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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
二章 辺境都市オークザラム 人それぞれの物語
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オークザラム⑤ アフロ―ディア一座の楽屋裏 続き

どうしてこうなった?

俺は目の前に広がる惨状を見ながら意味のない悔恨を感じていた。

死屍累々のごとく酒に酔った者達が倒れている。トルエスさんもアルガスも緩んだ表情のままいびきをかいて寝ていた。側には先ほどまで握っていた盃が転がっている。

あの後、フェスティナさんが持ち込んできたお酒を皮切りに一座の団員がお酒と肴をもってリアさんのテントの中を訪ねてきたのだ。そこから宴が始まるのは一瞬だった。彼女たちのお酒はトルエスさんでも滅多に飲めないような高級品ばかりでトルエスさんも鼻息を荒くしながら飲んでいた。それに加えてあのアルガスも団員という美女達のお酌で顔を真っ赤にしながら飲んでいたが、彼女たちが巧みに褒めて彼は次第に煽るように飲み始めると崩壊が始まる。免疫の少ないアルガスなんていいカモだったのか彼女たちのオモチャにされていく彼の姿に涙が出そうになったのは内緒だ。彼の尊厳のため。

それ以上に化け物なのはリアさんだ。トルエスさん以上にお酒を飲んでも僅かに頬を赤らめてさらに色気を発散させるだけであった。

「ねぇ、聞いてるの?ゼン」

そして今は俺を膝の上に座らせて俺を抱きながらお酒をゆっくりと飲んでいる。俺の首元は彼女の豊かな双丘が押し当てられてえも言われぬ夢見心地だ。

「聞いてますよ。ここだけの話ですが、噂の通りです。グラックパリオンを倒しました」

今彼女は俺がグラック襲来を撃退した話を催促されている。噂はすでにオークザラムまで及んでいるらしく、彼女は結構詳細なところまで知っていた。

「祝福もなしによく倒せたわね。でも、不思議。私の『審美眼』からすると祝福を授かってもいいぐらいなのに。本当に祝福を授かってないの?」

「・・・はい。ないですね」

リアさんは納得のいっていない声で「ふぅん」と呟いてお酒を一口飲む。

禅の記憶のことはまだ話していない。父上と約束したのだ。軽々しく話しはしないが、なんとなく彼女になら話してもいいかと思ってしまう。それぐらいに彼女はすぐに俺との心の距離を縮めていた。

これは驚きだ。やはりリアさんは祝福があろうがなかろうが油断できない。

「やっぱり納得いかないわ。リーシャだって私の審美眼で見つけたのよ。見誤ることはないはず」

「リーシャさんはすでに祝福持ちなんですか?」

「そうよ。ねぇリーシャ?」

リアさんはそう言いながらリーシャの方を向き聞く。リーシャは茫洋とした青い瞳をこちらに向けて、何か言いたげにしていた。

「・・・」

しかし、諦めたのか頷きだけで答える。リーシャは宴の間もリアさんの側を離れずに果実水の入ったコップを時折飲むだけで非常に大人しい。なんとなく物静かな猫のようにも見える。

「あ、言うの忘れてたけどこの子は喋らないから」

「え?どういうことですか?」

「まだ自分の権能を制御できていないのよ。喋ると周りが無意味に感動して話が進まなくなるから喋らないようにしてるみたい」

そのリアさんの話に公演でのことを思い出し納得してしまった。たった一声でこちらの魂を揺さぶるのだ。これが言葉になって話されると聞いている内に涙を流して、話ができなくなる者もいるだろう。

それにしたってやはり祝福は異常だ。効果が高すぎてどう対処していいのかすらわからない。

俺が困ったような顔をしているとリーシャは口元だけパクパクさせて「気にしないで」と言っているような気がする。最初の歌の歌詞のようにこちらを気遣ういい子なのだなと俺は思った。

「そうだ。ゼン、もし年齢がやっぱり気になるならリーシャを妻にしてみる?それなら私も側にいられるし、愛人でいいわよ」

・・・何言ってるんだこの人。

リアさんは楽しそうに声を弾ませて聞いてくる。その声に冗談といったものは一切含んでいない。彼女の爆弾発言にリーシャは焦ったように首を横に振って否定する。

「リアさん、冗談はよしてください」

「あら、冗談とか言わないわよ?私。いいじゃない、そうすれば三角関係が主題の演技が磨かれそう。嫉妬に狂う愛人とか」

「それで刺されたりしたらたまったもんじゃないですよ」

「そう?私になら刺されても良いって言う騎士様なんてごまんといるわよ」

本当にいそうだ。

宴の間、いろいろと聞いていたがアフロ―ディア一座は演劇もおこない、その公演も非常に人気が高い。彼女たちは舞台の上に命をかけているそうで演技を磨くためなら様々な挑戦をするらしい。猛獣に一対一で戦ったり、真剣で本気の打ち合いをしたり、一人の男を巡った女の戦いを実戦したりと本当に人生をかけている。それについてこれない者は巡業中にさっさと男を作って、生まれてきた娘に芸を教えて才能があれば一座に加わえるといったことを繰り返して歴史を積み重ねている。そこにかける情熱は常人の想像を超えていた。

「ゼンって話していると子供ってこと忘れるわね」

俺があきれているとリアさんは抱きしめる手を少し強めにしてそう言ってきた。

俺も自分の年齢を考慮しないとあの戦いから決めているのでそう言われることに焦りはないが、やはりちょっと身構えてしまう。

「変ですか?」

「全く変じゃないわ。私の愛しい人がただ者じゃないってわかるしね。だから私も遠慮せずに言うことにする」

頭の上から響く甘やかな声に少し強い意志を宿して彼女は決心したようにそう言ってきた。

俺は疑問符を浮かべながらたずねる。

「何をですか?」

「さっき、『審美眼』で見たことを全部話したわけじゃないのよ。ゼン、貴方の輝きはとても複雑なの。色々な色が混じり合って真っ白になってる。そんな色は見たことがない。人は人格が二つ以上ないように、魂も単色なのよ。でも貴方は複雑な色。貴方を煩わせてはいけないと思ったけどそんなことは余計なお世話よね。これからは思ったことを口にする」

俺の内心はリアさんの告げたことに焦り狂っていた。

この人に隠し事は通じないかもしれない。ゼンと禅の魂が混じっている可能性。俺の最も秘密にしなければならない最重要事項。魂というものが理解の及ばないものには違いないが、彼女は正確に俺の秘密に触れている。

俺は平常心を最大限動員して何気ないような振りをして彼女に言葉を言う。

「リアさん、そのことは誰にも言わないでください。すみません、いまはそれだけしか言えないですが、いつか・・・いつか貴女になら言う気がしますから。リーシャさんもお願いします」

「ふふふ、ええもちろんよ。私たちだけの秘密ね。大丈夫、世界中が敵に回ったとしても言わないわ。リーシャも私も。そうよね?リーシャ」

リアさんは嬉しそうに声を上げてそう言うと、リーシャに話をふる。

リーシャはその青い瞳で真剣に俺を見つめながら口を開く。

「はい。私も私の神の真名に誓ってお約束します」

その声と言葉に俺は魂を揺さぶられて泣きそうになる。

彼女の美しい声が歌うように誓いを立てる。まるで神がそばに降り立ち、手を差し伸べてくれた聖書の一幕のような荘厳な空気が漂った。俺はその空気に酔いながらなんとか声を上げる。

「ありがとうございます。今はこれしか言えませんが、俺は皆さんと仲良くしたいとおもってます。だからこれからもよろしくお願いします」

俺のたどたどしい礼。今の雰囲気といい、こういったことを言うのは非常に照れる。

その俺の言葉にリアさんは一瞬息を止めて、勢いよく俺を抱きしめた。

「ああ!なんて可愛いの!私の愛おしい人!決めたわ、巡業の度に貴方に会いに来るわ。貴方の成長が待ち遠しい!早く私の愛を飲み干してね!」

そう体をくねらせて踊るように喜びを表現しながらリアさんは甘い声で楽しそうに笑う。

リーシャもリアさんのその様子を温かく嬉しそうに見守りっている。


オークザラムの初日。色々あったけどとても素敵な出会いをした素晴らしい夜になった。

ちょっとその相手が大物過ぎて驚いてしまうが。

楽しい夜が更けていく。


うらやましいぞゼン君。このやろう

次回からはオークザラムの本番の茶会が始まる予定です。すでに忘れ気味ですが!本当は次が本番ですよ!

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