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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
第三章 復興の火と故郷の歌
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魔法談義① ジャン中隊長の魔法講座

「ああ?お前あんなカビの生えた本を読んでたのか?実戦でなんの役にも立たねぇぞ?」

ジャン中隊長は心底呆れたような顔で俺を見た。


あれから三度ほど同じような訓練をしてボコボコにされた。

でも森林戦の方が一対一よりも怪我が少なくて済む。

俺は兵達が作ってくれたスープを飲みながら魔法についてジャン中隊長と話をしていた。

以前俺が読んだ『魔法習得のため初級基礎概論』を彼にたずねたが、嫌そうな反応が返ってきた。


「ダメですか?あれじゃ」

今日もたき火に当たりながらジャン中隊長と対面で話し合う。だけど昨日よりも火を囲む人達は和やかだった。

ジャン中隊長が認めてくれたお陰で兵士達も俺を認めてくれたようだ。中には森の訓練で俺がどこまでジャン中隊長に近づけるか、賭けをしていたみたいで何人かには軽い口調で文句を言われた。賭けは大穴だったらしい。実はその賭けに一人勝ちしたのはジャン中隊長だったのだが、賭けの対象の本人が賭けたら不公平になるのではないかと思う。とうか、ワザと手加減して近くまで俺を誘導したのか?


俺はそう思いながら見つめていると、こっちのことにはお構いなく彼は話し始めた。

「ダメだな。あれは祝福課初年度生がおままごとで読む本だ。いいか、魔法は結局のところ、4パターンだ。『現出』『強化』『操作』『放出』。現出は気にするなまだよく分かってない。魔力を物質化するようなもんだからな。強化は自分の属性の物を文字通り強化する。俺で言うと金属だな。操作は魔力を操作すること。鏢の軌道を変えたり、浮かせたりする。放出は魔力を爆発させて、飛ばすことだ。放出はかなりの魔力を消費するから直ぐに魔力切れを起こす」

「なるほど・・・」

俺はそう呟いた。

それにしてもそのおままごとのような本を父上は大事そうに書斎で一番目立つところに置いていたのか。あの父上なら本など関係なく、感覚のみで魔法を使ってそうなので頷けることだった。


火に薪を放り込みながら、彼は呟くように聞く。

「でも、ゼンはまだ祝福がねぇんだろ?聞いてもしょうがねぇぞ」


まあそれはそうだけど、聞いていて為になる。もっと聞いて、魔法というのがどんな原理で働いてるのか気になる。

戦闘のためというのが一番だが、好奇心もかなりある。

俺はそのジャン中隊長を見ながら確認する。

「いえ、戦うときの参考になります。防壁の刃は自律して動くんですか?」

「ああ、操作の段階で、一定範囲内に入ってくる攻撃を全て防ぐように命令している」

「その攻撃の判断基準は?」

「んなもん、言うわけねぇじゃねぇか!」

彼はそう叫ぶ。


それもそうだ。自分の手の内を見せていいことなど一つもない。

俺はジャン中隊長の話から今までに見た魔法について考える。


ゼルが俺を守るために放ったあの光の矢の連続爆撃は、現出で光の矢を生成して、強化して、操作で軌道を導き、放出で斉射したことになるのか。数百本の光の矢を現出して、放出したんだ魔力切れで倒れるのも無理もない。つまるところ、権能で肉体能力の向上は自分自身の身体を強化しているのか。なるほど面白い。


そこでふと思いついた疑問を彼にたずねた。

「魔法と権能の違いって何ですか?」

「あー、ほとんど変わらねぇけど権能はなんつーか、簡単なんだ。決められた規則があってそれに従えば無理に魔法を使うよりも楽にできる」

顔を顰めて、考えながら彼は思い出すように言った。


なんというか、彼の言葉も感覚過ぎてよく分からない。

ほどほどに鵜呑みにしたほうがいいようだ。


俺は気になったので無駄だと分かりつつも聞く。

「へぇ、ジャン中隊長の権能は?」

「だから、言うわけねぇだろうが」

「それもそうですね。ちなみに魔力って見えるものですか?」

「普通の人間には見えないな。見える奴もいるみたいだが、ほとんど見えない。俺たちは祝福を授かって魔法が使えるようになったらその内感覚でわかる」


魔力が見えたらジャン中隊長の魔法も初動が予測できるのにこれは痛い。

戦闘で初動は非常に重要だ。

魔法がなければ、相手の足裁き、柄の持ち方、目線の動き、顔の向き、身体の向き、筋肉の動き、環境の変化、そう言ったことが相手の次の行動を教えてくれる。そこから予測を立てて、相手よりも早く動けば有利に戦況を動かせる。

魔法に関しては、魔力の動きがかなり予測に役に立ちそうなんだが・・・。

まあ、見える人もいるみたいだし、その辺は今後の課題としよう。


なんだか、死ぬ思いをして訓練した甲斐があって、ジャン中隊長とは気楽に話せるようになった。

怪我の功名というやつか?

遠慮なく俺は質問する。

「ジャン中隊長は祝福持ちの中でどれぐらい強いほうなんですか?」

俺が遠慮なく聞くと、彼は目つきを細めてちょっと苛立たし気にこちらを見てくるが、諦めて口を開く。

「まあいい、俺は中の上ってところだ。まだな」

「ジャン中隊長でも中の上なんですか・・・すると父上はジャン中隊長よりも強いってことですか?」

「・・・はぁ・・・。まあな。トルイ部隊長は王国のなかでも十位にはいる。トップクラスの化け物だ」

彼の答えに俺はちょっと信じられない思いをする。

あんな化け物みたいに森を軽々伐採していたジャン中隊長よりも父上が強いって事が驚愕の事実だ。


今日から父上とは稽古をしたくないな。

俺との稽古は手加減に手加減を加えて、更に手加減を加えたのか。


「大体普通の人と比べてどれぐらい父上は強いんですか?」

「ん・・・簡単な兵力差だと、普通の歩兵3000人と渡り合えるんじゃないか?」


・・・なんだろ。父上は禅の世界だと爆撃機並の戦闘力があると思えばいいのかな?

目眩がしそうになる事実を忘れるために俺は話を変えることにした。

「王国で一番強い人は誰ですか?」

「それは剣候ザークバルムだ。奴は城壁を斬る」

「は?」

城壁を斬る?よく分からない言葉に俺はキョトンと聞き返していた。

「まあ、そうだな。想像できねぇよな。剣候ザークバルムは王国の守護者だ。王都を守るが、反乱が起きれば鎮圧に出る場合もある。昔、反乱して城に立てこもった馬鹿な領主がいてな。王国は見せしめのために剣候を派遣したんだが、奴は城壁を斬り捨てて、半刻も持たずに鎮圧しちまったんだよ」

「そんなのどんな反乱が起きても大丈夫じゃないですか」

俺はなんだかルーン王国内で起きる事柄に気が抜けた。そんな強い人がいればいくらクローヴィス家が反乱を起こしても王国は安泰だ。ヴァルゲンさんが焦る必要もない。

「いや、強い奴は他にもいる。フッザラーではガーラン悪事公、クローヴィスではタイルイ残虐公、ハスクブルにはヴァルゲン辺境伯とお前の父親。俺はよく知らねぇが、彼らは剣候よりも強さは下だ。だが条件次第ではいい勝負をするかもしれねぇ。一番は神国だな。聖騎士には剣候と並ぶ者がざらにいるって話だぜ」


つまり、この世界には爆撃機やそれ以上の戦略兵器並の強さを持つ人間がいるってことか?

ジャン中隊長だけで重機関銃を装備した装甲戦闘車両のように感じてはいたが、この世界の軍事力は禅の世界の同程度の認識でいた方がいいようだ。ジャン中隊長の全力斉射なんて機関銃にしかみえない。彼の断罪の刃はレーザーカッターのように切れ味いいし。

核兵器のような戦略兵器並の祝福持ちだっていそうだ。

隣の国のトランザニアだってその可能性は捨てきれない。

そう考えると俺は後悔する。

そんな話を聞いてのんびりしていられない。

のんびりしてはいられないが、ライフル一つもない世界で俺にはどうしようもない気がする。


俺が絶望のような諦観に苛まれているとたき火の向こうから声がかかる。

「だから、お前のような普通の人間は戦いなんざ考える必要もねぇよ。戦えば間違いなく死ぬ」

そう告げる彼の言葉に俺は諦めそうになる。


仕方ないの一言で済ませられる。

俺は無力な人間。戦いは専門の人に任せて、俺は領地か王都で暮らす。

裏側では何が起こっているのかも気にせずに戦乱に巻き込まれる。

それは嫌だ。

生き残るために状況は正確に知っておきたい。知っておきたいならその中心に、戦いの側まで行く必要がある。

ただ死ぬのではなく、死ぬのが変わらないなら、少しでも足掻きたい。

足掻いて足掻いた後での死なら俺は受け入れられる。

禅の祖父リオ・ラインフォルトのように、満足して死ねる。


だから俺はジャン中隊長にこう答えるしかない。

「ありがとうございます。でもやっぱり俺は死ぬなら足掻いて死にたいです」

揺らめくたき火の向こう側で、ジャン中隊長は顔を顰める。

「好きにしろ。血反吐吐いて、足掻いてろ」

吐き捨てるように言った言葉だが、なんとなく彼が俺を気遣ってくれている様に感じた。

「はい」

俺はその言葉を笑顔で彼に言った。


さて、母上達に無理を言ってトスカ村のジャン中隊長のところに来たが、明日の早朝から帰らないと夜遅くなってしまう。

話し込んでしまって既に冷えたスープの残りを掻き込みながら俺は寝る準備のために、お礼を部隊の人達に言って立ち上がった。


立ち上がると全身の打撲と擦過傷が疼いて、変な歩き方になるが気にせず俺は寝床に戻っていた。

色々あった強化合宿だったが、得たものは多い。

そう思いつつ、俺は直ぐさま眠った。

単行本三冊目ぐらいでようやく魔法使った戦闘やら解説ですか。

長すぎる・・・。

そんな小説ですがいつもご愛読ありがとうございます。

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