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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
第三章 復興の火と故郷の歌
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見せかけの森林官と森番

彼らの働きぶりを一週間見た結論として、リッスパードジャン愚連隊の活躍は目覚ましく成果を上げた。というのも、彼らが焼かれた三村で警備に当たってくれたお陰で種まきは順調に進み、全体の六割ぐらいが種を撒き終えたことになる。その量であれば来年の半年間は生活に必要な分の収穫は期待できる。元々王国に税として収穫高の四割を献上しているので、税を納めなければ食べるだけなら問題なさそうだ。

もちろん、トスカ村では村人と彼らの兵が何度か衝突したようだ。報告だけを見ると名誉毀損やら領主への暴言やら収穫した麦を安値で買いたたこうとしたということぐらいか。

まあお金を払うつもりだったのが驚きだが、その辺は突っぱねた。突っぱねた後で支援というかお礼という形で幾分かは握らせている。


その辺やお酒に関しては馬鹿にならない出費をしているが、安全には変えられない。

後、不定期ではあるが調査の進捗を報告してくれる辺りが嬉しい。その報告書も書き殴ったような書類であまり情報が詳細ではないが、もらえるだけで御の字だ。


既にグラックの大規模な群れを発見したようだ。トスカ村から北に上がり、大森林の聖域近くでグラックの集落を見つけ、今はその観察と王国への報告をしている段階と書類には書いてある。規模は一万に近いという。

聖域付近ということでジャン中隊長も即座に討伐には向かえないらしく。上からの指示を待っているかもしれない。


聖域は原始林に近くて、内部もどういった森になっているのか誰も知らない。聖域を区別するためにはその森の植生がある。太くて真っ直ぐに伸びた巨大な聖木カスピルが聖域の印となる。カスピルとは古代アーベル語で『神の毛』と言う意味で、神の手である霊峰アラフェト山脈に生える神の毛だ。このカスピルを境に聖域があり、その奥はこの世のものとは思えない森が広がり、最奥には神の血『サングラィス』が流れ出る泉があってそれを飲めば不死身になれるなんてことを本気で書いている本もある。

だが、不思議とその場所に誰も行かない。入り込めば神の怒りを買い、魂を四散されるのだと言う。あるいは神の気に当てられて狂うとも。

また、そこに住む動物も神獣として崇められる。トルエスさんの屋敷にある本にもそれらの物語が綴られている。あるとき人里に降りた狼の神獣フェルエレインの話、悪魔に取り憑かれた村を清めた熊の神獣アルガミスの話など。

神獣フェルエレインは神の手の下、つまり大森林地帯で神の足下にある冥府の番人だ。神獣アルガミスは豊穣と知恵を人にもたらして、悪魔や魔族を追い払うとされている。

本当かどうかは知らないがそういう信仰として崇められている。この辺の話は結構面白くて、トルエスさんに感謝しながら読みあさっている。


とまあ、面白さは置いておいて、この聖域は厄介の種でもある。ここに入ると王国の法律で死罪なのだ。

法律があればそれを判断する人間がいるってことで、森林官を雇い監視しなければならない。


森林官とは聖域や領主の森を守る領地の役職の一つで、正確に言うとアラフェト山脈の大森林地帯に面した領主に対して王国側が要求する役職になる。森林官は命令系統において領主を一番上にするが時には王国に告訴し、領主をも裁判にかけることができる。主な仕事は森番を雇い、聖域と領主の森の監視体制を築き、密猟者や侵入者を裁くことだ。聖域に関しては死罪が適応されて、その者が死んだ場合の財産を全て没収する権利がある。領主の森に関しては、密猟や密林伐採の量に応じての罰金を徴収する権利がある。

徴収した物は半分を森林官が、もう半分を領主あるいは王国に納めることとなっている。

そしてこの役職は実は人気がある。というのも密猟者や侵入者を聖域に入った犯罪者として扱えば、その者の財産の半分を懐に収められるからだ。その役職の殆どが領主の次男以下が担当しており、密猟者などを脅して儲けたりする。


だが我が領地ではほとんど必要のない役職でもある。というのも税が軽くて生活が安定している領民達が密猟や密林伐採に手を出さないからだ。そういった犯罪者がいないと森林官やら森番は稼げずに、ただの無駄飯ぐらいになってしまう。


書類上ではトルエスさんがその森林官としているのだが、現状はその責務を果たしていないので討伐軍の本体が来る前に形だけでも人を配置しないとトルエスさんも父上も王国側に怒られてしまう。

そう言ったことは王国側の仕事だろ、とも思うが、街道ではないし、領地の資源である共有林の奥にあるので領主の管轄になってしまう。


幸いまだ本格的な討伐軍が動いてないので時間はあるが、村の再建が始まれば人員と予算を割きたくないというのが俺の心情。

リーンフェルトは男爵位の領地のくせに範囲だけは子爵か、小さな伯爵ぐらいはありそうだから監視のための人員は百人を越えそうだ。平穏時なら別に問題なさそうだが、今は襲撃もあり二十人ぐらいならなんとか回せるが、男手百人はきつい。

人手が百人出せないなら二十人で済む方法を考えなければならない。ただ、二十人でやってますと言ってしまったらやっぱり何か言われるのだろうな。

役所というのは義務を守っていたら、こちらの権利をちゃんと守ってくれるが、義務をこちらが怠ると守ってもらえなくなってしまう。義務をちゃんと守らないと襲撃の減税が減らされてしまうかもしれない。どちらに利益があるのかを考えて短期的に判断をするのもありだが、これから王国とは上手くやっていく必要もあるのでなんとかこの問題を解決するのを考えないといけない。長期的に見れば王国の庇護下にある方がこの国境の領地にとってはいいことなんだ。


今のところ父上が領主になる前には王国の警備隊が森林官や森番として滞在した小屋が各所にはある。それが五カ所。当時の資料だとその小屋に二十人体制で詰めていて、三交代で巡回に当たっていた。つまり六人八時間勤務で一交代、隊長と副隊長が常に小屋にいるので二十人だ。それを俺は四人で24時間体制で巡回しろと言っている様なものだ。

どんなけ黒い経営者なんだ。


ここはやはり妥協案として、鳴子などの罠を作って人員を減らすようにしたと言おうか。ついでに襲撃で人員が割けなくて今はこれぐらいですという情状酌量を期待して。

王国側だって、百人やそこらでリーンフェルト領の聖域すべてを監視できるとは思っていない。おそらく現実的な監視範囲は小屋の周囲数キロが精々だろう。こういったことは形が重要なんだ。だからそれを満たすための妥協点を探るしかない。


俺はそこまで考えて、リーンフェルトの屋敷の書斎の椅子で背筋を伸ばした。

俺の足下にはカヴァスが寝ている。冷える足下をカヴァスの腹があるのでちょっとした湯たんぽだ。

俺が身じろぎしたのでカヴァスは顔を上げてこちらを見てくる。まるで早く寝てくれと訴えているように瞳を潤ませる。

今は夕食を取って、祭りの書類やら手紙やら、報告書を読んでいた。燭台の蝋燭が小指ほどしかない。

くるまっていた毛布を抱きしめながら、俺はそのカヴァスの頭を撫でて、耳を触っていた。


ん?耳?

俺はカヴァスの耳を触りながら思いついた。

鳴子の警戒網の精度を上げるために犬を使うのがいいかもしれない。この子達は耳がいい。鳴子の音を聞いて吠えるように訓練すれば優秀なレーダーの役になるだろう。これならドルグさんにお願いして、十頭ほどの犬を調教すればすぐに使える。一つの小屋に対して二頭いれば心強い。


おお、いい案かもしれない。

鳴子を用意するだけならそんなに金額は掛からないし、たくさん仕掛ければそれなりに使える。その分だけ森の動物による誤報も多くなるが、それには目を瞑ろう。なぜなら形だけでいいからだ。真剣にしなくてもそう言った監視網がありますよってことで納得してもらえるはずだ。


明日は収穫祭だ。

そのときにトルエスさんとドルグさんに相談してみて意見を聞こう。

その前に予算編成の概算だけでも作っておこうか。


そう思い俺は森番達の給料や罠の予算を試算するために羽ペンを手に取った。

足下のカヴァスがクーンと鳴く声が物悲しく寒い書斎に木霊する。

まあ、無視だけど・・・ごめんよ、カヴァス。

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