自動ドアの向こう
突然だが今から僕の趣味の話を聞いてもらいたい。
趣味は音楽を聴くことで、ロックから演歌まで何でも聴く。
僕は高校に通っているのだが、休み時間はほとんど音楽を聞いて過ごしている。
休みの日もほとんど音楽を聞いている。
音楽がなければ生きていけないほどなのだ。
念のため言っておくが、決して友達がいない訳ではない。
部活が終わり、自転車のカゴに鞄を投げ込んだ。
そして、寒空の下、全力でペダルを漕ぎ始めた。
何で急いでいるのかというと、今日は好きな歌手のシングルCDが発売される日なのだ。
急いでいるせいか、いつもより自転車のライトの音がうるさく感じた。
まるで自転車が悲鳴をあげているかのようだった。
普段、僕は卓球部に所属しているが、体力は全くと言っていいほどない。
漕ぎ始めてすぐに僕は疲れてしまい、息づかいが荒くなった。
幸か不幸か、お店までの信号が全部青で止まらなくてすんだ。
自転車を止め、鍵をかけてCDショップの入り口へと向かった。
そして、息づかいが荒いまま自動ドアの前に立った。
しかし、自動ドアは期待を遮るかのように、びくとも動かなかった。
存在感がないので学校では空気みたいとよく言われているが、とうとう機械にまで存在を否定されてしまったのである。
自動ドアのガラスに映る僕は冴えない顔をしていた。
そして、感じる夜風と視線は、やけに冷たかった。
何度も試したが、ドアが開くことは無かった。
立ち尽くしている間に、いい方法が思いついた。
それは他の客の後ろにくっついて入るというものだった。
客は少なかったがターゲットを決め、僕はまるで背後霊のように客の後ろにくっついて入った。
くっついている間はとてもヒヤヒヤした。
でも、前の客には気付かれずに何とか入ることが出来た。
決して不審者ではない。ただの娯楽を求める哀れな男なのである。
店の中に入ると真っ先にシングルCD売場へと向かった。
迷うことなくお目当てのCDを手に取るとレジへ向かった。
もう胸が騒いでワクワクが止まらなかった。
でも、あることに気が付いた。
入って来たって事は出る時も自動ドアを通るのだ。
僕は一生分のため息をついた。
試練はまだ続くのだった。




