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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
一章 リーンフェルト領主嫡男ゼン
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騒乱の午後③ 作戦会議

リーンフェルト領はアラフェト山脈の麓の大森林となだらかな丘陵で構成されており、4つの村がある。ルーン王国側つまり西から順にトスカ村、エポック村、ナートス村、トックハイ村そしてその先にエーロック砦。南下すれば隣領ヘルムート辺境伯の辺境都市オークザラム。街道は整備されて、街道の周りは麦畑が広がる。

村から村へは歩いて一日。馬で行けば半日ほどかかる距離だ。


俺は領の地図に羽ペンで線を引く。

その行動にトルエスさん、ゼル、警備隊員、ルクラ、アルガス、ドルグが静かに見守る。

書き終わり、俺が口を開く。

「リーンフェルトの屋敷を中心にエポック村を第一次防衛線、ナートス村を第二次防衛線、トックハイ村を第三次防衛線、そして屋敷の外壁を最終防衛線とします。第一次防衛線では村人の避難誘導、第二次防衛線では弓による戦闘で魔物を牽制しつつ避難の時間を稼ぎます。ただし、第二次では戦闘はあくまで牽制。戦闘は第三次防衛線で行います。本作戦の要となるのは第三次防衛線でどれだけ時間を稼げるかになると思います」

伝え終わると、すかさずゼルが反応した。

俺がこの作戦で一番頼りにしているのは軍でも百人長の実戦経験があり、祝福持ちである彼だ。

「戦闘人員はどうしますか?」

ゼルは落ち着いている。すでに俺を司令官兼作戦立案者として受け入れている。

「第一次、第二次には馬に乗ることができ戦闘訓練を受けている者でおこない。第三次では屋敷の守護に当たるもの以外の警備隊と自衛団で行います」

「1200匹だとすると100名程度だと話にもならないと思うが」

警備隊と自衛団合わせて105人。グラックは単体だと最弱の魔物に分類されるが、1200匹、一人当たり12匹を相手にするには祝福持ちでもない人間には分が悪い。よほど戦闘訓練を行った職業軍人でもないかぎり。

俺はトルエスさんの仕事を手伝って、ほとんどの領内の生産物を把握している。今回はその一つに注目していた。

ゼル殿に俺は答える。

「はい。そこで火を使います。領では菜種油も生産しているのでこれを戦闘の時に使います。火を避ければ相手の陣形は崩れるので崩れたところを叩き数を減らします。ちなみに第二次防衛線のナートス村では避難が完了次第村に火を付けてください。兵糧攻めをします」

火。それは原始的だが効果的に敵を殺戮する。

特に、街道の周りは収穫前の麦畑。もし、街道から横の麦畑に入られると、敵の姿が見えにくくなり不利になってしまう。最終手段は麦畑ごと燃やしてしまうことも考慮している。第二次世界大戦の日本の沖縄では火炎放射機によって隠れた日本兵を倒す為にアメリカがとった手段。俺はそれを考えていた。

また、村を焼くことで飢えたグラックに食糧を渡さず弱らせて第三次のトックハイ村での戦闘を有利にする。飢えて周りの麦畑を荒らすようなことがあれば、それだけ時間を稼げることも計算している。

俺のその言葉に顔をしかめたのはルクラだった。確かに村を治める者にとってそれは一番忌避することだろう。

「それは村を捨てろということですかな」

本当なら村を無傷で残す方がいい。魔物を撃退した後のことを考えると俺も頭が痛いが、村も無傷で領民の犠牲がでないなどという都合のいい結果は、今は考えない方がいいだろう。それを考えるには2日間という時間はあまりに少ない。あと、そんな作戦を考える才能がない。

心苦しくもルクラに言う。

「ルクラ、気持ちは分かるが今は領民の命が優先だ」

「そうですな・・・村はまた作りましょう」

ルクラは残念そうな顔をするがそう言ってくれた。その前にナートス村の村長を説得する必要があるがそれはトルエスさんとルクラに任せる予定だ。ルクラの答えはその説得を了承してくれたことになる。

「さて、ここまででいかがでしょうか?」

俺は皆に確認する。

皆は黙って、俺とゼルを見比べている。

ゼルは顎に手を当てて、地図を見つつ少し考えている。

「うむ。堅実だ。細かいところを詰めれば、十分作戦になる」

2、3分ほど考えてからゼルはそう答えた。

俺は試験答案を目の前で確認されている生徒のような気分だ。おもわず安心して溜息をつきそうになるが、そこはこらえて、さも当然といった表情で先に進める。

これから伝えることは本当なら魔物の襲来を聞いて直ぐにでも行いたかったことだ。

混乱を抑えて、代理領主としてこの場に立つために少々時間がかかってしまった。

父上ならおそらく最初の知らせから30分から一時間で指示を出していると思う。

だが今は、手際の悪さを嘆いても意味はない。話を続けるために俺は口を開いた。喉が渇く。

「退路や村の柵の強化、火の仕掛けなどはのちほど話しますが、至急しなければいけないことがあります。斥候部隊と各村への伝達、エーロック砦への早駆けです。ゼル殿、警備隊の中で斥候経験者と工兵経験者はいますか?」

俺の問いにゼルが素早く答える。

「斥候経験者は5名、工兵は2名だ」

「では、斥候経験者5名で魔物数と戦力を確認してきてください。戦闘は避け村に必ず立ち寄り、かならずトックハイ村に避難するようお伝えください。情報と時間、それが領民の命と思ってお願いします。あと、工兵経験者は後で相談があります」

俺の指示にゼルが後ろに控えている警備隊の方を向き、素早く命令を出す。

「了解しました。トトルナス、エンリケ、マークハイ、グトーゲン、メルオーガス。トトルナスを斥候隊長とし斥候を命ずる。行って来い!」

「「「はっ!!」」」

警備隊の5人は俺とゼルに向けて敬礼をして、部屋から出て行った。打てば響くような素早さだ。平時からのゼルの指揮能力の高さがわかる。

俺は彼らを頼もしく思いながら、今度はトルエスさんの方を向く。

「トルエス様は先に手紙を書き、伝令をお願いします。書き終わったら各村長と後方支援のまとめ役をお願いします」

「畏まりましたゼン様」

恭しく、そう告げてからトルエスさんも部屋から出ていく。

続いて、ルクラとアルガスに言葉を告げるため、彼らに視線を向ける。

「ルクラ、アルガス。ルクラは村人で動けるものを三班に分けて、一班は屋敷で住めるようにテントや食糧などの準備を、二班は村の柵の強化、柵を土嚢での強化を行ってください。三班は戦闘の準備、装備品や武器等を集めて自衛団に組み込んでください。あとでその人数を教えてください。素早く村をまとめることをルクラに命じます。アルガスはゼル殿の指示を受けてください。今回は警備隊と自衛団をゼル殿がまとめてください。」

普段から魔物の襲撃や戦争のために訓練を行っているのでルクラとアルガスに任せても問題ないだろう。

その訓練も見たことがあるので、村人は何をすべきかを知っている。

ただ、ここまで大規模なものではなく。想定した訓練では50匹ほどの魔物の群れ。今回は完全に魔物の軍隊レベルだ。

軍隊と言う言葉に少し嫌な想像をするが、俺は指示を続ける。

「ゼル殿と工兵経験者2名、ドルグは作戦内容を詰めます。警備隊の残りは戦闘準備。いつでも出発できるように馬の手配等をお願いします」

警備隊の残りが敬礼をして部屋から出ていく。

これで何とか各員が指示を受けて動いていることになる。

俺はこれからまだ空欄だらけの試験答案に答えを埋めていく作業が残っている。

残した者達で襲来まで時間が許す限りの策を用意しないといけない。トックハイ村の300人と警備隊。その人員を使った策だ。


「さて、ではまずお茶にしましょう。エンリエッタは・・・いないので私が入れてきますね」

そんな呑気な言葉に残った皆は驚きの顔をする。

別にかまわない。

喉が渇いたし、思考を切り替える時間がほしい。

すぐに思考を変えれるほどの俺は頭が回るわけでも、思考が柔軟でもない普通の人間だ。

エンリエッタが淹れてくれた熱い香木茶が飲みたいな、と思いつつ。

俺は台所に行く。


話し合いが終わるころには夕方だろう。

そんな気がしていた。

騒がしい午後の合間。

湯を沸かしつつ、盛大な溜息をついて自分を落ち着かせる。

誰もいない台所は少し、肌寒かった。



えらく難産でした。

作戦立案なんてできないよ!と思うこの頃。

「そんな作戦を考える才能がない」とは私の言葉でもあります。

ゼン君がんばってる。

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