オナカイタイ
付き人の井田がとにかくバカだ。
一生懸命なのだが、とにかくバカだ。
バカと接するストレスでまたお腹が痛くなってきた。
お腹が痛いけど、薬にお金を出したくはない『腹痛いけど払いたくない』という状態である。
「おい、井田?腹痛薬を買ってきてくれるか?」
「腹痛薬ですね。分かりました。行ってきます」
送り出してから、説明の不足に気付き、頭を抱え、腹も抱える。
執筆活動に支障を来すモヤモヤは四方八方に行き渡っている。
芸能、音楽、文芸など多方面で活躍する私に休んでいる暇はない。
ようやく脳が働き出したとき、井田が誰かと一緒に戻ってきた。
「買ってきましたよ」
「腹痛薬らしきものを何も持ってないじゃないか。それに誰か連れてきてるしな」
「通訳を買ってきました」
「副通訳じゃなくて腹痛の薬だよ。買ってきたって買収か」
「狩りの方の狩ってきたです」
「お前な、本通訳もいないし、そもそも通訳は必要ないし、無理矢理連れてこられても困るんだよ」
腹痛の薬を『ふくつうやく』と言ってしまった私も悪いが、副通訳なんて言葉は存在していない。
痛む私のお腹が何て言っているか気になるので『腹語』と『日本語』の分かる通訳なら借りてきてもよかったのだが……。
「ごめんなさいね、通訳さん。こいつがとんでもないことをしてしまって」
通訳の若い女性は苦笑を浮かべながら帰っていった。
井田は私が翻訳家でもあることを知らないのだろうか。
大バカだ。




