数日で、いろんなことがありすぎたから。
注文した卵サンドイッチを平らげた後、カモミールティーを飲みながら、目を閉じて──頭の整理に取り掛かった。
まずはじめに、仕事のことだ。
ワークカラット社の案件は、ひとまず本格的に始まることは確定された。──だいぶん忙しくはなりそうだが。
ここから意識することは、この仕事用にきちんと時間を確保することだ。
シナリオプランニングは、『これだけ時間をかければ必ず完成する』というものがない。原稿用紙1枚分進行するのに5分とかからない時もあれば、10時間かけてもやり直しになることもある。だからこそ、日常生活で相応に時間を確保する必要がある。
そしてもうひとつは、今回の反省も含めて、クライアント…ピンクメガネとタナベカスミとの連絡を密に取り合うこと。
…この2点をしっかり意識さえしていれば、まあ大きな間違いはなく仕事は進められるだろう。
続いて、仕事以外のことではどうだろうか。
昨日の麻紀との一件。…さすがに、キスしたのは良くなかった。…彼女の性格から、それを周囲に言いふらすといったリスクはあまり考えられないが、このままにしてお互いぎこちなさと会いにくさを残したままになるは嫌だ。
──昼の時間帯で一度会って、謝った方がよいかもしれない。なにか、彼女が喜びそうなプレゼントも買っておこうか。
…だが、もし会ってくれなかったらどうする?…そのときは、一度冷却期間を持つしかない。どちらにせよ、彼女とは智也や亜希子と同様、これまで苦楽を共にした経験もある大切な仲間だ。…その関係を、これからも大事にしていきたい。
ふと、昨夜の麻紀の艶めかしい唇の感触が蘇ってきた──が、急いでその思考を奥底に押し込んだ。…今はそのことを考えるべきじゃない。とにかく、麻紀にはもう一度連絡を入れておこう。
次に、智也と、そして亜希子のことを考えてみた。
亜希子とは明後日に会うことになっている。──俺は、彼女と会ってどうすればよいのだろうか?
── 昨晩、麻紀が言った台詞が頭の中で蘇る。
『あたしはあんまり賛成できない。今回のことに対して──特に、マッキーが関与することについて』
俺は、彼女と会って、どうしたいと思っているんだろう?
彼女に会いたいという気持ちだけで、動いてしまっていないか。
もっと…亜希子、そして智也に対して、『俺がしてあげられること』を考えて行動しないといけないんじゃないか。
そして、それは何があるんだろうか。
──じわりじわりと、寂しい考えが心を支配していく。
『俺自身が彼女らにしてあげることなんて、何一つ無いのかもしれない』
『…今回の件は…私たちがあまり入るべきじゃないと思う。
トモさんと、亜希子が──、夫婦ふたりが、2人の力で解決しなきゃいけないんだよ』
…たしかに、麻紀の言う通りかもしれない。
俺は、介入すべきではない。
…そして、明後日の、亜希子とのランチの約束も。
◇ ◇ ◇
──亜希子に、明後日の件の連絡を入れておこう。
冷めきったカモミールティーを飲み干し、スマホを取り出したちょうどそのとき、着信が入る───智也からだった。
「今、少しだけ大丈夫か」
智也が言う。──この前よりかは少し、声が元気そうだ。
「ああ、大丈夫だよ。何かあったか?」
「さっきさ、久しぶりに職場で麻紀に会ってさ、少し話してたんだよ」
「…そうか」
「お前、昨日麻紀と会って相談してくれたんだってな。俺と亜希子のこと」
「え?…あ、ああ。そうだな」
「ありがとな。いろいろ気を遣ってくれて。
…だけど麻紀からは怒られたよ。『周りに迷惑かけずに、もっと自分の奥さんのことしっかり面倒見ろ』ってさ」
そう言って智也は電話口で笑った。
「…そんなこと言ったのか、あいつ」
「ああ、でも正論だよ。思い返せば、俺、あいつ…亜希子と最近全然向き合えてなかったし。…時間取れないの、全部仕事のせいにしてたからさ」
智也の声は、少し嬉しそうだった。
「だからさ、近々何日か有給でも使って、あいつとちょっと一緒にいる時間作ろうと思うんだよ」
「いいんじゃないか。…てか、最初っからそうやれって」
「ハハハハハハ…まったくだ。
…麻紀からも『マッキーに心配かけすぎだ』って怒られたよ。悪かったな」
「俺は全然迷惑かかってないから、気にするな」
「…牧瀬」
「なんだ?」
「本当に、ありがとな」
「…いや、だから、別に──」
「…仕事戻る。──じゃあな」
そう言って智也は電話を切った。
◇ ◇ ◇
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麻紀とのメッセージ
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from:牧瀬
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昨日は色々ゴメン。
あと、さっき智也から電話あったよ
麻紀と話せて嬉しかったみたいだよ
俺からも今度また改めて、
ランチでも誘わせてくれ。
お礼とお詫びも兼ねて。
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from:麻紀
…………………………………………………………
うん、トモさんと話したよ。
あとね、お礼もお詫びも要らないから。
だけど、折角だしランチはご相伴あずかるわ。
マッキーの方で日程決めて?
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from:牧瀬
…………………………………………………………
来週の月曜日、
渋谷のマークシティタワーでどうだ?
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from:麻紀
…………………………………………………………
OK
一応、楽しみにしておく。
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from:牧瀬
…………………………………………………………
一応、かw
俺も楽しみにしてるよ。またな。
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亜希子とのメッセージ
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from:牧瀬
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亜希子へ
本当に申し訳ないんだけど、明後日の
ランチの約束、キャンセルさせてください。
仕事が一気に増えてしまって、
しばらく身動きがとれなそうなんだ。
また連絡する。
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◇ ◇ ◇
智也との電話を終えた後、俺は麻紀と亜希子にそれぞれメッセを送った。
麻紀からはすぐレスがあり、その返事をしていたりと、結局店を出るときはもう17時近くになっていた。
──それから2時間後、俺はいつもよりかなり早めに自宅の布団に入り込んだ。
前日がほぼ徹夜だったこともあり、夕方あたりからすでに疲れと眠気のピークが 来ていたのだ。
亜希子へのメッセの方は、この日彼女からの返事は来なかった。
布団に入った後、すぐに深い眠りがやってきて、
次に意識が戻ったのは翌朝の7時過ぎだった。──12時間も寝ていたらしい。
そして、スマホには1件の着信履歴があった。
着信元は、───亜希子からだった。
…




