海の君臨者達のゲーム
※複数回修正・追記しています
魔法による激しい攻防が繰り広げられている。
小型帆船ほどもある巨大な水の砲弾が唸りを上げて打ち出され、それを撃墜する巨大な水の鞭。シャルルは無言で魔力を練り上げて、球体を生成して打ち出す。
轟然とはじけ飛ぶ水の塊、その塊が海に落ちて波が幾つもあらゆる帆船の側面を打った。
攻防は常にシャルルの優勢と見えた。レイは旗艦アシュロンの周囲に水の柱を突き立て、それを操り防御に徹している。
シャルルは胸中で歓喜に震えていた。
初めて行う全力での魔法戦闘。その高揚はシャルルの心を誘惑し、快楽で魔法を打ち出そうとさえ思ってしまう。シャルルは学院でも最高成績を収めた天才。同期では比肩しえる者はおらず、常に力を制御して手加減を行ってきた。しかし、それは王族という生まれの足かせ故にシャルルは自分の理性を保つことができた。
本来ならば、力に溺れて王国から討伐されても仕方がない程の逸材。
その全ての足かせを、重りを解放して力に溺れる感覚に酔いそうになる。
その枷が自らの理性を救っていたのかとシャルルは自嘲気味に笑う。
しかし、彼はその快楽の誘惑を打ち払い、冷静に海原の先を見つめ、勝つための手段に思考を巡らせる。
シャルルは相手の魔法が操作型の水属性だと看破している。
帆船から約半トリルほどの海域に魔力が満ちて、水柱がそそり立ち、シャルルの『海原の蒼球』を迎撃していた。
操作型は中距離の魔法使いだ。中距離はおよそ四分の一トリルという距離から最長でも半トリルまでのことを指し、それから距離が伸びるほど魔力が格段に減衰し水の支配権を失う。反対に、シャルルは放出型。放出型は長距離の魔法を得意として、最長で一トリルまでの距離を魔力減衰なしに狙える魔法使い。
シャルルは己が魔法について熟知している。
放出型の長所は、長距離を魔法減衰なしに攻撃できる点、そして魔力自体に自律した行動を書き込むことができるという点だ。
同属性の魔法使いが対決する場合に、最も重要になってくるのはその属性の支配権の奪い合い。
この海域に存在する膨大な量の海水をどちらが支配するかということがこの駆け引きの重要性となる。
だが、操作型は中距離までの海域において、その支配権は放出型よりも強い。レイの旗艦船の周りはレイの支配権が強くて、シャルルでは割り込むのが難しい。格下の相手であれば強引に支配権を奪い、相手が放つ水をそのままシャルルの凶器にすることができる。
放出型の長所と支配権の確保、その二点。
均衡した攻防の中でシャルルは戦術を構築する。
その戦術の解答は、自律した魔法で相手の攻撃を掻い潜り、必殺の一撃を放つ。
五人の鞭使いを打ち破るには騎乗した騎士の捨て身の突撃による攻撃。鞭使いの鞭はその鞭の先にこそ最高速度の速さが宿り、逆に手元は人間の動きでしかない。至近距離まで差し迫れば、倒す活路が見いだせる。
シャルルはそう判断すると即座に『海原の蒼球』を崩し、渾身の魔力を込めて己が理想をそこに宿す。
「我が理想、我が身を守る近衛騎士達よ、我の元に集え!その勇壮なる姿をここに示せ!『我が理想なる青の騎士』」
旗艦レディウス・カエルザ号の目前の海原を突き破るように九体の海水で出来た騎乗した重甲冑騎士が現れる。帆船の半分ほどもある巨大な騎士は更に長い槍を携え、壮麗な艶姿。王国のトーナメントで英雄として戦いにでる勇者の姿だった。
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巨大戦列艦アシュロン。
その甲板の上でレイ・キルバンは獰猛な笑みを浮かべていた。
イーゼルのように斜めに立てかけてある横長の大きな鉄製の図板に両手を置き、その図板の向こうに広がる光景を見ていた。
シャルルの取った戦術。九体の水の騎乗重騎士がレイへ九本の鋭い槍の穂先を向けている。
レイは感心する。
初陣と聞いていたが、それは紛れもない魔法戦闘に長けた歴戦の戦士の強さと思考を持っていた。祝福によって海の覇者として自分に喧嘩を売ってきただけの男とレイは評価をする。
おそらく、とレイは考える。
あの九体全てがこちらの防御を越える事は出来ないはずだと。
魔力量、魔法操作技術そのどれをとってもシャルルは水の球体の五球が精々だ。あの球体は水の鞭、『絡みつく船底の魔手』で防がなければこちらの防御を突破できる威力がある。
魔法は現出する魔法の数に比例して魔力と集中力を削る。レイの防御を突破できる威力を保った数となれば五球が限界だとレイは看破した。
その魔力量を分散させて、あのような精密な魔力操作で編んだ騎士九体となれば威力は格段に落ちる。しかし、精密な魔力操作で編む魔法にはイメージによる自律性を付属させる。または、感覚を同化させて遠距離操作をする。あれだけの精密な騎士の魔法は、その精密さ故の自律能力を持ち、『絡みつく船底の魔手』の攻撃を避けるという意図が見えた。
だからこそ、あの九体全てに威力を持たせることはない。つまり、あの九体の内、何体かあるいは8体すべてが見せかけ。
一体のみ、あるいは二、三体に威力を集中させて、高精度な自律性でこちらに必殺の一撃を加えてくる。
「私に博打で勝負って訳か!いいよ乗ってやる!沈ませろ!『絡みつく船底の魔手』」
レイが叫んだ。命の駆け引きを楽しむ生粋の博打打ちと呼ばれる笑みを貼り付けて豪雨の中力の限り吠えた。
魔力を練って先ほどまで現出していた水の柱五柱を全てまとめて巨大な太さの一柱を作りだし、その先の水を圧縮硬化させて鎌首をもたれ上げる。
それはまさに獲物に飛びつく蛇、獰猛な毒牙を有した大蛇のようだった。
レイは『絡みつく船底の魔手』を一点に賭ける。
レイはシャルルを評価している、認めている。
そのレイが認めた相手が、数体に魔力を乗せるなんて腰抜け野郎なはずがないと彼女は一切の躊躇なく判断する。
騎乗騎士達は突撃陣形、五体が前衛、四体が後衛の二列の三角形を描き突撃してくる。荒れた波が白波を立てている海原を草原のように颯爽と、力強く、水を蹴り、雨嵐を切り裂き、巨大な槍を突きだして、レイの命を、その首を討ち取らんと肉迫する。
レイはその時も迷わなかった。
狙うは大穴、もっとも死ぬ可能性が高く、誰も行きたがらない突撃陣形の『死の配置』。故にそこに行くと名乗りを上げた者を讃える『英雄の居場所』。レイに挑戦状を叩きつけて、一騎打ちを望んだ英雄ならここしかないとレイは賭けた。
レイは『絡みつく船底の魔手』をその突撃のど真ん中へと走らせる。
突撃する前衛騎士の真ん中の一体。ただ真っ直ぐにその蛇頭をそこに向ける。
凄まじい速度、何者をも貫くその鞭の突きが戦闘海域のど真ん中で疾風怒濤の騎士を穿つ。
大質量の水が爆発する。
だが、レイは焦った。
爆散した騎士、二体。真ん中の前衛と後衛の騎士は見せかけだった。あまりにも水の質量が少ない。鞭が軽い陶器を割ったような感触、つまり親の総取りだ。
それを感じた瞬間に真っ直ぐに伸びた『絡みつく船底の魔手』を横薙ぎにするが、真ん中の前衛の横にいた騎士一体の馬が海を蹴り上げて、遙かな高みえと飛び上がり空を駆ける。飛び上がった瞬間に他の騎士達は崩れ落ちてその海に大きな波を立てた。
レイは焦りながら一部の魔術行使を中止し、すかさずアシュロンの周りに巨大な水の防壁を構築するために魔力の大部分を一瞬で消費した。
膨大な量の水がアシュロンの周りで渦を巻きながら海原からそそり立つ一瞬前、その防御が終わらないうちに飛び上がった騎士の槍がアシュロンへと突き刺さる。
凄まじい大音量でアシュロンのメインマストが槍で打ち崩されて、槍の穂先がアシュロンの船尾甲板に突き刺さった瞬間、その槍が大量の水の瀑布となってアシュロンを激しく揺るがせた。レイがその揺れでふらつき、水が甲板に溢れて押し流され何人もの海賊が海にたたき落とされる。
シャルルの槍がアシュロンを破壊尽くす一瞬前にレイが構築したドーム状の水の城壁が完成したのだ。膨大な水と魔力で編まれたその城壁は騎士の槍を折り、騎士の捨て身の体当たりをなんとか阻んだ。
レイ・キルバン海賊団、その脅威の象徴たる海賊旗が掲げられたメインマストが大きく傾き、無数の木が割れる音と無数の縄が千切られる音がアシュロンに木霊する。割れたマストの下敷きになり潰れる者、千切れた縄に強打され頭蓋、肩、内臓を潰されて吹き飛ぶ者。無数の叫び声と怒号がアシュロンを埋め尽くす。
幸運にも命をとりとめた海賊達は必死で仲間を助けるために甲板を激しく動き回る。怒号と怨嗟、叫び声、悲鳴、すすり泣く声、戦場のありとあらゆる負の感情がそこを埋め尽くした。
巨大な穴を穿たれた船尾甲板、倒れる無数の家族、激しく揺れる船首甲板の上。
そこで幽鬼のようにレイ・キルバンは立ち上がった。
その顔、その表情は――――凶悪な笑みだった。
「やってくれたね・・・お前・・・。じゃあ、今度は私が親の番だよ・・・さあ!博打を楽しもうじゃないか!楽しい楽しい博打をね!アハハハハハ!」
激烈な闘志を滾らせ、全身に怒気を漲らせたレイ・キルバンが哄笑し、戦いは次の局面へとなだれ込んだ。
追記でルーレット用語のルビを振っております。ちょっとくどいですかね・・・?




