表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/100

そういうんじゃないじゃん

「今日は楽しかったよ」

彼が言う。

「私はそうでもなかったかな」

私が言う。

「家の前じゃなくて本当にいいの?」

私は彼が好き。

「家の場所、知らないでしょ?」

彼はカッコイイ。

「場所、知られたくないタイプ?」

汚くてヒビが入ったボロアパート。

「そういうんじゃないじゃん」

家族6人で1部屋。

「ごめん」

父なしの五姉妹。

「ここでいいから。もう帰るね」

引き留めてもいいんだよ。

「キスしてもいい?」

初めて聞くセリフ。

「そういうんじゃないじゃん」

彼は真面目すぎる。

「聞かなくても良いってことね」

私は唇を奪われる。

「そういうんじゃないじゃん」

彼は困り顔をする。

「どうすればいいの」

彼は少し消極的な性格のはず。

「何か違うんだよね」

本心は出せていない。

「元カレと比べてるのか?」

本心はキュンキュンが止まらない状態。

「どうでもいいでしょ!」

なんかカッコイイ悪女風を演じちゃう。

「じゃあ、またね」




「どうしてくれるの?」

彼女が言う。

「ごめん」

僕が言う。

「高かったんだよ」

僕は彼女が好き。

「いくらしたの?」

彼女は可愛い。

「3万だけど」

綺麗な模様の入ったグラス。

「もう元には戻らないね」

僕が落として割った。

「気に入ってたのに」

無論、間違えて。

「新しく買ってあげるよ」

そんなに使ってなかったくせに。

「そういうんじゃないじゃん」

いつも言うセリフ。

「ごめん」

彼女はわがまま。

「新しく買えば済むと思ってるの?」

僕は破片を拾う。

「新しく買わなくていいの?」

彼女は仁王立ち。

「そういうんじゃないじゃん」

彼女はグラスを自分で買わない性格。

「じゃあどうすればいいの」

まして3万のグラスなんて。

「3万円くれればいいよ」

ましてプラスチック派。

「誰かに貰ったものなの?」

くれたのは元彼だろう。

「どうでもいいでしょ!」




「居酒屋なんだけどいいかな?」

彼が言う。

「そういうんじゃないじゃん」

私が言う。

「記念日でも落ち着く場所がいいと思ってね」

私と彼の大切な時間。

「女性の気持ち全然分かってないね」

彼はカッコイイ。

「行きつけのお店で料理が美味しいんだよ」

居酒屋の席に座り心が笑う。

「プレゼントとかないの?」

優しさなら何でも受けたい。

「あっ、これプレゼント。財布なんだけど」

私はプレゼントを忘れた。

「そういうんじゃないじゃん。開けるまでの時間も楽しみたいんだよ」

ウキウキしすぎてプレゼント忘れた。

「開けてみてよ」

買ってはあるが家に忘れた。

「ピンクの財布?」

後日、愛を込めて手渡そう。

「ピンクが好きって言ってたから」

彼は私のことをよく分かってる。

「こういうんじゃないじゃん。私が好きなのは濃いピンクじゃなくて薄いピンクだから」

彼の可愛い困り顔。

「ごめん」

彼が世界一大好きだよ。

「あなたなんか大嫌い」

本心が裏返る。

「じゃあ、別れよう。僕も嫌いだし」

涙が心に降り注ぐ。

「そういうんじゃないじゃん」

私の中の優しい女は閉じ籠るのに、悪女はでしゃばる。

「えっ、大嫌いなんでしょ。もう帰るね」

もっと一緒に居たい、ずっと一緒に居たい。

「大嫌いだからこそ一緒に居たいっていうかね」

こんな状況でも素直になれない。

「そういうんじゃないじゃん。もうカッコつけなくていいから」

実物の涙を彼の前で流したのはこれが初めて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ