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双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
一章 リーンフェルト領主嫡男ゼン
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騒乱の午後② 代理領主としての責

後日修正が山ほど入る可能性があるかもです

地図を食堂のテーブルに広げて、待っていると呼び出した者達が続々と入ってくる。

俺はエンリエッタを捕まえて淹れてもらった香木茶を飲みながら彼らを待っていた。

トルエスさん、ルクラ、アルガスは先ほどの一件があったので比較的大人しい。俺の指示にはしたがってくれるだろう。

だが、ドルグを除き、ゼルの警備隊員たちは騒がしかった。

やはり彼らが問題か。

ある程度は人間関係が構築できたが、まだこちらの指示に従ってくれるような雰囲気ではない。

一様に何故こんなところにという表情をしている。

ドルグは寡黙な男なのでちゃんと説明すれば納得するだろうし、指示にもしたがってくれるはずだ。


そんな嫌な計算をしつつ、俺は優雅に香木茶を飲む。

集まったので始めるとするか。


俺は座っていた椅子から立ち上がり声をかける。

「お集まりいただきありがとうございます。これよりリーンフェルト領における魔物の襲撃対策を行います」

その言葉に静かになる。

ゼルはこちらを見ながら怪訝な顔を隠さない。

何故子供の俺がこの会議で、まるで司令官のように発言をしているのかを考えているのだろう。

だが、まだ口を出させるわけにはいかない。間髪いれずに先に進める。

「現在、トスカ村がグラックらしき不特定多数の魔物集団に襲われて、被害が出ております。このままでは他の村やこのトックハイ村も襲われる可能性があります。したがってその対策を領主代理のゼン・リーンフェルトが執り行いたいと思います」

「ゼン様!領主代理とはどういうことですか?」

警備隊の代表としてゼルが少々言葉を鋭くしつつ疑問を口にする。

「警備隊長ゼル殿、言葉の通りです。ルーン王国が派遣したリーンフェルト領代官トルエス様にも認めてもらっております」

「バカな!トルエス様、それは本当ですか!?」

ゼルは驚いて、トルエスさんの方を鋭く睨みつつ確認する。

「はい、ゼル殿。私が代官としてゼン・リーンフェルト様を代理領主として認めております」

「ゼン様はまだ6歳ではないですか!そんな方に代理領主などと」

「ルーン王国の規則上、領主がいない場合はその直系か代官が認めた代理領主を立てることが可能です。それには年齢が記載されておりません。ですのでゼン様でも可能です」

「規則のことを聞いておるのではない!」

ゼルが鬼の形相でトルエスさんを一喝する。

それに全く怯まずに、トルエスさんは飄々として答える。

「規則でないのでしたら、半年間ゼン様と一緒に仕事をした個人的な感想を申します。冷静に判断してゼン様しかいないと思っております」

ゼルに一喝されても堪えることなく答えるトルエスさんは本当に仕事ができると思う。何故この人がリーンフェルト領の代官をしているのかが不思議だ。

だが、時間もないのでそのやり取りを切ることにする。

「ゼル殿、言いたいことはわかりますが、まずは対策を話し合いましょう。私には提案がありますのでそれを聞いてからでお願いします」

「確かに。わかりました。ではゼン様今は進めてください」

こんな風に冷静に切り返しができるゼルを頼もしく思いつつ話を続ける。

「まずは、トルエス様に代官として3通の手紙を書いてもらいたいと思います。1通目はルーン王国軍部宛に、2通目は寄親である隣領のヘルムート辺境伯宛に。内容は2つ。一つは魔物討伐軍の遠征要請。もう1つは支援援助要請。援助内容は回復魔法薬と回復魔法使い、食糧と生活物資。搬送が難しければ金銭での援助です」

「討伐軍の遠征要請?魔物の数や本当に来るかもわからないのに要請するのですか?」

ゼルは鼻息荒く質問してくる。

それは既に回答を用意している。

「ルーン王国軍リーンフェルト領警備隊隊長ゼル殿、トスカ村が実際に襲われている今、襲撃した魔物を除いても潜在的にそれ以上に魔物が増殖している可能性あります。現状で討伐要請は領主として当然の義務です。そして、軍部のゼル殿に確認しますが、魔物が来ないという都合のいい解釈をするよりも、最短時間で魔物が攻めてくると想定して対策をとるほうがより有意義な議論になると軍部では指導されていないのでしょうか?」

「なっ!?」

ゼルはそれ以上言葉がでてこない。かなり棘のある言葉だが仕方がない。内心謝りつつも進める。

「では進めます。トルエス様、3通目ですが、エーロック砦のルーン王国東方面軍部隊長トルイ・リーンフェルト様宛に緊急要請で援軍を要請してください。現状は籠城を考えていますが魔物の数が多い場合はこの領地を捨てて、エーロック砦に避難します。その際の受け入れ要請も。あと、最後の一文にこう記してください。『ゼン・リーンフェルトは代理領主として前線で指揮をとり、避難の最後は殿を務めることでその責を負う』と」

「ゼン、さすがに俺もそれはできない!」

最初に口を開いたのは先ほどまで飄々としていたトルエスさんだった。今までの口調を崩して慌てたように言う。

「トルエス様、これがここに立つ私の覚悟です」

「ゼン、だめよ!お願い止めてちょうだい!」

先ほどまで黙っていた母上が蒼白になってそう声を荒らげる。

「エンリエッタ。すまないが、母上を自室までお連れしてくれ。後で私から話す。頼む」

俺は母上を見ずにエンリエッタを強く見る。

一瞬、迷ったが諦めたようにエンリエッタは母上を宥めつつ、強引にも自室に連れていく。

母上の泣き声だけが聞こえる屋敷は沈痛な雰囲気。

無理もないと思う。俺も後で母上に何を言えばいいのかわからない。

沈黙を破ったのはゼルだった。

溜息をつくとこちらを真剣に見て姿勢を正す。

それはルーン王国軍の精強な兵士の姿。

「ゼン様・・・本当に貴方は不思議な子供です。だが、その心意気はこの場の誰よりも気高い。心より敬服致します。我が、警備隊総員、これよりゼン様の指揮下に入ります。皆の者よいなっ!?」

「「「「はっ!」」」」

狭い空間に20人の男たちが声を上げて敬礼するのは圧巻だった。

ちょっと驚いた。

苦笑しつつ場を和ませるために俺は声をかける。

「ゼル殿ありがとうございます。大丈夫ですよ。まだ、ゼル殿がおっしゃったように魔物がくるかわからないですし、手紙で父上を脅しますので」

「いえ、先ほどは失言です。ゼン様がおっしゃる通り見通しが甘いと反省しております。それで策はあるんですね?」

「ええ、草案はありますが、ゼル殿たち皆の意見がほしいのでとりあえず聞いてください。まず、地図を見ながら確認します」


俺はドルグに目線を向けて話す。

「まず、この周囲の地形に詳しく魔物討伐を長年しているドルグさんに聞きますが、グラックの群れの目的は?」

「そうだな、ヤツらは一定の土地で繁殖をして増えすぎると、あぶれたモノが群れをなして他の土地や人里を襲う。今回も食糧だと思う」

「では、グラックの群れの速度からしてトスカ村からこのトックハイ村までは何日かかりますか?」

「真っ直ぐに進んで2日ぐれぇかな」

「彼らは夜の行軍や夜襲をしますか?」

「ヤツらは夜目がきかねぇ。夜は動かん」

「過去に群れをなして村を襲ったときの数とかわかりますか?」

「あー、爺様から昔聞いたことがある。そのときは1200匹いたそうだ」

1200という具体的な数字がこの場に重く沈殿する。

すでにこの場で騒ぐ者はいないが、皆の顔は一様に暗い。

真剣になるのは歓迎するが、悲観はだめだ。

雰囲気を操作するために言葉を選ぶ。

「注意しておきますが、今回は敵の殲滅ではありません。援軍が来るまでの防衛です。1200匹ならまだ希望はあります」

「そうだな・・・我々が諦めるのは早い。続きをお願いする」

やはりゼルは頼りになる。その一言でほんのわずかに空気が緩む。

「そこで私は籠城を考えています。ですが、確認します。ゼル殿、トルエス様、領地を2日以内で出て領民約1000人をエーロック砦へ避難させるとしたらどれぐらいの被害になりますか?」

「・・・。厳しいですな。2日以内に抜けだす場合は食糧の準備が全く間に合いません。そして警備隊20名、自衛団85名だと道中の魔物の襲撃に耐えられません。上手く逃げだせて半数かと」

「同じ意見です」

ゼルとトルエスさんが答える。

「トックハイ村の食糧をリーンフェルトの屋敷に持ち込み砦として一週間籠城する場合はどうですか?」

「籠城は敵勢力の3倍で攻めるの王道です。領民全員が武装すれば被害は3割程度で済む可能性があります。楽観はできませんが」

トルエスさんもゼルの言葉にうなずいている。

「ならば、今回は籠城で決定です。では次に援軍の到着日時の確認です。地図を見てください」

そう言いながら俺は地図上のトックハイ村とエーロック砦まで指で線を引く。

「ゼル様、トルエス様エ―ロック砦からの援軍は何日後に到着しますか?」

「・・・早駆けで・・5日・・・いや私なら4日で到着するはずだ」

「私もゼル殿と同じです。おそらく4日」

「わかりました。籠城で4日もたせます。魔物の群れが最短2日なので我々の仕事は2日間この地を守ることです。幸いに今日は砦の早駆けが滞在しているので彼に頑張ってもらいましょう」

トルエスさんはうなずく。

やっと戦略目標ができた次は戦術。作戦内容の具体的な話しにもっていこう。

「戦略としては籠城によって4日間この地を守ります。それでは具体的な作戦内容に移ります」

ここにいる誰もが俺の話を一言も漏らさないよう真剣に耳を傾ける。

良い兆候だ。これでお膳立ては済んだ。


だが、俺は焦る。

時間がない。すでにこの状況を作るために魔物襲撃の知らせから一時間経っている。

偵察部隊、各村への作戦の伝達。

今後この一分一秒が領民の命と等価になってくるかもしれない。

それでも俺は焦る顔してはいけない。

うなじや背中には既に大量の汗が流れている。

見つからない様に手汗をズボンで拭きつつ、俺は作戦をなるべく分かりやすく的確に伝える方法を思い出しながら言葉を紡いでいく。


まだこの騒がしい午後は終わらない。


見事におっさんばかりですね。

ゼルおじちゃんはゼンの為を思って嫌なことを言っています。いい人です。


あと、異世界なのに魔法も神様のチカラもでてくる気配がないってどういうことよ作者?って感じですね。ごめんなさい。

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