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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
第四章 王都までの道のり
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風変わりな毛織物職人と待ちに待った短剣

「なんて可愛らしいのかしら!その黄金の髪、青水晶のごとき瞳!素晴らしいわ!素晴らしっくってよ!私の創作意欲が沸く!清らかな泉のごとく滾々と迸るわ!身体が熱い!熱いわよーーー!」

俺はその様子に顔を引きつらせてしまう。

言葉だけ聞けば女性だと思いたいのだが、だみ声で鍛え込まれたレスラーのような身体をくねらせるのは男だ。

それも30過ぎた巨漢の男が、薄く化粧をして、フリルの着いたシャツでくねらせているのは悪夢のようだ。


俺の目の前にいるのはハスクブル公爵領から雇った毛織物職人のラミグラスさん。

彼は俺の領地に来た足で自分の工房を確認した後俺たちへ挨拶をしにきていた。

香油がかかった艶のある茶色の短髪と角張った顔にピンと整えられた口髭と綺麗な三角になった顎髭。計算されて着崩したフリルのシャツからは胸毛が少し見えている。

服飾業界にはそういった人達がいると禅の知識ではあるが、初めて間の当たりするその人の濃さで俺は胸を詰まらせていた。


トルエスさんと羊毛業の相談をしてから二ヶ月がたった。

羊は随時トックハイ村にやってきて、すでに羊飼いとトスカ村の人達がその世話をしている。

いまで400頭になっている羊を安全に飼うためには復興したてのトスカ村では無理だと判断したための処置だ。


「あ・・・ラミグラスさん。えっと・・・領地は気に入っていただけましたか・・・?」

「だめよ、ゼン様。私はラミグラスであって、ラミグラスではないのよ。私は天使の服織り、アミステリアと呼んで頂戴。そうね、野暮ったいけどのんびりしてていい所だわ。私の工房にぴったりね!庭の木陰が最高だわ。レースの着いた布を引いて王女様のように眠るのよ。最高!」

「そ、そうですか」

俺は椅子を深く座り、できる限りラミグラスさんと距離を取っている。

なぜだか応接間が非常に狭く感じる。


アミステリアとはこの世界の絵本に出てくる美しい服を作る王女様だ。

禅の世界だとシンデレラみたいな内容なのだが、自分のことをアミステリアと呼ぶのが剛胆すぎる。


「それにトルエス様もなんて色男!いいわねここ!いい男がいれば私の服もより美しくなるわ!恋が必要なのよ、服をつくるためには。恋する気持ちが服を美しくさせる。だから!いい男が必要なのよ!」

興奮するラミグラスさんは両手を固く握りしめて熱弁する。

俺の隣で彼を連れて来たトルエスさんも凄い引きつった笑顔で彼を見ていた。

俺は気になっていたことを率直に聞く。

「えっとアミステリアさんは男の人が好きなんですか?」

俺の言葉でラミグラスさんは人差し指を小さく振りながら俺の意見を否定する。

「ちっちっち。まだまだね。私は男でも女でも美しければ恋をするのよ!ほら、服は男も女も着るでしょう?」


やばい。この人何でもありだ。


「そ、そうですね。男性服も女性服も作れるのは嬉しいですね」

「ね!それと聞いたらあのリア様の服も作れるんですってね!なんて光栄なの!嬉しくって興奮して、私の胸もほら!見て!小鳥のように高鳴っているわ!」

ビクンビクンと小鳥というか、まるで恐ろしい生き物のように脈動する胸板を俺たちにさらけ出している。


怖い・・・。怖すぎる。

動悸が激しいどころではない。不整脈でもあそこまで脈動しないぞ。

あ、トルエスさん恐ろしすぎて、目を見開いて息を飲んでいる。


「ほ、本当ですね。では喜んで仕事していただけるんですよね?」

「もちろんよ!嬉しくって貴方を抱きしめたいぐらいよ!抱きしめてもいいかしら?」

「いえ、遠慮します」

俺はすかさずいった。

あんなゴツくて暑苦しい人に抱きしめられたら窒息死しそうだ。

俺は早く他のことがしたくなって、というか逃げ出したくなって口を開く。

「じゃあ、トスカ村の人達への挨拶は、我が領地の優秀な代官がしますので」

俺の言葉でマッハの速度で顔を向けてきたトルエスさんは、ラミグラスさんの見えていないところで俺の太ももをつねってきた。


無言のにらみ合い。

言外にトルエスさんの膨大な量の文句が聞こえてきそうだったが、俺は全て黙殺する。

「ほら、さっき荷物が届いたのでそれを確認しないと」

俺はしばらくにらみ合った後でトルエスさんに言った。

トルエスさんは数え切れない不満の嵐を笑顔で包み込んでいう。

「ゼン様。私は待ちますよ。ええ、ずっと待ちますら一緒に案内しに行きましょう」

「いえ、トルエス様。アミステリアさんをお待たせするのは忍びないので」

俺はそう返す。

俺たち二人を見ていたラミグラスさんは、待ちきれなかったのかソワソワした様子で口を開く。

「私の針子達を早く紹介して欲しいわ!トルエス様!ほらゼン様もそう仰っているのですから行きましょうね」

ラミグラスさんは立ち上がり、トルエスさんの腕を引っ張る。

その力が並外れているのか、まるで嵐に吹き飛ばされる枯れ木のようにトルエスさんはよろめきながら無理矢理に立ち上がらされながらいう。

「ちょっ!コラ!ゼン!」

引きずられるようにラミグラスさんに引っ張られながらトルエスさんの悲痛な叫びが応接間に木霊した。

俺はそれをドナドナの歌で、売られていく子牛のように見つめながら、トルエスさんに思いを馳せる。


襲われても労災っていうのはないですから、怪我だけはしないようにしてください。

俺は二人が応接間から退出するまでを見つめながらそうトルエスさんに向かって、祈りを捧げていた。



気を取り直して俺は書斎にもどって届いていた荷物を確認する。

荷物は小さな木箱とヴァルゲンさんの手紙だった。

俺はソワソワしながら木箱の方に手を向ける。


なぜならその木箱には『ゾルガ武器屋』と書かれているからだ。

去年注文していた短剣が届いたのだ。

祝福持ちであるゾルガさんが一年近くかかって作った物。嫌が応にも期待で胸が膨らむ。


質素な濃い茶色の木箱をパカリと開く。

そこには見事な短刀が入っていた。

息を飲むほど美しく、洗練された短刀。百練利刀と言う言葉が相応しい。

約6寸の直刃の短刀。鍔はなく柄はどこにでもありそうな木で出来ている。鞘も同じ木から作られており、納めると小さな木の棒のようにも見える。

だが、その刃は異常なまでの美しさを持っていた。夏の暑さが室内の温度を高めているが、その刃の周りだけは怜悧な冷気が放たれているような気がする。刃は光を反射し、銀色に光り輝く。その銀色は最も純粋で、銀の中の銀色だ。

短刀は直刃だが、その刃にはダマカス鋼のように波打つ波紋のように何層もの複雑な縞模様が広がっている。

あまりの美しさに俺は見入っていた。

ラミグラスさんのように恋をしていたに違いない。


その縞模様は禅の世界の知識を使って再現している。

この短刀の鋼は、固い鋼と柔らかい鋼を70層以上も重ね合わせて作っている。幾重にもある縞模様はその多層構造を研いだときに現れる。その多層構造を研ぐと刃がでる。その時にその刃には目で見えないほどの凹凸が作られる。

つまり、ミクロなノコギリだ。

力を入れずともそのノコギリ状の刃は物を斬ることが出来るのだ。

この世界でこれだけの技術があるかどうかは、賭けだったがゾルガさんはきっちりその仕事をしてくれた。


俺は木箱からその短刀を取り出して握り、何度か構えと素振りをする。

実に軽い。短刀は分厚くない。それも軽さを極限まで高めたように薄い。

ちょっと耐久性を心配してしまう。


ふと木箱に目を向けると手紙が入っていた。

俺はその手紙を読む。


『ゼン。注文通りの物を作った。俺の生涯最高傑作だ。大事に使えよ。

その懐剣ゼラークスには二種類の鋼を使っている。一つは硬い鋼であるトランザニア最高品質の鋼だ。それともう一つはモータル鋼。これは手に入れるのが非常に難しかった。闇市場でも出物がほとんどない鋼だからな。この国にある限りのを手に入れて作ってある。モータル鋼は耐久性が飛び抜けているから耐久性は折り紙付きだ。請求はすでに済ませて、ヘルムート卿から金は貰っている安心しな』

字がすこし雑だが、ゾルガさんらしい字だ。


ん?請求しているってことはもしかして、一緒に来ていたヴァルゲンさんの手紙にそのことが書いてあるのかな?

そう思って今度はヴァルゲンさんの手紙を開いてそれを読んでだから俺は悲鳴を上げそうになった。


『ゼン!お主なんてものを注文したのだ!目が飛び出るかと思ったぞ!請求金額金貨200枚なんてワシの武器でもそうはないぞ。ワシが贈るからといってこんなものを注文されたのでは困る。贈ると言ったからには、金は払ったが貸し1だからな!―――』

というあらましでズラズラと文句を書き連ねて、後は報告やら領地のことをたずねる文章になっていた。


金貨200枚。日本円で2000万円か・・・。

お金に糸目はつけないといってもこんな金額になるとは思っていなかった。禅の世界の日本では日本刀は数十万円ぐらいから100万円ぐらいまでであるからそんなつもりで言ったのだが。ゾルガさんは名工中の名工だとは頭にあったが忘れていた。

いや、だってゾルガさんってどっちかというと飲み屋のおじさんみだいだし。祝福持ちだけどそんな気もしなかったし・・・。

まあ、貰っちゃった物は仕方ない。大事にしよう。


それにしてもモータル鋼ってなんだろう?

硬い鋼はトランザニアの鋼を使ったらしいから、モータル鋼は柔らかい鋼ということになるのかもしれない。

あとでトルエスさんにでも聞いてみるか。

いや、明日にしよう。今日聞いても絶対に答えてくれないだろうし。


それよりも懐剣ゼラークスか・・・。

ゼルの武器と一緒に使えって事だな。

うん、ゾルガさんも凄く粋だ。きっとゼルと俺のために最高の一刀を作ってくれたのかもしれない。

あの銘を呟いたときにもうこの銘があったに違いない。


じゃあ早速、ゼルの剣と一緒に稽古でもしてこようかな!

いや、先にヴァルゲンさんへの謝罪と領地の運営に関する件を手紙にした方がいいな。


俺はソワソワする気持ちを抑えて、短刀とゾルガさんの手紙を木箱に戻して、書斎の机の上にある羽ペンを手に取る。

ニヤニヤしてしまう顔で俺は手紙を書き始めた。


モータル鋼についてはこの世界独自の鋼です。

祝福持ちリストとステータスに記載しますので後ほどご確認ください

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