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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
一章 リーンフェルト領主嫡男ゼン
7/218

転生発覚?

10/7 一部加筆修正しましたがほとんど変わりません。

「お前は何者だ?」

威圧を含んだ低い声で俺を組み伏せ、俺の喉にナイフを突き付けた人物がそう問うた。

その眼光は鋭く、気高い武人の目だった。


ーーどうしてこうなった?


俺は焦りながらも何とか覆いかぶさる人物を見つめる。

その人物、つまり我が父上トルイ・リーンフェルトはゼンの記憶の何処にもないほどの威圧で俺を睨んでいる。


思い出せ、禅・ラインフォルトの記憶を。

隆源爺の交渉術、状況を見極めて相手を説得する方法を。

俺はこの状況を切りぬけるための最適な答えを作らなければならない。


俺は少しどうしてこの状況になったかを考える。

それは父上が帰ってきたときを思い出していた。



―――――――――――――――――――――――数時間前。



伝令が伝えたように父上は、昼過ぎに帰ってきた。

いつものように随伴していた部下と村の宿で別れて、一目散にリーンフェルトの屋敷に戻る。本当なら領民や留守中に任せている代官から挨拶を受けるが、リーンフェルト領ではその挨拶は父上が戻ってきた翌日にされる。理由は簡単、家族と過ごすことを一番に考えているため、その時間を失うのを嫌ってるからでだ。もっとも当日に挨拶を受けても、上の空で落ち着きがないから領民や代官が遠慮しているにすぎない。


馬が走ってくる音が屋敷の前で止まると、バン、と屋敷のドアが勢いよく開かれた。

「ゼン、アイリ、エンリ!帰ったぞ!」

声を張り上げて、190センチを超えそうなほどの長身で精悍な男が満面の笑みで立っていた。記憶の通り、短い金髪に野性味のある色男、右頬には過去に受けた傷痕が5センチばかり残っている。

その肉体は鍛え込まれた鋼のようだ。鎧はまとっておらず、シンプルな臙脂色の長いコートに白のジレ、下には臙脂色のキュロットに騎乗用の革長靴を履いている。装飾は少ないが体格の良い父上だと貫禄があって似合っていた。腰にロングソードを佩刀し、手には旅の荷物。鎧は部下にいつも通り預けてあるに違いない。


「あなた、おかえりなさい!」

「父上、おかえりなさい」

「旦那様、おかりなさいませ」

母上、エンリエッタと俺は既に馬の蹄の音で玄関に待っていたので三者三様で父上を出迎える。

母上は朝から父上の帰りを今か、今かと待ちわびて落ち着きなく玄関付近を行ったり来たりしていたのには苦笑してしまう。

「おお、お前たちもっとよく顔を見せてくれ」

父上は、持っていた荷物をエンリエッタに渡すと、そう言いながら俺を片手で抱きかかえて彼と同じ目線に持ち上げ、母上と俺を抱きしめる。抱きしめた後は恒例のキスの嵐だ。隣の母上とは俺に見せても大丈夫か?というぐらいに濃厚。

二十キロほどある俺を軽々と上げているのはさすがといえよう。


うん、頬や額のキスは挨拶で父上なので不思議ではないが、男にされるのは今俺にとってはあまり嬉しくないな。汗臭いし。

挨拶を十分に堪能した父上は、俺たちを伴って居間に連れて行く。エンリエッタは父上の愛馬を厩舎で世話をしているのだろう。

母上は上機嫌を飛び越えて、ダンスを踊りそうなほどの軽やかに歩きながら父上に留守中にあったことを楽しそうに話している。


話題は全て俺のこと。

禅のときには感じたいことのない感覚だ。両親が居て、二人が楽しそうに俺が何をして遊んだか、どんなことを話したかを実に楽しそうにしているのは。

だから、余計に感じてしまう。俺はゼンとしての人生を壊してしまったのではないかと。


「なんだって?ゼンは読み書きをもうできるのか?それはすごい!ゼン、俺にも後で絵本を読んでくれ」

そんなことを考えて呆っとしていたので父上が俺に話を向けたのに反応できなかった。

「あなた、なら後で私と二人で聞きましょう。そうだったらエンリも呼ばないと」

ニコニコと二人は幸せそうにそんな会話をしている。


ああ、本当に素晴らしい人たちだ。

リオ爺さんとは違っているが、心からそう思う。


「はい、父上、母上。後で読みますね」

俺は心の底から笑顔を向けながらそう答えていた。

この世界では父上、母上、エンリエッタが俺の家族だ。

リオ爺が亡くなってから家族がいなかった禅には奇跡としか思えない。


後から来たエンリも入れて俺たちは、遅めの昼食をとり、食後にソファに座りながら久しぶりの団らんを楽しむ。

俺は後ろ髪をひかれつつも、父上に話しかけた。

「父上、帰ってきて直ぐに申し訳ないのですが、剣術を教えてください」

ソファに座っていた父上を見上げながら俺はそう切り出していた。

それまで朗らかに笑っていた父上はその表情を消し、じっと俺の目を見つめる。

「それは構わないが、ゼン、剣術は人を殺す技だ。中途半端に教える気はない。父としては教えられぬがそれでもいいのか?」


やはり父上も武人なのだと、俺は思った。

その父上の瞳の色はリオ爺さんと同じ。


「はい、覚悟はできております」

「わかった。木剣を持って庭にいこう」

その父上の様子に母上とエンリエッタが不安げになる。

「ゼン、今日はお父さんも帰ってきたばかりだからまた明日でもいいのよ?」

「いえ、早く剣術を習いたいのです」

その言葉に母上は寂しそうな顔をするが、そう、と一言いって怪我をした時のときのための準備をしにむかった。





屋敷の庭で俺は、父上と対峙する。

二人とも片手に木剣を持ち力まず自然体。

俺は高揚していた。禅では久しぶりの、ゼンとしては初めての稽古。


父上はれっきとした武人だ。それも最も脂がのり、気力も体力も十全、その上に数多くの実践により立ち姿も惚れぼれする。

無意識にどう攻略するか、考えていた。

力も体重も速度も俺よりも遥かに上、その上祝福された超常の力をもつ。

鍔迫り合いをすれば途端に負けるだろう。速度を持った手数の勝負も分が悪すぎる。

なればこそ、ここは技を持って、柔の剣で制する。

俺はこの世界の剣技を知らない。だが、人間の構造と使う剣は変わらない。だとすればどんな剣の技でも禅の世界と通じるはずだ。

剣の間合いを見切り、相手の動きから対応する型を選択すれば万が一の勝機はある。


しかし、今はその闘志を燃やしてはいけない。

型を教えてもらうことが最初だ。

だから俺は父上に教えを乞う。


「父上、剣の型をおしえてください」

「・・・剣の型は後だ。では始める」

父上はその言葉を告げた後素早く剣を正眼に構える。


父上のその構えを見た瞬間、ざわっと本能が動いた。

致命的な失敗だ。

禅の感覚で動いていた。

だがもう遅い。禅の経験がある俺はこういった機会を渇望し、飢えていたのだ。

引けない。

全力で真剣勝負をしてみたい。

そうなってしまえば、脳みそが熱くなるほどの誘惑からは逃げられなかった。


父上からは剣気がはなたれていた。それは試合に臨む剣士としての構え。

父は正眼の構え。

禅の世界で俺は何万回構えただろうか。斬撃も突きも予備動作を最小限にして放てる基本にして、最強とも呼ばれる。対処としては正眼の構えの剣先、相手の筋肉、目線の動きを読みまなければならないが、その予備動作が最小限のためより集中して相手の読まなければならない。

俺は無意識に腰を軽く落とし、右足を引き左足を前にする半身、木剣の先は父の左目より上で構える。父上と同じく正眼。

斬撃も突きも全ての速度が劣っている今、木剣が重なる瞬間の勝負となる。反射神経と木剣を受ける動きは、あらゆる動きの中で最小限の動作で事足りる。

後の剣であれば、勝機がある。いや、むしろ後の剣でか勝負にならない。


時が流れる。

どれだけの時間がたったのだろうか。

数秒か数分か。

刹那の動きも見逃さず、全神経を相手に向ける。他のことは何も見えていない。

常人であれば、耐えれないだろう。膨大な集中力と、強烈な気迫で剣を向ける相手に柳のごとく、力まずに剣を構えることはできない。

力は温存させる。そのために構えを維持する以外の力は全て抜く。揺れる柳のごとく。


―――わずかにリズムを崩すような呼気が聞こえた。

おそらく相手も気がつかないほどの小さな呼吸。

だが、神経が研ぎ澄まされた今俺はそれを聞き、僅かに剣を立てる。


それは虚の剣。


僅かに剣を立てることで撃ち込みの挙動を相手に想像させる。先の剣を撃ち込む動作で相手を誘う。

これがフェイントであることは相手もわかっているだろう。

しかし、それに合わせて、相手の剣も上がる。

その誘いに乗ってきた。

相手の右足が動いた。力を込め、地面を踏みしめられる。


くる!


それはこれまで見た誰よりも早く、文字通り弾丸のごとき速度。

構えは既に上段。その剣に込められた裂帛と速度は瞬く間に俺の間合いに入る。

ただ守るために剣を受ければ、守った俺の剣ごと吹き飛ばされるだろう。

ならば、俺は剛速で迫る相手に向かい、剣を刃天に掲げ、左手を木剣の剣先の少し後ろに掴み相手にむかって前に踏み込んだ。

僅か一歩、相手の速度に合わせてタイミングを計り歩幅は調整済み。


力も、速度も、体重も、身長も負けている俺の利点はその身長の低さだ。そのわずか70センチの身長差分だけ相手の斬撃が当たるタイミングは遅れる。

百分の一秒の世界。

相手の剣と俺の剣の腹が重なる一点。

そこからが俺の技の全てだ。

重なるその一点を起点とし、左手の刃先を相手の喉に右手の柄を相手の外側に回り込む。

一瞬でも剣が遅ければ相手の剛剣により叩きこまれる。もし剣が早すぎれば刃先は喉の位置にはいかない。

薄氷の上を歩くような僅かな勝機に俺は全神経を注いだ一撃を繰り出す。


だが、その俺の全身全霊の技は驚愕の反射速度をもって打ち破られた。

重なる一点、相手にとっては受け流された自分の剣を手首の返しのみによって、俺の刃先の軌道を逸らされる。

そして、相手の剣は振り下ろされることはなく途中で止まり、そのままその剣の腹で真横に俺を吹っ飛ばした。


3メートルは吹き飛んだか、地面に受け身をとって立ちあがる間もなく。

父上が俺を抑え込むために馬乗りになり、俺の動きを封じ込める。

そこから父上の動きを眺めていた。

腰のナイフを抜き放ち、俺のシャツの襟を握ってナイフを喉に突きつける。



―――――――――――――現在




そして今、俺は父上に誰何と問われている。

問われて答えることは決まっている。


「ゼン・リーンフェルトです」

「ならば、三歳のときに渡したプレゼントは?」

「トリアルバンの冒険という絵本と父上から内緒でもらったパイスの果実酒です」

「俺の宝物の場所は?」

「防具入れの下にある隠し金庫の中です」

「なぜ剣が使える?」


俺は躊躇う。

本当のこと全て話したいという欲もある。だが到底受け入れられないだろう。

父上のナイフを握る力が弱まっている。

おそらく、ゼンしかしらない父上との思い出。それを答えた俺を彼は信じる気になったのだと思う。

ならば、俺の答えは決まった。


「祝福です。知識と武術の経験を授かりました」

俺の答えに父上は驚く。

祝福は授かるための力を得なければならない。一部の天才などは生まれ持って祝福を授かる場合もある。

驚くことかもしれないが、あり得ない話ではない。

もしかしたら、祝福により禅・ランフォルトの記憶がゼン・リーンフェルトに宿ったのかもしれない。

その可能性も捨てられない。

「分かった。信じよう。すまない、ゼン。信じ切れなかった父を許してくれ」

そう言いながら父はナイフを直し、俺を立ち上がらせる。

「アイリ、エンリ。ゼンが怪我をしているかもしれない。見てやってくれ。俺は頭を冷やしてくる」


その言葉に、状況に追いつけなかった二人が返事をして、俺のもとに駆けつけてくる。

俺は甲斐甲斐しく心配してくれる二人の言葉に上の空で答えつつ、考える。


これからどうしたものか・・・


思わず、真剣に試合をしてしまった。

そして、一部の事実を隠したとは言え、禅・ラインフォルトの記憶のことを喋ってしまった。

初めての家族。

大切にしていきたいと思った矢先に、思わぬ危機だ。


これからどう状況が流れるか・・・。不安しかない


母上とエンリエッタに連れられて、俺は自室へと向かう。

ちらりと後ろ目に見た父上は何事かを考えるように黙っていた。



戦闘描写は難しいですね。次からもう少しさっぱりとしようかと。

あとヒロインって必要ですか?全然出てくる気配がないのです・

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