カレー
“特製カレー作ってあげますね”
そう美女に言われて家にお邪魔したのは、つい先程。
美女は料理をしている姿を僕に見せることを極端に嫌がった。
恩返しに来た鶴並みの隠蔽具合で料理を続ける美女。
頭には恥じらいと毒物という二つの理由が浮かんだ。
僕は恥じらいであることを願う。
「どうぞ、カレレーです」
「いただきます」
緊張でカレーという簡単な三文字を噛んでしまっていて、可愛らしい。
食べてみるとコクがあって、辛さと甘さのバランスがよくて、高級店のカレーの味がした。
「ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」
「喜んでもらえて良かったです。また食べに来てくださいね」
「はい。あの、トイレを借りてもいいですか?」
「どうぞ」
僕は教わった通りの道筋でトイレを目指した。
キッチンで、ふと目に入ったゴミ箱から高級カレー店監修のレトルトカレーの空き箱が顔を覗かせていた。
少し驚いたが嫌いになるほどではない。
トイレに入り、今までの出来事を思い返し、あることに気付く。
美女はレトルトだということを隠してはいない。
美女が言った『カレレー』という言葉。
最初は、カレーと言おうとして噛んだのだと思っていた。
だが、それは違う。
『カレレー』から『レ』を取ると『カレー』になる。
『レ取るとカレー』。つまり、レトルトカレーであることを美女は僕に遠回しに伝えようとしたのだ。
手違いか何かで特製カレーが完成せず、嘘をつくことに抵抗がある美女はカレレーと言ったのだろう。
カレレーは僕への愛情……。




