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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
一章 リーンフェルト領主嫡男ゼン
5/218

異世界考察

あ、何書いてるか書いてる本人すら疑問かもしれません。

そのうち、修正する可能性大です


10/6 一部加筆修正しました

10/14 ストーリーとの齟齬があったためにトールデンの祝福についての説明とトランザニアの情勢を修正しました。

禅がこの世界に来てから5日経った。

とは言え、ゼンの記憶もあるので生活自体は何の不自由もない。言葉は話せるし、母上達への振る舞いも問題ない、食事も慣れたものだ。何もせずにこのまま過ごせばリーンフェルトのゼンとして安心して生きていけるだろう。

で、そんな俺が今何をしているかというと、走りこみだ。

この身体となってから如何せん動きずらい。禅としての記憶の齟齬として上がるのが身体能力。


「はぁ・・・はあ・・・」


息が苦しい、心臓が痛い、手足が重い。

たった5キロ走っただけなのにもうバテ気味だ。

5歳のときの禅よりかは、おそらく身体能力は落ちている。これを効率的にできる限り上げることが最初の目標。


通り過ぎる風景はそこそこ整備された街道、屋敷周辺を走る。

記憶にある限りこの辺で魔物と遭遇しないはずだ。

小さな手足を振って、印を付けた木を折り返して屋敷の方へと戻る。


走りながら考える。


禅の世界とゼンの世界との大きな違いは、3つ。

1、神様がいる

驚くべきことだが、この世界には神様が存在している。主神トールデンを頂点として、その下にアースクル神、ドラキア神、ナルキア神の3神がおり、その3神の下には少なくとも100以上の下位神がいる。少なくともというのは現在確認されている神という意味で、この下位の神様は現世で大きな活躍をすれば、人間が神へと至ることも可能だそうだ。神に至るのは数百年に一人ぐらいのレベルらしくてあまり期待してはいけない。もちろん、我がリーンフェルト家も主神トールデンを信仰している。


2、魔法が存在する

神様からすると少し驚きは小さいが、魔法が使える。これは神様の存在が重要なのだが、神様から祝福をもらうと魔法が使える。主神の祝福は歴代の教皇のみだが、神様から祝福をもらうと魔法あるいは武技といった超常現象のようなことが可能となる。

祝福を授かるには血筋、才能、行いといった要因により得ることができる。ルーン王国では血筋による祝福が授かり易く、リーンフェルト家のトルイは、その剛剣の二名の通り武神ダルギースト様の祝福を授かっており騎士としての権能を持っている。

ここで、祝福と権能の違いだが、祝福は神様の加護を示して、権能はその神様の祝福を受けて使える能力のことを指している。

他にも商業、芸術、学問などに特化した神様がいて、その道で大成した人間の多くはその祝福を受けている。

ちなみに一神が祝福する人間は一人ではない。複数人が祝福を受けることが可能で、時には数千人を祝福する神様がいたり、この200年の間はないが主神トールデン様のように教皇一人を祝福する場合もある。また、祝福する神が上位の場合は上書きが可能で滅多にはいないが、祝福する神様が変わったり、複数の神様がいたりと比較的自由だ。

そんな神様の影響を受けて、雷が使える魔法使いは雷の権能をもつ神様といったようになっている。

トルイの息子である俺は、武神ダルギースト様の可能性が高いので使用可能になるだろう権能は、身体強化、武器強化、中級程度の土属性の魔法になるだろう。小さいころに父上に見せてもらったように、木剣で大岩を木端微塵にできるかもしれない。


3、科学技術が近世ヨーロッパ程度

科学技術の進捗状況はチグハグだ。魔法が存在しているために工事や産業といったものに対して、そこまで科学技術が発展してないように思える。文明自体の歴史は一万年とかなり長いが、争いが絶えず、魔法の影響で発展していない。自然現象に対する理解も神を基準にするため、禅の世界の昔の宗教解釈のようになってしまう。技術の違いは王都に行かないと何とも言えないかもしれない。


このように3点が大きくことなっていた。


他の検証としては、自然現象についてだ。

魔法という不思議現象があるので心配だったので可能な手段で検証してみた。

まずは、空気。火を付けたローソクにコップを被せて火が消えるか確認した。問題なく消えたので酸素は存在すると思う。次に水の状態変化、火をかけて水を蒸発させると水蒸気になった。氷は記憶にあるので問題ないはずだ。固体、液体、気体は存在する。3つ目に銅貨をビネガーに浸し一日待ってみた。次の日にはピカピカに光っていたので酸化現象は確認できた。

子供のような遊びだが、現状禅の世界に近いと思うことにする。


さて、これまでは違うことを数日に検証した結果、今後の確認を計画を立てる。

1、禅としての記憶の現象を調べる

2、神様について調べる

3、魔法について調べる

4、身体を鍛え、剣術を身につける

5、魔物やこの世界の情勢をしらべる


この5つのことはこの世界を生き抜くために必要なことだ。

1の記憶については、何かしらの魔法効果の影響と考えている。禅の世界での禅が死に、ゼンの世界に招かれたというよりも禅の世界の禅の記憶だけがゼンの身体に入ったという路線で考える。つまり、記憶を召喚する魔法があるかどうかということだ。調べる為には大きな図書館や魔法使いから調べることになりそうなので現状は保留。ほかの調べごとに関しては、この世界はおそらく想像以上に生き残りにくい。国境の領主なので戦争、凶暴な魔物の襲撃、医療技術の低さによる疫病、祝福もちによる犯罪などといった危険が常にある。ゼンとしてなら普通のことだが、禅としてはこれに対向する手段を多くもちたい。神や魔法を知り、それらを持つ人間と対したときに的確な判断ができるように、魔物や世界情勢からその身の振り方などを知る必要がある。


禅、俺は日本に帰りたいのだろうか。

朝、顔を洗うとき水面に映った自分の顔を見た。それは禅とは別人。ゼンの顔だった。

そのせいか、禅という自分の意識が薄い気がする。いや、直感としたら禅としてはもう生きていけないのではないかと思ってしまう。

しかし、この今ある禅の記憶を捨てられるはずがない。

祖父と過ごした日々、稽古の苦しさ、高校での生活の戸惑い、そのすべてが夢か幻かで済ますことはできない。

禅は確かに存在した。

これは変えることができない。


ならば、禅として折り合いをつける。


そんな考えを巡らしながら走っていると、屋敷の門が見えた。

我武者羅に走っていて、足がもう棒のようだ。苦しさを紛らわせるために考え事をしていたがそれもできないほどになっている。

身体はすでに停止寸前。

目算10キロを走っただけでこの身体は倒れそうだ、と頭は冷静に動いている。

門までの直線が見える。

最後の直線だ!と心で叫び全力で走った。



門の手前にはエンリエッタがいた。

心配そうに俺を待っている。

さらに速度を上げて、俺はエンリエッタの目指して走り、彼女の近くまでいくと盛大にぶっ倒れた。


あ・・・やりすぎた・・・


意識がなくなる直前、そんなことを思った。





「ゼン様、あんな無茶をしないでください」

珍しく、ゼンの記憶からだが、エンリエッタが焦ったように怒っている。これまで怒られた記憶はあるが、どちらかというと不安の色が色濃くでている。


それもそのはずだ。

俺はすでに彼女が知っているゼンではない。

禅とゼンの記憶をもった別人だから。今まで普通の子供だったゼンが急に先生や知識もないはずなのに鍛錬を始めれば、不安がるだろう。

だけど、彼女の忠告を聞く訳にはいかない。

最前線のエーロック砦のトップである父トルイが戦いで命を落としても不思議でなく、リーンフェルト領の次期領主である俺には学ぶことや強くなる必要がある。

ただの子供ならよかった。何も知らなければ自分が巻き込まれるであろうことを予想できなかったはずだ。

だが、禅の記憶にあることから俺が戦乱や魔物の襲撃、飢餓や疫病に巻き込まれると分かれば少しでも早くこの世界の知識と生き抜く術を知る必要がある。それにはゼンの知識だけでは足りない。禅の知識と経験が必要で、その上に禅の常識ではないこの世界には知らないことが多すぎる。何も学ばずにこのまま過ごせば取り返しのつかないことになる可能性だってある。

それの可能性を潰し、生き抜くには鍛錬とこの世界の常識を学ばなければならない。

五歳児にはまだ早いことだが、禅の時にはすでに五歳から本格的な鍛錬をこなしていた。今の俺ができないはずはない。


「ごめんよ、エンリ。でも、父上に剣術を教えてもらうから鍛錬しないと」

寝ている自分のベッドから申し訳なさそうな顔の演技をする。俺は彼女の不安を解消させるために、無茶をするこじ付けの理由を言葉にした。

今は、倒れた俺をエンリエッタは俺の部屋に運び、介抱してくれている。彼女は部屋の椅子に座りこちらをむいている。

「嬉しいは分かりますが・・・。本心を申し上げると、私と奥様はゼン様に文官になっていただきたいと思っております」

エンリエッタはじっと俺を見ながらそう告げる。

つまり、父のトルイと同じ武官ではなく死ぬ可能性の低い王都で勤める文官になってほしいと言っていた。


彼女たちが望むことは分かっていた。

俺がつい三日目にこの国の公用語であるアーベルン語の読み書きと算術を習得したからだろう。幸運なことにエンリエッタが読み書きと算術ができたので彼女に教えてもらった。文法が日本語と似ていたため、覚えることは発音と記述の差異を習得すれば簡単に読み書きができるようになった。

彼女からすると2日程度で読み書きができるようになった俺が余程嬉しかったのだろう。母上と一緒になって、天才だ天才だと喜び、文官を目指せると話し合っていたのを思い出す。


「わかっているよ、エンリ。でも、僕はトルイ・リーンフェルトの嫡男でこのリーフェルト領の次期領主だ。隣国トランザニアとの戦いも続いている中で一文官で終わるのは無責任な気がするよ」

エンリエッタの瞳を見つめながら俺は答えた。その言葉を受けてその瞳は不安気に揺れる。


この数日でリーンフェルト領について情報収集をした。

大きさの尺度はあまり分からないが、周辺領に比べて規模も経済も小さく、主な収入源は麦などの農業とアラフェト山脈の麓にある大森林からの林業だ。温暖な土地でこれまで飢餓などは少なく、比較的豊かな土地といえよう。魔物の脅威も中程度で、村や領における自衛団や派遣されている精強な東方面軍により定期的に討伐されているので安全と言える。

だが、最大の問題は隣国トランザニアとの国境の戦争が絶えないことだ。総力戦とまでは聞かないが小~中規模の進攻があり、散発的な戦争が起きている。これを受けて、ルーン王国はトランザニアとの国境警備を厳重にして、人員を送り込んでいる。その中の武力増強のため我が父トルイを東方面軍の第一部隊長として送り込んでいた。

ある意味で民衆の支えとして送り込まれた父の息子が文官となれば、落胆されるのは目に見えるだろう。母上やエンリエッタがいくら望んでも、民衆は納得しないと思う。


そこまで正しく自領の状況を把握している俺にエンリエッタは戸惑っていた、と思う。

俺だって自分の息子ができて5歳でこんなこと言われれば戸惑う。


「そこまでご存知なら、私からは何も言えませんが・・・。あまり無茶はなさらないでください、お願い致します」

エンリエッタは俺にお願いをした。

少しばかりの罪悪感とたくさんの感謝をしたからか俺の顔は綻んでいた。

「ありがとう。うん、ごめん。僕も無茶だったね。気を付ける」

「こちらこそ差し出がましいことを・・・申し訳ありません。では、私は仕事に戻りますのでしばらくは安静にしててください」

そう言ってエンリエッタが退出するのを見届け、俺は枕元においてあった読みかけの本を広げる。


この世界は製紙技術はあるが、活版技術がないのかもしれない、全部手書きだ。本自体も高級品らしく、この屋敷に本は32冊しかない。その中でも子供向けの絵本を除き、俺の目的を満たす本は12冊のみ。その中でもこの本は魔法についてだ。

『魔法習得のため初級基礎概論』

父上が中級までの魔法を習得しているので比較的魔法技術について書かれた本は6冊と多い。

神の祝福が問題だが、魔法発動過程や初級の魔法効果について記載されているので魔法使いと戦う場合にこれを読むことは重要だ。


魔法は大きく分けて二種類。

1、汎用魔法

2、固有魔法


1の汎用魔法を一般的に魔法と呼び、祝福された神の権能によって魔法の属性が固定される。土属性なら、鉱石などを中心とした魔法が使用できる。発動条件は、使用者の魔力保有量と魔法操作技術、環境によって変動する。祝福されていても魔力量や操作技術が低い場合は不発となったりする。また周囲に行使する魔法発動起因物質が存在しない場合も不発となる。魔法発動起因物質とは、土を固める魔法の場合、土自体を指す。つまり土がなければ発動することができない。

魔法行使過程は、魔力励起、起因物質の特定、魔法行使規模の特定、事象改変の特定と演算(おおざっぱに言うと動きのイメージ)の4つの工程を経て行使される。魔力励起の後は各工程ごとに適切な魔力を注入する必要がある。また魔法行使過程を定型し、行使時間を短縮したものを詠唱や魔法陣にすることも可能だ。


2の固有魔法は神の権能を使った魔法だ。魔法行使過程などは必要なく、ほぼゼロ秒で行使可能。だが、発動条件や行使回数制限、行使代償といった条件が多い。行使すれば確実に術者が死亡や20年に一度しか発動できない、近親相姦をしないと発動できない、処女の血を飲まないと発動できないといったような特殊だ。その代わり、効果は絶大で都市を一瞬で壊滅させたり、アンデッドの軍団を作ったり、生き返ったりなどがある。この固有魔法については祝福授けた神の偉業や神に至る前の生前の行いを調べればどういったことができるかは特定可能だ。

ちなみに父上に祝福をもたらしたダルギースト神は、敵軍の中に単身乗り込み、剣を振り降ろして大地を叩き割って敵軍を壊滅させたという乱暴な伝説がある。つまり剣をぶっ叩いて、敵をぶっ飛ばす固有魔法だと推測される。


ふと、俺は読んでいた本から視線を外し、自分の手を見つめた。


魔法。

存在は知っている。いや、記憶にある。

だが、今は異常なことだとしか思えない。

エネルギー保存則といった物理現象を越えてるものがまともだとは思えない。

でも、あると言うならそれに対応するだけの知識を持たなければ。

自分が魔法を使うことは今のところ考えていない。

やり方もわからないので父上が帰った後でと思っている。


魔法やこの世界の知識はこのまま収集するとして、武術は今保留している。

禅の記憶から武術に関しては、習得したものがある。これは見る者が見れば、異質だと発覚してしまう。

そのために木剣を振るうのはこの身体がもつ能力の確認の為だけで型は練習していない。

父上からこの世界の剣術の型や癖を教えてもらった後で本格的に鍛錬を始める。


ひたすら今は本を読み、母上とエンリエッタからこの世界について教えてもらうことに注力したほうがいいだろう。

そう結論つけて、俺はまた本を読み出した。


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