3.1417150310232531120251……
※円周率ではありません
<A>
道を歩く私を、今日も冴えないおじさんが、申し訳なさそうに立ち止まらせる。
二十歳で結婚してから五年が経ち、夫への愛は小さくなったが、まだ心に愛は在り続けている。
歳が私のちょうど2倍ある父親くらいの歳のおじさんへ特別な感情は生まれてきていない。
プレゼントを渡すだけで、どんな感情も言葉に乗せないおじさんの目的は正直よく分からない。
頻繁に会いに来るという訳ではなく、嫌な気持ちもほとんどないが、どうしていいのか分からない。
プレゼントを渡すということは、好意がないと出来ないこと。
好意の込められたものは、受け取ることも、断ることも、申し訳なく感じてしまう私がいる。
無理矢理押し付けられて、今日も手には紙袋がある。
弱々しさのある真っ直ぐさは、おじさんがいい人だということだけを私に分からせてくれた。
おじさんは頼りなさそうだが、夫よりも私に優しく接してくれている。
<B>
雨が降り続いているとき、心は湿っている。空が晴れ渡っているとき、心は乾きすぎている。
貴女を見つめているとき、心は湿りも乾きも忘れる。湿りの代わりに潤いが溢れてくる。
名前を知らない歳が半分ほどの貴女を何度も待ち伏せした。
妻がいたことはなく、恋愛もそれほどして来なかった身分だというのに。
今日も貴女にプレゼントを無理矢理渡してしまった。
好意が少しでも伝わればいい。貴女を少しでも見つめられればいい。
少しだけでも会話が出来ればいい。これ以上は求めない。
プレゼントは、口下手で引け目のある僕が唯一出来る愛情表現。
貴女にはきっと愛する人がいる。こんなに綺麗ならば絶対愛する人がいる。
だから、これからはプレゼントをやめる。会話はしなくていい。せめて擦れ違うだけでも。
<C>
妻が捨てに行ったゴミ袋と引き換えに、またプレゼントの入った袋を持ち帰ってきた。
どこの誰だか知らないおじさんのプレゼントを受け取るなんて考えられない。
妻は少しお人好しで、人の気持ちを考えすぎるところがある。
自分より相手という気持ちも分かるが、俺以外の好意を受け取ることは許可出来ない。
妻は俺だけを見ていればいい。妻は俺だけを考えていればいい。妻は俺の気持ちだけを読み取ればいい。
俺は、また妻にキツい言葉を放ってしまった。少し言い過ぎただろうか。
妻はプレゼントをしつこく渡されることに嫌悪感を抱くような性格ではないが、おじさんなんて全く興味ないだろう。
俺が今度、直接そのおじさんに言うしかない。幸せを崩そうとする奴は許さない。でも憎めない気持ちも、ちらほらと生まれてくる。
俺はパソコンを開いて、今回の件に関する情報をサイトに入力した。すると、こう表示された。
“3.1417150310232531120251……”
どうやら、おじさんの天誅率はかなり低いようだ。
『3.1417150310232531120251……』という円周率に似たタイトルは『妻子いない50歳おじさん25歳人妻に恋……』と読みます。




