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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
第三章 復興の火と故郷の歌
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羊毛業の企み

ゼンの年齢を9歳と調整しております。アースクラウン暦10026年、つまり今年で10歳ですね。

全話かけての年齢の修正は今後随時していきます。

ご了承ください

「トルエスさん、ヴァルゲンさんから返事来ましたよ」

俺はトルエスさんの屋敷の書斎で何時もの机に座りながらそう言った。

俺が入れた香木茶を飲みながら書類に目を通していたトルエスさんはこちらを見て、嬉しそうな顔をして聞いてくる。

「お。来たか。どうだった?」

「これ手紙です」

俺は持っていた手紙を彼に私ながら内容を要約して答える。

「職人の手配と羊飼いの移住はなんとかなりそうですね。毛織り職人の方はなかなか性格に難がありそうですが、俺たちにとってはちょうどいいかと思います」

トルエスさんが手紙を読んでいる横で俺はヴァルゲンさんの手紙を思い出していた。


手紙は、羊毛業をするので職人と羊飼いを手配して欲しいという旨を書いた俺への返事だ。

羊飼いは、ヘルムート辺境伯領から数世帯規模で移住させるという。羊飼いは農村でも比較的地位が低いのでそれは簡単にいくと思っていた。

問題は腕の良い毛織物職人だ。

毛織物職人はこの世界でも重要な産業の職人なので各都市で組合によって守られている。領主や組合が彼らを保護し、賃金を払うので簡単には移住できない職人達。

今回はトスカ村の将来を考えて、品質の安定した毛織り物を生産するために腕の良い職人を雇って彼らの教育係をしてもらおうと思っていた。見つかるまでは羊毛だけでやっていこうかと思っていたが案外早く見つかった。

おそらくヴァルゲンさんが骨を折ってくれたのだと思う。

毛織物職人はハスクブル公爵領の毛織物組合の職人で親方ぐらいの地位はあるそうだが、職人気質といよりも芸術家肌なのか、納得できない領主や組合の仕事を拒否する問題のある人みたいだ。その代わり腕は確かで、その仕事ぶりは組合でも評価されている。


しかし、組合とは互助会。つまり秩序を守り、労働環境を一定にして共存共栄するための集まり。保守的であり、その中から逸脱するような者に対しては結構五月蠅い。組合は領主や自分たちの仕事をしないその職人に対して、幾ら腕が良くても厄介者だと感じていたのだろう。あるいは何かしらの圧力を掛けていたのかもしれない。

ヴァルゲンさんからの内容だとそこまでは書いていなかったが、その職人は自分で好きな仕事が出来る場所を探していたようで、今回の話を喜んで引き受けたらしい。


俺たちが提示した条件は、できる限りの機材とある程度利益を上げれる好きな仕事をさせる。こちらの低いノルマを達成するれば好きなだけ織物をしてもよいと言う条件だ。その代わりにトスカ村の人達に織物を教えることを必要としている。

簡単に言ってしまえば一種のパトロンのような関係である。こちらも職人一人ぐらいなら雇っても問題はない。

ちなみにその職人は結婚していない。


それも組合の意向を汲んでいないなとも思ってしまう。組合は親方や腕の良い徒弟の結婚を推奨している。なぜなら、結婚すれば家庭を持ち安定志向になるからだ。安定志向になれば、組合の仕事を精力的にする。子供も職人になるので生産力と将来の職人の確保につながるので結婚は組合の中でも重要課題となっている。


とんだ変わり者なのだろうと俺はその手紙から想像していた。

「まあいいんじゃないか?こんな辺境にくるんだから喜んで受け入れよう」

トルエスさんは手紙を読み終わって呑気のそう言った。

「ですね。結婚もしていないのでトスカ村の人といい関係になってくれれば将来も安泰です」

「お前、そこまで考えるのかよ。そりゃそうだがな。んで、どうする?職人やら羊毛が安定しても売れなきゃ困るぞ」

トルエスさんは手紙を俺に返しながらそう言った。


今回の相談はそれが主題だ。

俺はにやりと笑いながらトルエスさんに答えていた。

「ええ、もちろん考えてありますよ。まあ、まだ考えの段階でありますけど」

「おう、待ってた。羊毛業は俺だけの考えじゃだめだからな、領主様一家の考えを聞かないとな」

トルエスさんは俺の顔を見て、笑いながら肩をすくめる。


この人は、羊毛業に関して俺に押しつける気だな。

トルエスさんの仕事量からしてもう手一杯なのだろう。最初から俺はそのつもりだったので別にかまわないけど。


俺はそのトルエスさんを見ながら考えを述べる。

「俺たちの身近に有名人が二人いますよね?」

俺はちょっとじらすためにトルエスさんにそう聞いていた。

トルエスさんは俺の言葉でちょっと考えるように目を上に上げて答える。

「ああ、トルイとリア嬢だろ?・・・もしかして?」

俺はトルエスさんの答えに満足して、人の悪い笑みを浮かべていたと思う。

「そうです。その二人を利用します。父上とリアさんに俺たちが作った服を着て貰って王都を歩いて宣伝して貰えば売れるのは確実です」

「そりゃ馬鹿売れだ。トルイの奴ならお前とアイリが頼めばすぐさましてくれると思うが、リア嬢にはどうやって頼むんだ?」

「リアさんには俺が頼むんですけどやっぱり一座の人ですからそういう話をいやがるかも知れませんので、もしダメだったら、巡業中に気に入った布を送って貰うようにしますよ」

「そうか。その布というか柄をこっちで作って、リア嬢お気に入りの柄として売る気だな?」

「はい」


リアさんは超一流の踊り子だ。彼女が着ている服はもしかしたらすでにスポンサーみたいな組合がいて牛耳っている可能性と彼女達が広告宣伝をいやがる可能性を考慮しなければならない。禅の世界でも一流のスポーツ選手やモデルに専属の企業がついているのと同じように。

だけど彼女が気に入った布は別にその契約に含まれないだろうと思いたい。


俺が今からするのは広告宣伝。どれだけ人々の注目を浴びるか。

その広告宣伝での難関である有名人の起用が、偶々低いのを利用しない手はない。


それにもうリアさんにはその内容の手紙を送っている。

『被災地で羊毛業をするので、もしお気に入りの布や柄があったら送ってください。参考にします。郵送費用はこちらで持ちますし、服が作れるようになったら真っ先にリアさんに贈りたいので』と。

うん、我ながら人を利用することが上手いと思う。

まあ、リアさんにはお世話になっているので、売り上げとか関係なくプレゼントしたい気持ちもあるが、プレゼントした後で作ってもリアさんなら許してくれると思う。

本当は彼女に服もデザインして貰えたら絶対に流行ると思うんだけどね。それは欲をかきすぎかな。


「お前は本当にいい性格しているよなぁ。あれだろ?どうせ、トスカ村じゃ生産力が少ないからそれも付加価値として値段をつり上げる気だろ?」

トルエスさんは呆れたように俺にいった。

「バレましたか」


トルエスさんは俺の考えを先読みしていた。

トスカ村というか、俺たちがする羊毛業や織物業に関しては規模が小さいし、王都のようにそこまで高品質なものを作れない。

つまり、初期の段階では大量生産もできないし、利益が高い高級品ができない。トスカ村を短期間で成長させるのが難しいのだ。

できるのは最大限手を掛けて利益の高い物を作って、広告宣伝を打ちそれを売ることぐらいしかできない。それも広告宣伝を打っている間だけの話だから、継続的に繁栄させようとしたら品質を上げて、買い手の納得できる物を作らないとだめだ。だが、そのためには忙しくなる必要がある。物作りの経営では忙しくなればそれを効率的に、品質を上げるために習熟し工夫をする。トスカ村の人達には忙しくなって彼らを追い込む必要がある。注文がたくさん入って、その資金で生活を安定させて、安心して仕事をこなし、品質を上げて、それがまた売れる。その起爆剤として俺はリアさん達を広告にしようと思っていた。


今回俺が考えているのは如何に早く軌道に乗せるか。時間をかけられるのは資本金があるところだけ。

資本金はリーンフェルト家から出ているが、俺はトスカ村の自立を目指している。資本金に甘えるような経営者にはなってほしくはない。

トスカ村が自立して、彼らがもう一度将来に希望が持てるようになればさらに村は発展する。

その経済力が他の場所からの移住を呼び込み、生活力が向上すれば村の人達に笑顔が戻る。忙しくなれば悲しみも少しは軽くなる。

そんな願いを込めて、俺は今回のことを考えていた。


「俺たちはゼンがいることに感謝しなくちゃな。お前がいてくれると安心だよ。で、具体的にはどれぐらいの時間で出来る?トルイが任務地から王都に行こうと思ったら根回しが非常に難しい」

トルエスさんがちょっと真面目な顔で聞いてくる。

俺は彼に答える。

「二年後です。リアさん達が王都に来るとき、俺の入学の年ですね」

俺が答えるとトルエスさんは少し黙り込んで考えた。


羊の放牧を習うのに一年、毛織物職人に織物を習って商品を準備するのに一年。

単純計算だが、普段から家畜の世話や織物を家でしている村人にとってはなんとかなるだろう。


トルエスさんは頷きながらこちらを見て、笑顔を見せる。

「最高だ。それならトルイはお前の入学準備と各貴族への挨拶として交渉すればなんとかなりそうだ。リア嬢とトルイの奴を引き連れて宣伝してこい。お祭り騒ぎになるぞ」

俺は彼の言葉で少し気が重くなる。

「お祭り騒ぎって・・・ちょっと想像すると嫌ですね」

「文句言うな。それで物が売れるんだからな」

「いっそのこと一座の皆から気に入った柄貰いますか?全員で王都を散歩すればいいかもしれませんね」

「お前、トスカ村の人達を殺す気か?んなことしたら注文が殺到して大変なことになっちまうぞ」

トルエスさんは俺の言葉で呆れた顔をした。

「生活のためです。我慢して貰いましょう。今度手紙を出すときに聞いてみます」

「本当・・・いい性格してるな・・・」

トルエスさんは呟くように言う。


その後で俺たちはどこの羊でどれぐらいの数を買うか、相談してその日の午後を過ごした。

将来の期待を膨らませながら。


第三章 幼少期編 リーンフェルト領復興の準備 完結

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