表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双望の継承者 〔 ゼンの冒険 第一部 〕  作者: 三叉霧流
一章 リーンフェルト領主嫡男ゼン
11/218

アンの戸惑いと祈り

アン視点です

私の名前はアン、トックハイ村のルクラの長女のアン。

自分でも取り立てて面白味のない女の子だと思う。

趣味は読書と裁縫。

晴れた日には蜂蜜がとれるロースイップの花畑で日向ぼっこをするのがお気に入り。


そんな平凡な私にとって一つ大きな目標がある・・・らしい。

半年前にお父さんがリーンフェルトの屋敷でお話合いをして、帰ってきた後にその目標ができた。

いや、できてしまったのかな?


「ゼン様の妻になりなさい」

お父さんは帰ってくるなり真面目な顔をして私にそう言ってきた。


ゼン様とは私の村の領主であるトルイ・リーンフェルト様の息子であるゼン・リーンフェルト様のことだ。

教会では何度かお見かけはしていたが、声をかける勇気もないのでお姿だけは知っていた。


それがどうして私の旦那様になるというのか。

私にはわからない。

わからないので私が黙っていると、お父さんは今度家にくるのでゼン様に私のことをご紹介すると言う。


神様どうすればいいのでしょうか…?

どんな人かもわからないのに旦那様になるなんて。


だからあの日、私がゼン様とお話をしたときも私が黙っているのでゼン様を困らせてしまったように思う。

でも、ゼン様は私に笑顔を向けて挨拶をしてくれた。

優しい人なんだろうと思う。


私は、家族でいるときもあまり喋らない。

だから、ゼン様とお兄さん達が楽しそうにしているときも黙ってついて行くだけだった。

お喋りが上手なエルクちゃんだったらもっとゼン様と仲良くなっていたかもしれない。

おしゃべりが下手な私はゼン様を見ているだけ。


自分が嫌いになる。

そんなときに、ゼン様が私の大好きな絵本のお話をしてくれた。

すごいことにゼン様は読み書きができて、その上に私に教えてくれるという。

周りの大人でも読み書きができる人が少ないのに。


それから朝の礼拝が終わった後の短い時間だけどゼン様は私の先生になった。

ゼン様の教え方はとても分かりやすい。

本当の先生みたいだ。

私はすぐに簡単な絵本や小説なら読めるようになった。

本もゼン様やトルエス様の屋敷から貸してもらう。


ゼン様はなんというか・・・村の男の子たちと全然違う。

絵本の中の王子様みたいな人だと思う。

おしゃべりに品があって、私が言葉に詰まっていると優しくほほ笑みながら待っていてくれる。

6歳なのにお兄さん達と剣で戦っても勝っちゃうし、狩りも上手だ。

自分の身体よりも大きなマルックを仕止めてきたときに吃驚した。


最近は一人でよく村に馬で遊びに来てくれる。

来たときはいつもゼン様の周りには村の大人たちが集まってくる。

自衛団の男の人たちが一緒に訓練しようとか、畑の人手が足りないから手伝ってほしいとか、商人さんは何か難しい話をゼン様に相談したりする。


一番驚いたのは猟師のドルクさんだ。

ドルクさんは村一番の猟師でいつも怖い顔をして、言葉も怒られているんじゃないかと冷や冷やする。

なのにゼン様とは楽しそうに狩りのお話をされる。


ゼン様はトックハイ村の人気者になってしまった。

ゼン様が来ると私の家ではいつもゼン様のお話になる。

お父さんはゼン様はすばらしい領主になると言って喜んで、私をいつも見る。

そんなとき私は悲しくなる。


だって、私の友達の女の子もゼン様とお話するのが好きみたいで来るといつもゼン様の側に行く。

どうしよう。

私がゼン様のお嫁さんにならないといけないのに、こんなに人気者になってしまったら私みたいな平凡な女の子は見向きもされなくなっちゃう。


私がわからなくなって朝の礼拝で神様にゼン様と仲良くなれるように祈っていると

ゼン様がやってきて、遊びに行こうって言って、

そのままゼン様の馬の後ろに乗って、ちょっと村から離れたロースイップのお花畑に連れて行ってくれた。

ゼン様は私を馬から降ろすと、そのままお花畑に寝っ転がる。

私も真似をして寝っ転がる。

白い小さな花を咲かせるロースイップがずっと続いていて、甘い香りとそれを撫でてくれる気持ちのいい風が吹いていた。

ゼン様は黙って、目をつむっている。


心配してくれたのかな?

それとも眠たくなったのかな?

私にはわからない。


お嫁さんになることも、難しい話も私にはわからない。

でも、ゼン様が横にいて、こうして一緒にロースイップのお花畑で日向ぼっこをしていることがとても嬉しい。

うん、平凡な私だからこうしているのが一番なんだと思う。

なんだかスッキリして、私は小さく笑ってしまった。

隣にいるゼン様はこっちを見て不思議そうにしている。


でもいいんだ。

私のお気に入りの場所ができて、こうして過ごせるんだから。


そして、神様ありがとうございます。

ゼン様と出会えることができて。

ゼンはプレイボーイ説浮上。

トルエスに教えられずともバッチリです。

それもこれも社交性の高いゼンだからです。

禅はそんなことできません。あしからず。


マルック・・・イノシシ

ロースイップ・・・アカシアみたいないい匂いがする感じの花?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ