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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
二章 辺境都市オークザラム 人それぞれの物語
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オークザラムへの道中、アルガスの決意

トルエス曰く。

剛剣トルイ・リーンフェルトの息子であり、今回のグラック軍の襲撃で撃退した上に単独でグラックパリオンを倒した武勲を合わせて考えればゼン・リーンフェルトの婚約者は男爵位を超える良家と縁が結べると。これを利用し、リーンフェルト領の再建どころか大いなる発展のために必ずなしえなければならいのだと。ルーン王国での剛剣の名は伊達ではない。トルイの気を引こうと前々からゼンに婚約話は多かった。だが、今一歩いい縁談相手はいなかった。ゼンが成人となり武勲の一つでも上げたときに婚約の話を爵位が上の家に持ち込むつもりだったと。

トルエスさんが延々と語った内容を訳すことこんな感じだ。

それに対して、俺は冷静に

『そんなに有名なら父上の名で、お金借りればよかったのではないんですか?』

『ゼン・・・お前は父の七光りで生きていたいのか?男なら自らの武勲と口説きで女性を籠絡できるようにならなければ領主として、貴族としては半人前だぞ。アイリ譲りのその無駄にいい顔があるんだから心配するな』

否定しないなこの人と思いつつ俺はトルエスさんの話を聞いていた。こんな話を六歳の子供にすること自体どうかと思うが。

『俺に選ぶ権利はあるんですか?』

『んー。神のみぞ知るだな』

『・・・』

『・・・まぁ、安心しろ。変なのと婚約でもしたら俺がアイリに殺されかねん。俺も死ぬ気で見定めるから』

俺の無言の圧力に屈したのか取り繕うようにトルエスさんは言った。

『あとエンリにも殺されるので気をつけてください』

『・・・』

自分がしようとする罪の大きさに気がついた罪人のような顔をしてトルエスさんは俺に無言で助けを求めてきた。

俺はそれを見て見ぬふりをして仕事に戻る。


屋敷に戻る時間になるとトルエスさんも母上達とそのことに話し合うといってついてきた。

母上達は至極あっさりとオークザラム行きを了承する。ちょうどいいじゃないと言って笑っていた。

だが、『私とエンリちゃんでトル君とお話しすることがあるからゼンはお部屋に戻ってて』という底知れぬ笑顔を向けられて俺が部屋に戻り、エンリエッタが終わったことを告げるまで読書をしていた。

戻るとげっそりとしたトルエスさんと母上達がお茶を飲んでいた。何を話したかは聞かないが、だいたいわかるような気がする。力なくトルエスさんが笑いながらすべて任してくれ、と罪の告白をして死刑判決が決まったような顔をして言ってくる。

トルエスさんのやつれ具合をみて俺はこれなら安心して任せられるなと思った。


そんなこんなであっという間に出立の準備をして、五日をかけて今はオークザラムの城壁が見える場所まで来ている。

商隊の一団に混ざり、トルエスさん、アルガス、村の商人と自衛団が5名ほど計8人の旅路だった。途中で雨に降られたり、野営中に魔物に襲われたりしたが誰一人として怪我もなく無事にたどり着けそうだ。

早朝のオークザラムの重厚な灰色の城壁を皆が確認すると喜びの声が聞こえてくる。

俺も初めてのリーフェルト領以外の場所に興奮していた。今いる場所は少し小高い丘の上で周りには刈り終わった麦畑がある。その中を街道が蛇行して、オークザラムの大手門まで続いている。道は馬車が走りやすいように整備されている。


辺境都市オークザラム。

近くにドゥナ湖があり、水と広大な麦畑を有するルーン王国の辺境都市。人口は約5万、エーロック砦がトランザニアとの最前線ならオークザラムはその砦の兵站の集積地点であり、王国軍の居留地でもある。そのために王国から多額の軍事費が流れ込み発展している。また、食料も十分に生産できるので平和な時代だとトランザニアとの貿易も可能。トランザニアとの戦がなければ鉄の国トランザニアの鉄とルーン王国の麦が行き交う貿易都市でもあった。

簡単にトルエスさんから中の様子を聞いている。

都市を囲む壁は高く、分厚い。元々軍事施設から発展しているので装飾などは一切なく、機能的な側面が目立つ。壁の中には大手門から一番離れた場所に小さな丘がありそこを取り囲むように小さな円柱が立っており、その円柱をコの字につなぐように内城壁がある。城に入るためにはそのコの字の空いた部分に階段と門があり、そこをかけ上がっていく。上がると巨大な円柱状の城がそびえている。

街は門から城までの道を蛇行しつつ大通りでつながっていて、城に近づくほど身分が高くなる。大手門の近くは市場と商業施設と一番端のほうに貧民街、真ん中に一般市民の居住区と協会、奥が貴族や上級商人の施設がある。最貧民街は門の外にあり、小さな集落を作っている。

「ゼン様、嬉しそうですね」

俺が初めての大都市に胸を期待で膨らませていると隣で馬に乗っているアルガスが声をかけてきた。

「アルガスにはすぐバレるな。かなり楽しみにしている」

俺は笑いながらルクラ家の問題児アルガスにそう答えていた。

最近ルクラの家は揉めている。簡単に言えば、嫡男アルガスが軍に志願するといっているのだ。前回の戦いで何もできなかったことを悔やみ、そして俺の騎士として生きるために軍に入りたいと。真面目なアルガスはゼルの死を自分のせいだと思い込んでいるのではないかと思う。これに対してルクラは断固として首を縦には振らない。それはそうだろう。跡取り息子を戦に出して失うかもしれないのだ。家で揉めているのを知っていた俺は少しルクラとアルガスを引き離してみようと思いお節介にもオークザラム行きを提案するとルクラに感謝された。是が非でも息子に考え直すように言ってくれとも頼まれたが、その辺に関しては領主として賛成する。アルガスは真面目で機転も利く。そんな人材を軍に送り出すのは領主としては認められない。確実に彼が生きて帰ってくるなら賛成するが。

「ゼン様、私はオークザラムについたら軍門を叩こうかと思います」

「え!?」

突然のアルガスの告白に俺は声を上げていた。

しまった!そんなこと考えてもいなかった!

「領地へお送りすることができなくて誠に申し訳ありません。帰りは私の路銀から護衛を雇いますのでそのもの達にお任せください」

「そ、それはダメだ、アルガス。俺はルクラらからお前の身を預かっている。勝手は許さない」

「それも承知しております。置き手紙も残して参りました。もし、どうしてもお止めになるなら、ゼン様やゼル殿の盾にもならない役立たずの私など斬ってください」

馬上にいるアルガスは真剣な目つきでその覚悟を俺に訴えかける。本当に斬られてもいいという顔だ。

俺が二の言葉を告げられてないでいると、その様子に気がついたトルエスさんが馬を操って会話していた商隊から離れてこちらにくる。

「おいおい、アルガス。いまの領地の状況知っているだろ?トックハイ村の村長の息子が何を言っているんだよ」

トルエスさんがたしなめるように少しきつめにアルガスに言う。

その目は真剣だ。アルガスの覚悟を受けて、彼も答えているのだろう。

「トルエス様、それも承知しております。領地の危機に離れる私を許してくださいとは今申しません。3年、私が従軍した後にその後の働きで許していただけるように最善を尽くします。それに勝手ながらもゼン様もトルエス様もいるリーンフェルト領は問題ないと私は思っております」

従軍は3年が一つの契約期間だ。3年後にまた契約の更新がきてその後は任意となる。祝福持ちではない一般兵なら食い扶持を稼ぐために一時的に従軍するのも珍しくはない。

俺たち三人は押し黙る。

アルガスは頑な態度を変えない。おそらくいくら言っても平行線をたどる。十分に考えた末に彼が決めたのだろう。例えそれがルクラの家の名を汚してもかまわないと思うほど真剣に。今、村の村長の息子が従軍すると言うことは村を見捨てることに等しい。ルクラは村人から非難されるだろう。そして、戻ってきたとしてもアルガスを見る村人達の態度は厳しいものになるのは目に見えている。

俺は問う。

「アルガス、お前は自らの家の名を汚してもいいというのだな?」

彼は一度目を瞑り、覚悟を決めて言葉を選ぶ。

「はい。ゼル殿を失い気づきました。もし、自分が未熟なばかりにゼン様もお守りできなかったら私は決して自分を許さないでしょう。私はゼン様の盾になると決めました。ならば家の名より盾としての名を上げて参ります」

アルガスは静かに言う。その迫力に俺は思わずため息をつく。ここまで言ってくれる者に俺はどうしても行くなという言葉を告げられない。

甘いとはわかりつつ答えることにする。

「アルガス、お前の忠義確かに受け取った。ならば我が盾として力をつけてこい。そして必ず生きて戻ってこい。ゼン・リーンフェルトの名においてアルガスに命ずる。軍に入り力をつけよ」

「はっ!」

アルガスは声に力を入れて了承の言葉を言う。

「おいおい、ゼンまでそんなこというのかよっ!・・・ああもういい!わかった。アルガス好きにしてこい。ルクラには俺から言っておく」

俺の言葉に頭をかきむしりながらトルエスさんも承知してくれた。おそらくこの人禿げるなと思うぐらい気苦労が絶えないな。ルクラからは相当嫌われるだろう。

トルエスさんは小さくため息をついて話を変える。

「アルガス、軍属になる前祝いだ。券が高いからゼンとだけ一緒にいこうと思ってたんだが、オークザラムには今有名な旅芸人一座が来ている。その公演があるからそれを見に行こう。よしっ!今夜はすべて忘れて楽しむぞ!」

トルエスさんは今の沈痛な雰囲気を追い払うようにそう叫んだ。

全く俺も同意する。折角の気分が台無しだ。

「ですね。アルガスも今日は楽しもう」

問題の先送りのような気がするが、俺はトルエスさんに追随してアルガスに声をかける。

「ゼン様、トルエス様、本当にありがとうございます」

アルガスは小さく笑って感謝の言葉を口にする。


俺たちは止まっていた馬をまた歩かせてオークザラムに向かう。



アルガス!いきなりシリアスモードにしやがって・・・

次からオークザラム編です。ただ町を楽しむだけだと思います。たぶん

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