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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
第三章 復興の火と故郷の歌
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死の訓練

「昨日はすみませんでした」

俺は頭を下げて彼に謝る。


今日はトスカ村近くの森の付近で訓練を行うと部下の人に教えて貰って向かった。

向かった先でジャン中隊長は既に待っていて、彼の元に行こうとしたら部下の人達に弓矢を渡される。

不思議に思いながら、俺は彼の元に駆け寄って一番最初に昨日のことを謝った。


彼はその俺を無表情に見ながら声をかける。

「逃げろ」

「え?」

「全力で逃げろ。今日は本番も仕込んである。今から森に入って俺に狩られないよう全力で逃げろ。さもなくば死ぬ可能性もある」

「ちょっと――」

「300数え終わったら始める。イチ、ニイ・・・」

俺は数え始めたので諦めて全力で森に逃げ込んだ。


トスカ村の共有林は初めて入るが、頭の中で森の地図を描きながら全力で離れて、身を隠す。

梢の遙か先にジャン中隊長の姿を捕らえる。今は二キロ離れていても見える視力がある。

彼は数え終わったのか、ゆっくりと森に入ってきた。

俺はその姿を見ながら、弓を構える。

400mぐらいなら正確に射抜ける。それが俺の弓の間合いだ。

この際、本気でやろう。足を射抜いても中級魔法薬で治せる。


矢を弓に緩くかけながら、彼が近づくとともに引き絞っていく。

風は緩やか、障害物は複数。だが、障害物の間隙を縫って射抜く。


彼との距離が500mになる。

そこ彼は立ち止まり大声を上げた。

「刈り取れ、『防壁の刃』『断罪の刃』魔飛鏢(フェイシュトール)

高周波のような甲高い共鳴音が響き渡り、鏢が走った。

それが、俺の側50mほどまでくると、彼を中心に円を描き凄まじい勢いで回転する。それはミキサーの刃のようだった。

たやすく大木を、木々を切り倒しながら巻き取られていくその回転するミキサーの刃。

木々が轟音を立てて、あたりに倒れ出す。


俺はその木々の下敷きにならないように、慌てて逃げ出した。

そうすることしか出来ない。

逃げ出しながらも障害物のなくなったことを幸いに、矢を放つ。

障害物がなくなれば精度は上がる。狙いはとれないが彼に一矢を報いれるだろう。


だが、その矢が彼に到達する前に、彼の側にあった一枚の板状の鏢がその矢を弾いた。


「そこか」

矢の軌道から俺の姿を確認したジャン中隊長は無表情にそう言うと、こちらに手をかざす。

「全鏢、指定位置へ、全力斉射」

ジャン中隊長の側に浮いていた40本もの棒状の鏢が、マシンガンのように打ち出される。


俺は、倒れている大木を盾にしようとするが、思い直してその軌道上から即座に離れる。


ダダダダダダダダ!!!


無数の棒鏢が木の粉をまき散らしながら、大木を爆発させたように吹き飛ばす。

吹き飛ばされるその木の粉を全身に浴びながら、俺は姿勢を低くして見つからないように森の奥へと隠れながら進む。


「全鏢、面展開、散逸斉射」

彼の全面に展開された棒鏢が散弾のように俺が隠れている辺りを打ち抜く。


全力斉射と散逸斉射では一本あたりの棒鏢の威力も違う。全力斉射では一本でも大木を打ち抜いたが、散逸斉射の場合は木の幹の半ばまでしか到達していない。回収にも時間が掛かる。

俺は彼が棒鏢を回収している間に更に森の奥へと進む。

この場合はゲリラ戦だ。罠と奇襲による絶え間ない攻撃で相手の疲労を誘う。

魔法も権能も体力を使う。俺が出来るのは持久戦に持ち込んで、反撃の機会をうかがうことだ。




結果的に、あらゆる罠が無駄になった。一つ効果がありそうなのは落とし穴ぐらいで後は全て破壊される。

最初の罠に気づかれた時点で俺の考えが甘かったことを思い知らされた。

ジャン中隊長はある一定の距離を進む度に、地面すれすれに棒鏢を配置し、全力斉射を広げて行い、罠を壊して進む。

落とし穴も効果がありそうだが、穴を隠している木の枝や枯れ葉をまとめて吹き飛ばすのだ。


そこで落とし穴といっても短時間の急ごしらえなので浅いが、それをいろんな場所に作った。

そして、俺は今最初の森の入り口に来ている。

ここまでは微妙に足跡やら形跡を残して彼を誘導した。

彼は森を伐採しながらその跡を追って、こちらに向かっている。木々が倒れる轟音と振動が森中に溢れて、もはや動物たちは震えて逃げただろう。


俺は枯れ葉や木々で身を偽装して、彼を待つ。

真上の空を棒鏢が凄まじい速度で泳ぐ魚の群れのように遮って、あらゆるものを吹き飛ばす。

ガサガサと音を隠そうともせずにジャン中隊長は歩いてくる。

俺は顔を隠し息を潜ませながらその足音に耳をすませる。


頭上で音が一瞬止んだ。気配が遠のく。

それを一拍待った後、俺は握っていた左手のナイフを彼に投げながら穴から飛び出す。

身を低くして、地面ギリギリに背を向けて、彼の視界に入らないように左足を軸として、右足を一歩だし剣を真下から切り上げる。

人が最も警戒しにくい場所、それは頭上と足下だ。

一度、彼は落とし穴を確認している。泥と枯れ葉で偽装した穴を覗き込んだのなら足下に注意はいかない。

必殺の斬撃が繰り出される。


二つの甲高い音が重なる。


「悪いな。『防壁の刃』は複数出せるんだよ」

そこには二枚の板状の鏢が俺の剣と投げたナイフを防ぐ光景だった。

俺は歯を食いしばり、持っていた剣を捨てると、彼に当て身を喰らわせようと身を翻す。


衝撃が俺を襲い、身体がたやすく宙を舞う。

いつの間にか俺の足下に来ていた棒鏢がすくい上げるように俺の身体を吹き飛ばしたのだ。

吹き飛ばされ、落下しているときに倒れた木にぶつかり鈍い音がして気が遠くなりそうになる。


彼は歩いて俺の目の前に立つと、横に浮かんでいた刃のついた鏢を握って、俺の頬に当てて薄く皮を撫で切った。

ピリリと痛みが頬に走り、頬に血が滲む。

俺は彼を見ながら少し目を細くする。


「お前、頭イカれてるな。散々嬲った後だがよ。怪我や痛みに慣れてるだろ?普通、痛みになれるのなんて前線の兵士でも無理な話だ。イカれてるよ」

スッと、彼は俺の反対の頬をまた撫で切った。

「いいぜ、認めてやるよ。イカれた奴は歓迎だ。昨日の事はこれでチャラだ、ゼン」

その言葉を茫然と聞きながら、視界がチカチカして、眩しい白で染まっていく。


ああ、落ちたときに脳しんとうを起こしたに違いない。

俺は彼の表情も見ることが出来ずにその場で気を失った。

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