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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
一章 リーンフェルト領主嫡男ゼン
26/218

第三次防衛戦③ 大楯と槍

矢の群れは放物線を描き、前方のグラック集団の中に吸い込まれていく。

命中確率といっても4割が当たればいいほだろう。


「二矢目斉射後、各員は第二戦闘隊形につけ!!斉射!!」

俺の矢継ぎ早の号令に兵たちは迅速に動いた。二矢目を放つと兵たちは壁に立てかけてあった武器や盾を手にしてぶつからないように二手に分かれて壁の両端に走って行く。

練度の低い兵にとって陣形の組み替えは難しい。だからこの組み替えともう一つの陣形をこの三日間でできる限りたたき込んでもらった。工兵隊出身の警備隊につきっきりで夜も関わらずひたすら。

兵たちは浮き足立っているが、十分第二戦闘隊形を完成させる。


200mの壁の両端に大楯モドキと短槍を持つ兵を左右に35名づつ、そしてその後ろに同じ数だけの槍を持つ兵。これは盾と槍、ディフェンスとオフェンスに兵を分けている。配置は壁の両端を球面上に盾を前列としたお椀のような形。


敵陣は突然陣形を変えた俺たちに一瞬戸惑ったが、すでに体は走り出している。そのまま敵陣の最前列は壁に突っ込んだ。

肉がぶつかる音がする。グラックは壁に体当たりをして鈍い衝突音を放っていた。


俺は壁の左翼側にいてその光景をみつつ、握った短槍を構える。

右翼には警備隊の中で指揮能力がゼルに次ぐトトルナスを配置している。


グラック軍は壁によじ登ろうとする者、左右に分かれてこちらに牙をむこうとする者に分かれた。

しかし、左右の盾隊と先端を開いたグラックは大楯モドキに阻まれ動きを止め、盾の上から槍を持つ攻撃兵がその体を貫く。

一刺し。グラックの体に攻撃兵は槍を突き立てる。身長差あるグラックは頭上から襲ってくる槍に目、喉、胸を無防備に広げているようなもの。

兵達には無駄に攻撃するのではなく一刺し、そして盾兵がその貫かれた体を盾ではじき飛ばす訓練をみっちりこなしている。

敵軍の兵が薄い今の状況ではこちらの一方的な殺戮だった。ボロぞうきんのようにグラックの矮躯が中を舞う。


この陣形は壁を利用した擬似的な『横陣』で敵の『縦陣』を包囲している。

この状況を作り上げるために矢を放つまで壁の前で兵を布陣させた。

囮と壁を隠すため。

グラックは二回の接触で前方に敵がいると本能的に突撃してくることがわかっている。敵を『縦陣』のまま突撃させる囮としての役割。あと一つは壁という存在を隠すため。兵士たちの身長よりも低い壁は隠すことができる。正面対決と見せかけて敵の突撃を壁で受けることを隠したのだ。


状況は流動的に変化していく。

右翼ではこちらと同じ展開。盾が敵の突撃を阻み、盾の上から攻撃兵が槍を突き出す。

そして、壁側でもまた殺戮が始まっていた。

壁は村側に土嚢が積まれて敵軍側よりも高くなっている。高くなった場所から30名の攻撃兵が槍を突き出し、上ってこようとするグラックを串刺しにする。数が多ければ槍を振ってグラックを突き落とす。


「常に二対一、盾兵と槍兵で攻撃にあたれ!!!」

俺はそう指示を出しながら、目の前のアルガスの盾を越えようとしてきたグラックを短槍で突き刺した。

ゴリっという槍の穂先が骨にあたる感触を無視し、槍を抜く。また盾と盾の間から潜り込もうとしてるグラッグの目を短槍で突き刺した。

さきほどから敵を刺し殺す数が多くなってきた。

戦端が開いてから時間がたち、後続のグラック達が次々に襲ってきているのだ。


視界の隅では陣形の最左翼の端でグラックがこちらの背後をとろうと回り込もうとしている。

この陣形は『横陣』のため周り込まれると弱い。

そこが弱点だ。だが、こちらもそれを見越して最両翼には練度の高い攻撃兵を配置している。


「端からグラック入れるな!!最左翼は攻撃を密にしろ!!」

グラックの断末魔、肉を突き刺す音、肉がぶつかる音、金属が打ち鳴らす音、鈍い足音、戦場が作り上げる無数の音をはねのけるように俺は大声を上げて注意をする。

この場では声が大きければ大きいほど有利になる。


そろそろ飽和する。

こちらの防御力を超える量のグラックが盾兵に食らいつきだした。

ここからが正念場。これを凌ぎ、仕掛けを待たなければならない。


「気合いをいれろぉぉぉ!盾兵!弾け!!!」

「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」

左翼の兵達が叫び声を上げる。腹の底から張り上げた声の和唱は空気を振るわせてびりびりと肌を叩く。

盾兵達は一斉に大楯モドキでグラックをはじき飛ばした。一体、二体あるいは数体を弾く。

左翼戦線に一瞬空隙が空く。盾兵は盾を振り切っているので前方の景色が見えた。

「突き立てろぉぉぉ!」

槍が空気を擦過する音がさざ波のように聞こえる。盾が開いた場所に盾兵も槍兵も槍を突きはじけ飛び地面に倒れているグラックを突き刺す。

「盾兵!!!構え!!!」

どの兵達も自らが刺した敵を見向きもせず、槍を引き抜き盾兵が盾を構えてまた防御体勢をとる。


ファランクス。

大楯と槍、重武装で行う密集陣形。この世界でも一般的な陣形。一度布陣すれば非常に強固な防御陣形であり、障害物のない平原で最適だ。

そのファランクスの変形陣形をとっている。

矢という遠距離攻撃が敵になく、数の多い軍勢と戦うために盾の後方に配置するは槍兵。盾は防御できる幅を長くするために本来よりも横に長い長方形。素材は民家の扉だ。正規の大盾を準備する時間や在庫もなく、トックハイ村にある民家の扉を利用して鉄で補強、持ち手をつけた大楯モドキ。敵が剣や槍で武装しているなら紙にも等しい防御能力だが敵の体当たりを受け止めるのであればなんとかなる。


飽和状態で盾に敵兵が複数体迫るなら、一度はじき飛ばして強制的に仕切り直しすればいい。

だが、これは膠着状態を意味する。

仕切り直ししなければ、突破されかねないということ。


「盾1突破されたぁぁぁ!」

そんな悪い想像をしているとそれが現実となった。

左翼の一部が突破されたのだ。しかし、まだそれは一つ穴が空いただけ。一つの盾が壊れただけ。

綻べば結び直せばいい。

「左翼の穴を埋める!!!右に一つ動く!!!弾けぇええええ!」

「「「「「おおおおおおおお!!」」」」」

裂帛の気合いで盾兵達が眼前の敵をはじき飛ばす。グラックの戦線が一歩引く。

「右に盾一つうめろ!!!」

俺の号令と共に突破された盾の一つ分を盾兵達が横歩きで埋める。防御が緩む隙を突いて、数匹のグラック達が金切り声を上げて飛び込んできた。

防御の隙はあるが、攻撃の隙はない。

盾をくぐり抜け俺たちの陣形の内側に入ったグラック達は瞬く間に槍兵によって絶命させられる。


まさに薄氷を踏むがごとしの攻防。一つでも緩むと瞬く間に崩れかねない。

数が違いすぎる。突き刺しても突き刺してもわき出てくる。

一突きすれば放置しろといっているので突きが浅いとまた襲ってくる。


右翼のことはここからだとわからない。聞こえてくる号令を聞いている分だとここと同じように膠着状態を維持しつつも不利な戦況。

壁の方に目を向けると、仲間の死体を踏んで無数のグラックが壁によじ登ろうとしている。壁の防御を担っている槍兵達は必死の形相でグラックを打ち払っている。壁には余分な戦力はほとんどない。一度入られると、その入ったグラックを殺すために壁から目を離さないといけない。そのほころびで無数のグラックの進入を許してしまう可能性がある。


「耐えろ!!!もう少しだ!!!」

俺は声を張り上げて兵達を鼓舞する。

焦りで手の汗で槍が滑りそうになる。焼き付くような焦燥。

今、俺は鼓舞しグラックの体に槍を突き入れてこの状況を長引かせることしかできない。


まだか!?

この戦線はあと10分耐え切れない。敵兵がほぼ完全に密集している。

そろそろ地獄の蓋を開けてもいいだろう、ゼル。

そんな思いが天に通じたのか、乾燥した空気を振るわせて音が聞こえてきた。



ドンッドンッドンッドンッドン

ベルグの太鼓の音。


「総員時は来た!!弾いた後!!盾兵後退!!足並みを揃えろ!槍兵は警戒を密にしろ!!!!」

「「「「おおお!!了解っっっ!!!!」」」」

大音響の咆吼が地面を揺らし、盾兵がこれまでよりも力強く敵をはじき飛ばす。すかさず盾兵は盾を構えたまま防衛線を崩さぬように最速で後退する。その隙間に入り込んでくるグラック達を槍兵が突き、進入を阻む。


ぐっ・・・。

想定していたが綻びが激しい。特に最左翼、敵陣側に一番近い場所の盾兵たちが遅れている。いや、一部の盾兵はグラック数匹が盾に張り付き、動けないのだ。

最左翼の端では孤立しそうになる盾兵を槍兵達が守ろうと必死にグラックを刺している。

「遅れるな!!最左翼3番、5番!盾を捨てろ!!!」

俺の指示で盾を捨てた兵が全速力で走る。


よし、戦線は壁に集中した。

今まで広がっていた翼を畳んで壁の横周辺に兵がちょうど集まった。


そこに蒼穹を切り裂き、火を纏った矢が数条走る。

俺たちの頭上を越えて、おぞましい形相をしたグラックの最前線に届き

矢はグラック軍の群れの中央に吸い込まれた。



その瞬間、地獄の業火が花開く。

後日修正する可能性があります

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