時の流れと書簡
『敬愛するマリアーヌ公爵夫人に親愛を込めてお便りを申し上げます。
マリアーヌ公爵夫人様よりお手紙をいただき、誠に嬉しく思い感謝致します。ヘルムート卿からいただいた婚姻のお話は身余る光栄と存知、お話の進展に心を砕いております。私の身ではいかなる言葉もこのような栄誉には届かず、私はただ事態を一喜一憂して見守るほかございません。マリアーヌ公爵夫人様にご助力いただけることを感謝しております。
私の父上がマリアーヌ公爵夫人様をお助けしたとのこと、我が事のように栄誉に感じます。私にとって父上は父上なので王都での有名と聞き、驚いております。ただ、そのご恩がご令嬢との婚姻をお考えいただける程かどうか、私は気がかりでございます。恋愛に関しては主のお導きにより当人同士の自然な力の流れでございます。ご令嬢が私を気に入っていただけるなどとは恐れ多くて自信がございませんが、機会がございましたら直接ご挨拶等をさせていただければと思います。
我が領地の再建でマリアーヌ公爵夫人様のお心を痛めていただき嬉しく思います。私もマリアーヌ公爵夫人様のご厚意に甘えるのはいかがかとも思いますが、我が領地の逼迫した現状からしてお願いを申し上げることがあるかもしれません。大変寛大なお言葉に伏してお礼を申し上げます。
羊毛織職人ラミグラス氏は我が領地でも大変人気者で、その技術は目を見張る物ばかりです。ご推薦の件誠にありがとうございます。こちらで、服が作れるようになりましたら僅かばかりですが、お礼を差し上げます。
私の事を気遣うお言葉、ありがとうございます。日も短くなっており、手紙をしたためる机にも火を灯すようになりました。マリアーヌ公爵夫人様も夜冷えでご体調を崩されないようにご注意いただき、ご自愛ください。
義母とはまた恐縮至極のお言葉。伏して御愛情を感謝しております。まだまだ至らぬ身で、そのような呼び方や思いを馳せるのは早いかとも存じますが、親愛のお言葉として嬉しく頂戴致します。
マリアーヌ公爵夫人様にも主のお導きとご加護がございますように。
親愛なるマリアーヌ公爵夫人様へ、ゼン・リーンフェルトよりお礼のお返事として』
『親愛なる友ヴァルゲン・ヘルムート卿へ。
俺の婚姻のお話はどこまで進んでいますか?先日マリアーヌ公爵夫人から手紙をいただいた折に、母上達に公爵夫人からの手紙がバレました。
なんとか誤魔化せはしましたが、母上達に隠し事をするのは大変心苦しく思います。現状で何処まで進んでいるかを教えていただければ、このわだかまりが煙のように消えゆく日を想像して安心できます。父上にも十分に話が言っているのであれば、父上と一緒に母上を説得することも出来ます。現状をいち早く知りたいと思います。
先日いただいた話は進めてください。領民達に仕事を任せる第一歩になるとおもいます。
マリアーヌ公爵夫人からいただいた手紙以外は順調に進んでおります。羊毛も500頭でそろそろ限界に来ております。できれば塩をもっと欲しいのでそちらの伝で融通いただけると嬉しいです。
ゼン・リーンフェルトより』
『小さき友ゼン・リーンフェルトへ親愛を込めて。
その話驚いたぞ。マリアーヌ公爵夫人にはこちらが手紙を送って直ぐそちらに来たということだな。ワシの配慮が足りなかった。すまぬ。
婚姻の話は、お前の噂をクリューベに流してハスクブル公に手紙とやり取りしておるところだ。ハスクブル公はお主の力を疑問に思っておるが、この国の現状を鑑みて一つの手だとの認識しておられると思う。これを確信にして話を進めて、ハスクブル公爵家勢力からある程度の同意を得てからトルイに話をするつもりだ。お主には悪いが、トルイが是非を言えぬ程まで話を固めてからだと思っておる。なので、お主がアイリ夫人に話をするのはまだ先になる。しばし我慢してもらうぞ。
あの件は了解した。こちらの組合を通して、お主達に仕事を頼もう。軍の一部とは言え、いい物を作ってくれることを願う。
塩に関しては値段はいつも通りの価格で貿易商人組合に話しておこう。
ヴァルゲン・ヘルムート』
『毛織物組合長様へ
この度のお話を進めていただた寛大なる組合長様に感謝のお便りを申し上げます。ヘルムート卿のご厚意に甘え、仕事の一部をいただいたことに感謝とともに、組合様が昔よりお付き合いがある他の方に迷惑をかけていないかと心を痛めております。
その寛大なる組合長様のためにも今回の仕事は粉骨砕身でさせていただきます。
冬用兵士上着20着、ズボン20着、冬用手袋50組を使徒ヨシュヤ月までに準備して、送らせていただきます。
品質に関しては、我が領地初めての織物業のため至らぬ点があるかもしれません。そのときにご指摘いただければ、代わりの物をすぐさま送らせていただきます。
お手数をおかけ致しますが、何卒今後宜しくお願い致します。
リーンフェルト領、代理領主ゼン・リーンフェルト』
『ご高名なゼン・リーンフェルト卿に尊敬の念とご丁寧なお手紙の返事をしたためさせていただきます。
ご丁寧なお手紙をありがたく拝見させていただきました。お歳のことを考えるといただいたお手紙を私共の驚きと、尊敬の念を持ってお返事させていただきます。
私共は以前より仕事を任せる業者が少ないことを嘆いておりましたのでご心配には及びません。この仕事で閣下の領地がいち早く復興していただけると思うと光栄に思います。
冬用兵士上着20着、ズボン20着、冬用手袋50組を使徒ヨシュヤ月にお願い致します。兵士達の夜警もそろそろたき火が必要となってくる時期ですのでいち早く渡したいと思います。
品質は、あのラミグラス氏であればこちらも安心しております。ラミグラス氏は花の都市クリューベでも有名な職人でしたので間違いはございません。
閣下のお仕事が主の導きによって上手くいくように私共も祈らせていただきます。
毛織物組合長リザルールより、お返事まで』
『愛するゼンに私の愛を届けるわ。
そちらはどうかしら?上手くいってる?まあ、ゼンの事だから別に心配はしていないけどね。会える日がとても長く感じて待ち遠しいわね。
この手紙を書いているのは春で、私たちは今ミッドバル国のトラムって所にいるわ。こちらは毎日毎日砂っぽくて暑いわよ。でもこの場所の服がとても好きだからとても楽しいのよね。最近はこの街もとても賑やかになった。昔はもっと寂しいところだったんだけど、豊穣が続いているのでこの国の人も嬉しそうな顔をしている。
トラムはドゥナ湖と海を繋がる真ん中がぐらいにあって、砂を固めた白い家がたくさんあるの。丘に登って眺めると結構いいのよ。私たちが泊まっている宿はその丘の上にあって、芝生に寝転んで横を向くと素敵な町並みが見えるの。貴方を連れてきたらとても楽しくなりそう。
ちなみに今の私はパオラっていうこの国の衣装を着ているんだけど、とても綺麗でセクシーなのよ?胸が楽で、あと腰も涼しいのよね。夜はこれで踊るの。激しい炎に照らされながら踊れば、きっと貴方を虜に出来るわね。楽しみにしてて。
あと、一座は元気にしていて。リーシャは何時ものように私の側にいて景色を眺めながら何かを考えているわ。フェスティナは今買い物で団員達と出かけている。私だけが手紙を書くことにあの子は不満をいっていたけど、残念よね。この手紙を書きすぎても重さが合わないから出せないのよね。
まあ、元気にしてるって事だけ伝えたくてね。
私たちはここに一ヶ月ほどいたら次にトローレスに向かうわ。あの国はここと違ってじめっとしてて汗をかくから苦手なのよ。その代わり食べ物や果物がたくさんあって美味しいのよ。何かを贈れればいいのだけど、食べ物は腐ってしまうから残念。一緒に旅をしたときに楽しみましょう。
そろそろ紙も尽きてきたからまた書くわね。
ちゃんとゼンも手紙書いてる?書いていなかったら直ぐに書いてね。貴方の事が知りたい。
じゃあ、貴方に私の抱擁が届くように。
貴方を愛するリア・アフロ―ディアより』
『親愛なるリア・アフロ―ディアさんに感謝を込めて。
お手紙ありがとうございます。こちらも手紙を出していたのですが、まだ届いていなかったようですね。一刻も早く届くことを願っております。
いいですね。俺もリアさんとトラムに行ってみたいです。ミッドバルは砂漠の国って聞きましたけどちゃんと大きな都市があるのですね。一緒に行ける日が来れば是非案内してください。楽しみにしてます。
リアさんのミッドバル国の衣装を見てみたいです。パオラって言うんですね。出来ればそれを送っていただければ領地の人達が喜びます。領地で作りますのでその衣装で踊ってください。とても期待してます。
皆さんが元気にしていると聞いて安心です。こちらも元気でしてますよ。狩りに訓練に領地のことで毎日忙しくて充実しています。この前、ジャン・リッツォーリ卿と稽古しました。祝福持ちとの戦闘は驚くことばかりです。彼も一度貴女に会いたいと言っていましたので機会があればご紹介します。なかなかアクの強い性格ですが、本当は親切な方だと思います。
前に出した手紙に書きましたが、羊毛業を領地で始めて織物を作ります。トローレスやミッドバルの衣装や気に入った柄の織物があれば送ってください。費用はこちらがもちます。俺の領地で作った物をリアさんに着ていただけると思ったら夜も寝られません。もし出来れば王都で一緒に散歩しましょう。その衣装を着てながら、なんて思ったりします。
あと二年はとても長いですが、リアさん達が元気にしていることを願っています。また手紙書きます。
リアさんのお手紙も楽しみです。
貴女の健康を祈るゼン・リーンフェルトより』
『リーンフェルト領の代理領主ゼン・リーンフェルト卿へ。
貴方様のご活躍は私が仰せつかっている領地モルバーシにまで聞こえております。私の名はモルバーシ領の代官エルド・グレスプル。この度は突然の手紙失礼しております。それも閣下が織物業を始めたと聞き、是非モルバーシ領に商品を融通していただければと思っております。領地は閣下と同じく農業が中心のため領地内の服を生産しておりません。そのために貿易で賄っておりますが輸送費等のことを考えると近隣であります閣下の領地に依頼をして、作っていただければこちらも嬉しいのです。
大量注文は領地の状況からは難しいのですが、貿易をしていただけると嬉しく思います。一度そちらに使者と商人を派遣してもよろしいでしょうか?
突然のことをお願い申し上げて、恐縮ですがご配慮いただければと思います。
宜しくお願い致します。
モルバーシ領代官エルド・グレスプル』
『モルバーシ領代官エルド・グレイスプル殿に感謝と喜びでお便りを申し上げます。
この度のお話誠にありがとうございます。エルド殿のことは我が領地の代官トルエス殿よりお聞きしました。大変聡明な方だとトルエス殿より伺い、安心してお返事をしたためさせていただきます。
お話は是非にと言いたいところですが、我が領地もまだ織物業は始めたばかりで品質も、商品も安定しておりません。ですのでご納得いただけるだけの物をお取引いただけるかはなんともいえませんが、一度見てご判断していただければと思います。
使者と商人の方はこちらで歓迎させていただきます。まだ小さな領地のために宿は少し見窄らしいかも知れませんがご用意しますのでご到着の前にお知らせいただければと思います。
リーンフェルト領、代理領主ゼン・リーンフェルト』
『小さき友ゼン・リーンフェルトへ親愛を込めて。
あれから婚姻の件で少し進展があった。ハスクブル公が国王にお話していただけるということだ。これも神のお導きに感謝せねばな。
話自体は陛下の耳に入れるだけということだが、陛下はトルイをよく知っておる。以前、アイツは少しだけだが陛下の近衛騎士として働いておったからな。陛下の覚えもある。トルイの人柄を知っているので、話は一蹴されることなく留意されるだろう。それで少し事態が進展すればいいと思うのだが。
それとお主、織物組合長に手紙を出したな?リザルールもお主のことをワシに嬉しそうに話しておった。そういった悪知恵がトルイにあればと思うのだが。無理な話だな。うむ、あの手紙は実に見事だった。商品次第ではリザルールもお主の所を悪く扱わないだろう。気合いを入れて作れよ。
領地では足りぬ物はあるか?そろそろ春麦の収穫の時期だ。人手も足りないだろう。もしよかったらこちらから派遣することも可能だがどうする?もちろん、その者達への賃金はお主が払うのだぞ。ワシはまだあの剣のことがあってお主に金をやるつもりはないからな
ヴァルゲン・ヘルムート』
『親愛なる友ヴァルゲン・ヘルムート卿へ。
お知らせありがとうございます。それは良かったです。この件はおそらく陛下のご意志の同意も得られないと上手くいかないですからね。我がリーンフェルトの爵位のこともありますし。
悪知恵というのは聞き捨てなりませんね。仕事をただ円滑にしたいという営業努力と言ってください。こちらもそれ相応の物を作るために領民達に働いて貰っています。ラミグラスさんは結構厳しいし、軍の服を作ると聞いて顔をしかめながら野暮ったい仕事ね、と不満を漏らしております。でもしっかりと監督してくれているのできっといい物ができますよ。それは自信を持って言えます。楽しみにしててください。この仕事は成功させます。
贈り物は好意ですからね。お金は気にせずにありがたく使わせて貰っています。やっぱりあの懐剣ゼラークスは凄いです。獲物の骨をまるで羊毛のような軽さで斬ることが出来ます。これ凄いですよ。
人手の件を心配していただきありがとうございます。こちらもなんとかやりくりして不足した分を取り戻そうとしていますよ。ただ、税が軽くなっているのでまだ手が回っている状況です。もちろん、無償でご援助いただけるのであれば喜んで申し出をお受けしますが、寛大なるヘルムート辺境伯のご厚意に甘えているだけではダメですので頑張らせていただきます。
ゼン・リーンフェルト』
『親愛なるゼン・リーンフェルト卿にお返事の感謝とまたお手紙を差し上げる喜びを感じております。
やはりあのトルイ・リーンフェルト卿のご子息ですね。素晴らしいお手紙ありがとうございます。余りにも嬉しくって日に何度も読み返しております。
私も少し気が逸っておりましたね。貴方様がエリザベスとまだ一度も会っていないという事を失念しておりました。エリザベスは親心かも知れませんが、花の都市一の美しい姫と市井でも噂されております。エリザベスは我が兄シャルルの気質を継いでいるのか、少々やんちゃで男勝りな所もございますが、貴方様にお会いする日までには立派な淑女として教養を身につけさせますのでご安心ください。貴方様とエリザベス、二人が会うときはそれはもう主の加護によって素晴らしい日となると思います。花の都市一番の美しい私達の城の庭園でお茶を致しましょう。それを夢に見ております。
領地のことは何でも遠慮なさらず言ってくださいね。私もお力になることがございます。機織りの機械などは大丈夫でしょうか?家令に聞いたところ、ラミグラス氏は王都の最新式の織機で作っていたと聞いております。差し出がましいかも知れませんが、もしよろしければ織機を送らせていただきます。お返事をお聞かせくださいませ。私も服がいただけると聞いたらいても立ってもいられないのですよ。お笑いください。
貴方様が仰るように夜も寒くなってきております。お忙しい中体調を崩さぬようにご自愛ください。
貴方様のご活躍が主のお導きによって私の領地にまで聞こえるように耳をすませております。
お返事お待ちしております。
ハスクブル公爵夫人マリアーヌ』
『敬愛なるマリアーヌ公爵夫人様へ格別のご厚意の感謝を込めて伏してお礼のお便りを申し上げます。
我が身はまだまだ至らぬばかりでそう言っていただけるのか、汗顔の至りです。お会いしたときに落胆されぬよう精進して参りたいと思います。
マリアーヌ公爵夫人様のご令嬢とお会いできることを楽しみにしております。私のことを気にせずにご令嬢の自然体のままでお会いしたいと思いますので、無理なきようお願い致します。私もまだ王都の学校に入学しておらず、給仕長より手紙の書き方や礼儀作法を学んでいるところです。ご令嬢は学校はどうされるのですか?同い歳と聞いておりましたので一緒に学校に行けるのではあればそれも大変楽しみです。
機織り機のお申し出、大変痛み入ります。できれば、ご厚意に甘えることなくちゃんとした運営をできればいいのですが、我が領地の現状からして甘えることをお許しいただければと思います。是非、お願い致します。これでマリアーヌ公爵夫人様へお贈りさせていただく服が良くなればと思います。笑うなどと飛んでもございません。お優しいマリアーヌ公爵夫人様の御愛情にすがる私をお笑いください。
今、領地では収穫の最盛期を迎えつつあります。私も畑に出て麦の穂を刈るのを手伝っております。私は飲めませんが、美味しいエールとなることを主に祈っております。我が領地の蜂蜜酒を手紙と添えて送らせていただきます。寒い夜をこれで少しでも温かく過ごしていただければと思います。
マリアーヌ公爵夫人様もお体にお気をつけてご自愛ください。
主のご加護が貴女様にありますように。
親愛なるマリアーヌ公爵夫人様へ、ゼン・リーンフェルトより心ばかりの品を添えて』
『聡明なる小さき英雄ゼン・リーンフェルト卿に商品の到着のお礼を兼ねてお便り申し上げます。
今朝商品の到着を確認致しました。
冬用兵士上着20着、ズボン20着、冬用手袋50組を確かに受領いたしました。
代金等はこの手紙と一緒に信用のおける組合の者が届けております。金貨70枚をご確認ください。もし、足りなければ使いの者を鞭打ちで問い詰めても構いません。その際の不足分は直ぐに送らせていただきます。
商品の出来は大変素晴らしいです。羊毛も他の業者の者よりも多くて、まるでパンのようにふっくらとして艶がいいですね。これならば安心してお任せできます。来年度では生産を受注を多くしてもよろしいでしょうか?余りの出来に組合からも発注したいと思いますので生産量のご明記をお願いできればと思います。
今後ともお付き合いの程を宜しくお願いします。
毛織物組合長リザルールより、確認まで』
『敬愛なる毛織物組合長リザルール殿にお支払いのお礼を申し上げます。
確かに使いの方から金貨70枚をいただきました。ありがとうございます。
納得いただける商品をお届けできて一安心しております。是非お使いいただければと思います。
生産分に関しては羊毛の確保のためにこちらも動いておりますが、まだ初年度ということもありハッキリした数字が出せません。
現状では来年度に関しては冬用上着100着、ズボン100着、冬用手袋200組が精々の限界でございます。他の受注も随時していきますが、お待たせする可能性も高く、一度こちらの商人と相談していただければと思います。収穫が終わりましたら麦の輸送で商人もそちらにお伺いできますのでその時に宜しくお願い致します。
引き続き御愛好を宜しくお願い致します。
リーンフェルト領、代理領主ゼン・リーンフェルト』
『小さき友ゼン・リーンフェルトへ親愛を込めて。
昨日、お主のところの商品を確認した。素晴らしいできだな。羊毛を随分と奮発してくれたようで兵士達も喜んでおった。軍支給の服はどれもケチっておってな、手袋をはめても指が直ぐに外革に触れて凍える冬には泣きたくなるものばかりだ。だが、お主の所の手袋は実に羊毛がふかふかしておって、兵士達も夜警でたき火の周りをうろうろせずに済む。あまりにも他と違っておって、少々他の業者から文句が出そうで注意した方がいいかもしれんな。まあ、これで他の業者もお主達のところに負けないこ物を作ってくれることを主に祈ろう。それで質の高い物が兵士達に回れば良い。
ただ、失笑してしまったが、お主の所の商品を取り合って少しいざこざが起こる。士官のみに配ったとしてもあれだけの量では少なすぎる。早く全てを賄えるだけの規模にせよ。少しぐらいなら援助はしよう。
ヴァルゲン・ヘルムート』
『親愛なる友ヴァルゲン・ヘルムート卿へ。
喜んでいただけて俺もほっとしています。他の手袋や服を集めて見て商品を作ってますね。羊毛は他の商品の二割増しぐらいで作りました。その代わり利益が薄くなっておりますが、初めての仕事ですからね。ヴァルゲンさんの顔も立てて、ここは奮発しております。
業者からの批判は出そうだと思っておりますが、組合長が喜んでいただければ問題はないかと。これで競争が起きればヴァルゲンさんも嬉しいのでは?ヴァルゲンさんのお手伝いできて誇らしく思います。
いざこざの件はちょっと吃驚しました。いっそのこと、兵士の中で報奨みたいな形にして特別な支給品をお作りしましょうか?ラミグラス氏も軍支給の物は装飾少なく、縫製も凝っていないので、少し特別感を出すような物を作るのも面白いかも知れません。その点はラミグラス氏に任せれば素晴らしいものができます。マリアーヌ公爵夫人から最新式の機織り機を融通していただけるようになりました。少々心苦しく思ったのですが、そのお話をありがたく受け取ろうと思います。
援助という申し出ありがとうございます。出来れば羊毛の確保と染色剤を組合に言って更に取引できるよにしていただければ嬉しく思います。
ゼン・リーンフェルトより』
『リーンフェルト領の代理領主ゼン・リーンフェルト卿へ。
御寛大なるお返事に敬愛を込めてお便りを申し上げます。
お返事から間が空いてしまったことに伏して謝罪致します。収穫期と会計が重なり返事が遅くなってしまいました。申し訳ありません。
お話はありがたく受けさせていただきます。こちらから使者と商人、護衛を合わせて8人の商隊を送りますので、ご手配をお願い致します。時期はこの手紙がそちらに届いてからおそらく一週間後にしております。こちらから心ばかりですが、領地で養殖している魚の燻製を贈らせていただきます。何卒宜しくお願い致します
モルバーシ領代官エルド・グレスプル』
『小さき友ゼン・リーンフェルトへ親愛を込めて。
報奨のこと、実に面白い。お主は小さいくせに色々と思いつくようだ。それも自らの領地のためになる事に苦心している。我が息子ユルゲンにも見習わせたいぐらいだ。
こちらで少し検討してみたが、軍の支給品は装飾を変えることはできないが縫製を良くして質の良い物なら可能だ。今の時勢で兵士にとって温かい服は何よりの援軍だからな。どこまでの金額で行うかは今組合長と相談している。その際には一番にお主の所で任せるつもりだ。覚悟しておれよ。
しかし、ワシはあまり服の装飾というものを考えていなかったが、改めて考えると重要だな。いい装飾の物が兵士達に届いておれば士気が上がり、その服を見た敵兵が恐れを成すかもしれん。服が良ければそれだけ軍備と国力がある証拠だからな。この度の一件で成果が上がれば軍の上にも具申してみようと思う。その際にはお主の名を広めるからな。楽しみにしておれ。
羊毛と染色剤の件は組合長に話を通しておいた。安心せよ、十分な量を確保しよう。
では、羊毛と織物業に力を入れて頑張れよ。
ヴァルゲン・ヘルムート』
『モルバーシ領代官エルド・グレイスプル殿に商隊の件のお返事を申し上げます。
お手紙確認しました。こちらで準備をさせていただきます。その際には我が領地の名産品を振る舞い、エルド殿にもお土産をお渡しするつもりですので楽しみにしていただければと思います。
私も魚の燻製を楽しみに待っております。
この取引が上手くいきますよう主のご加護がありますように。
手紙の受領まで。
リーンフェルト領、代理領主ゼン・リーンフェルト』
『親愛なる友ヴァルゲン・ヘルムート卿へ。
僅かながらの浅知恵です。そこまで褒めていただくとなんだか身体中がむず痒くなってきますね。ユルゲン卿とは以前オークザラムに行ったときにはあまり話す機会がなかったので今度お会いできる機会があればお話ししたく思います。
どれだけの量を発注するのか、青ざめてしまいます。精一杯の手心をお願いしますよ。こちらも来年度のことを考えると人員を増やす必要があるので早めに教えていただければ嬉しいです。
服は重要ですね。服もまた装備なのでやはり敵の士気を挫くためにはいい物が配給されればと思います。トランザニアの装備とはどんな感じなのですか?戦いの現場を見たことがないので想像も出来ません。
陛下に具申とは恐悦至極です。ただ考えを言っただけなのでそこまで大きくなると呆気にとられて、気を失いそうですよ。小心者なんですからね、俺は。
ご手配ありがとうございます。十分な量と種類が増えれば商品の質も向上します。商隊を派遣しますので何卒宜しくお願いします。
ゼン・リーンフェルト』
『モルバーシ領代官エルド・グレイスプル殿に商隊のご帰還と共にこの手紙をお送りさせていただき、商隊の方々への感謝の印にお便り申し上げます。
商隊の方々は人柄も、商売の腕も大変素晴らしく大変良い商談をさせていただきました。こちらの想定した相場よりも随分と良い値での取引をありがたく受けさせていただきます。ただ、やはり心苦しいのが商品の量が少ないことです。受注からお手元に商品を届けるまでに時間が掛かってしまいます。オークザラムのヘルムート卿との取引もありますので、商品の納期は流動的になります。商人の方と使者の方は待っていただけるとのことでしたが、こちらもできうる限りで手配させていただきます。
魚の燻製大変美味しくいただきました。父上トルイもそろそろ任務から帰って参りますのでまた家族でいただこうかと思います。
今後はモルバーシ領の街道を使い商品を運ぶ商隊もそちらに行くかと思いますが、何卒宜しくお願い致します。もし何かあれば言っていただければと思います。信用のおける商人ですので滅多なことはないかと思いますが、訴訟等がありましたら真っ先に私にお知らせください。
宜しくお願い致します
リーンフェルト領、代理領主ゼン・リーンフェルト』
『尊敬なる小さな領主ゼン・リーンフェルト卿へ
ご丁寧なお手紙と領主として素晴らしい腕前に感服しており、ご尊敬の念をもってお便りを申し上げます。
こちらも使者と商人から話を伺いました。ゼン卿については今までに見たこともないほど立派な才覚の御仁であると伺っております。まさに我らの賢王グリゼリフ陛下の幼少を重ねて、伏してご尊敬の念を抱いております。
使者や商人達も寛大な歓迎を受けて、大変満足して喜んでおります。商談に関しては商人に今後一存しますのでそちらの商人の方とお話しいただければと思います。
モルバーシ領の名産が剛剣トルイ卿の食卓に上ること、領民全てが光栄と存じます。また贈り致しますのお召し上がりになっていただければと思います。
いただいた蜂蜜酒は大変口当たりがさっぱりしていて極上品です。このようなお土産をいただき、誠にありがとうございます。寒い夜の友として傍らに置かせていただきます。
街道をご使用になる際にはリーンフェルト領の家紋をお見せください。最高の客人として迎えさせていただきます。
それではゼン卿の健康と才が主の御霊に沿うように、すべての善なるものが貴方様をお導きくださるよう希っております。
モルバーシ領代官エルド・グレスプル』
俺はモルバーシ領代官エルド・グレスプルからいただいた手紙を鍵付きで少し大きめの木箱に入れる。
手紙用の木箱は本人以外誰にも読まれないように頑丈に作られている。
手紙、書簡とは非常に重要だ。
それを見られただけで弱みやその人物の人柄、考えが漏洩してしまう。俺は母上達の隠し事があるので最近奮発して手紙入れを買った。
いただいた手紙と複写が入っている。これが山のように入るのはいつ頃だろうか?そのときには俺は何歳になっているのかな?
そんな事を考えながら俺は書斎の火を消した。
さて、明日からは本格な冬が訪れそうだ。禅の記憶が来てから二度目の冬は忙しい。
本来なら農業は閑散期に入るはずだが、その暇な手を一同に借りて織物を生産しないと。強力な援助があったので羊毛業も織物業も希望が見えている。完全な軌道に乗るのは結構早いかも知れない。
とはいえ、まだ領地全体の経済を復興させるにはまだまだだ。この勢いを更に強めて、この冬を乗り越えないとな。
俺は蝋燭台を持って、書斎から出る。寂しい外ではカルヴァスが何かに向かって遠吠えをしていた。
物悲しくなく遠吠えが冬の到来を予感させた。




