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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
八章 紫色の魔女の夢
202/218

幕間 紫色の夢

―――私は紫色の夢を見る。


 空が紫色。でも、これまでみたいな怖い夢じゃない。

 そこには森が広がっていた。その森を抜けるように大きな街道とその側には小川。森と道の先には豪華で可愛い宮殿の屋根が見える。

 森の木や草、茸でさえも現実とは全く違う。色とりどりで、色々な楽器の草や木が生えて、茸は可愛らしくソファになっている。

「やっと俺様たちを見てくれたか」

 私の足下にはクマのぬいぐるみ。

 まだ魔法なんて言葉も知らない。自分の力なんて何もないと思っていたときの友達。

 クマのトンパー。

「うん。私はアナタ達にお願いしたいの」

 そう言うと、ガサガサと色々な者たちがやってくる。ブリキのおもちゃの歩兵隊、木の騎馬とブリキの騎士、ネズミの詩人、ふさふさもこもこしたウサギのコック、タキシードを着たネコの執事、カメの郵便屋さん、ライオンの大臣、たくさんの兵隊をつれた空飛ぶ卵の女王様、遠くの方から雄叫びをあげて喜んでいるゴーレムの門番、そして―――とんがり麦わらの案山子。

 皆、私が小さかった頃の友達。ずっとお話相手になってくれた大事な友達。

 その大事な友達を私はずっと見て見ぬふりをしてきた。

 耳を手で塞ぎ、目を固く閉じてずっと酷いことをしてきた。

 でも…私は彼らにお願いしたい。

 こんなときにお願いなんて…都合がいいけど、どうしてもお願いしたいの。

「何をだ? 言ってみな。みんなエリカの言葉を待ってるんだ」

 そういってトンパーが腕を組む。

 難しい顔をして、私を見ている。

 巨大な影が伸びて、ライオロスもこちらを見下ろしていた。

 私は勇気を出して、頭をさげ、大きな声を上げる。

 この世界に聞いて欲しいと、そう願って。

「お願いします! 私に力貸してください! ゼンを…みんなを守る力を貸してください!」

 私は頭を下げ続けた。

 沈黙。それが怖い。皆黙って私を見ている。

「ああ、それが聞きたかったんだぜ。俺様達」

 ポンとトンパーが私の肩に手を乗せた。

 嬉しくて…こんな私を許してくれる友達が嬉しくて私は泣いてしまう。

「ごめ…んなさい…ずっと無視して…」

「ああ、酷いよな。ずっと俺様達は言ってたんだ。エリカが犯人なんかじゃねぇって。俺達はエリカが守りたいと思った…誘拐されちまった奴らを守ろうとしたんだ」

「うん…」

「でもよ、やっぱり俺様達が勝手に出られねぇ。なんとかこの脳なしの案山子ぐらいしか出せなかったんだよ」

 そういってトンパーが腕を指すと案山子のカリッキーがピョンピョンと跳ねた。

「あの子達…助からなかったんだってな…」

「うん…ごめんなさい…私がもっと早く…」

「そうだな。もうアイツらは戻ってこない」

「ごめんなさい…」

「ああ、祈ってろ。もうこんなことが起きないように必死になって祈ろう。そして俺様達を使え、エリカ」

 皆がトンパーの声でうなずき合って、声を上げている。

 自分たちを使ってくれって、皆優しく私を励ましてくれる。

「うん…」

 私は頷く。頷くことしかできなかった。

―――グオオオオオオオオオオオン!!

 ライオロスが泣き声のような雄叫びを上げた。

 その雄叫びはあの子達の魂の行方を嘆き悲しむように…。

 哀しい音楽を草や木が奏で出す。

 だけどそんな中、空をふわふわと金の椅子に座って飛んでいる女王が声を上げる。

「オーホホホホホホ! まぁ過ぎてしまったことはしょうがないワね! せっかくなんだしこんな辛気くさい曲は止めて頂戴。私は愉しい音楽がいいの!」

 卵の女王モルシスがそう言って、紫水晶の杖で草木の曲を陽気な音楽に変えてしまった。

 陽気な曲が流れて、女王様の兵士達が歌い踊った。

「で、でも…」

「まぁーよーく言えるわね、この小娘。妾たちを受け入れるのはオトコのため。そんな汚れた心で哀しもうだなんて、虫が良すぎるわ! 妾は恋が好きなの。せっかくなんだしパッと華やかに生きましょう!」

 モルシスは一番言うことを聞いてくれない。

 それに私の本音をずばりと言ってしまう…。モルシスなんて私の神様の名前を付けたけど…こんな性格になるなんて…。

「ま、エリカ許してやれ。モルシス女王様も気を使ってくれてんだぜ…たぶん」

「う、うん」

「あ、それとなエリカ」

「何? トンパー」

 私が聞くとトンパーは真面目な顔をして言う。

「ちょっとそのオトコってのを紹介してくれねぇか?」

「え?」

「ここの奴らを代表して俺が礼を言わなきゃならねぇ。きっちとな。挨拶は俺様の務めだ」

「え? いいけど…変なこと言わないでね」

「ああ、もちろんだぜっ! ビシッと挨拶してやる!」

 私は首を傾げてしまう。

 何だかトンパーは見たこともないような顔をしていたんだ。

 私は騒ぎ出す友達を他所に、被害に遭った人達のことを考えた。

 こんなことはもう二度と経験したくない。

 ただ眠って、夢も見ずに大事な人達が傷ついて、私だけが何も知らずに助けられるなんて二度と嫌だ。

 私の罪はどうやったら償えるのだろう?

 私がもっと自分の力に向き合っていたら…あの子達を助けられたかもしれない。

 だからこれは私の罪。自分が逃げて何もしなかった弱い私の罪。

 償うには…私は救わなければならない。

 ゼンが私にしてくれたように、誰かを救い続けなければならない。

 私は強くならないと…いけないんだ。

 もう私はこの罪から逃げない。

 この紫色の夢と髪の色は償うためにあるんだから。


―――そうして私の紫色の夢が終わる。

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