ウシ先生
「もう。小林さん。廊下を走らないで下さい」
「もう。山田くん。学校には漫画を持って来ないで下さい」
「もう。池田さんかな?先生の給食に肉をよそったのは。先生は野菜しか食べられないこと知っていますよね」
よく分からないが私は生徒の間でウシ先生と呼ばれている。
「もう。小林さん。すごく優しくていいですよ。友達を大切にすることはいいことですから、これからも優しくして下さい」
「もう。田中さん。授業に積極的で真面目でいいですよ。100点おめでとう」
「もう。池田さん。感謝の手紙なんて嬉しいじゃないですか。もう。泣いちゃうじゃないですか」
貰った手紙の内容は次の通りだ。
“動きが遅くてのんびりしているイメージだけど、たまに暴れまくっていてかっこいいです。白黒のジャンパーもステキで先生が大好きです。先生いつもありがとう。”
もう、とにかく、嬉しい。
だが、人間の姿を借りた牛だと思っている生徒が少なからずいるみたいなので、そのことに関してはいい気分がしない。
放課後、田中さんが職員室を訪ねてきた。
田中さんは95点の漢字テストを私に渡して指で指す。
「これのどこが違うんですか?」
私は眼鏡で解答を凝視する。
「打撲の撲が間違ってますよ」
「これじゃないんですか?」
「はい、ボクはニンベンじゃないんです」
「あっ、そうでしたか。ニンベンの僕じゃなくて、テヘンの撲でしたか」
「次は100点目指して頑張って下さいね」
「ありがとうございます」
話し終わる少し前くらいに、私のクラスの山田くんらしき生徒が職員室から物凄い勢いで飛び出していったが何があったのだろうか。
翌日の放課後、今度は小林さんが担任の私を訪ねてきた。
「あの?馬場先生が自分から人間ではないって言っていたって山田くんに聞いたんですけど、やっぱり人間じゃなくてウシだったんですか?」
「もう。違いますよ。そんなことは言ってないですよ。私は人間ですからね」
「でも、田中さんに問い詰められて『僕は人間じゃないんです』って言ったって聞いたんですけど」
「言ってませんよ。漢字の話をしていただけです。説明するのは面倒なので言いませんがウシではなくて人間です」
「ありがとうございました。先生」
『ウシ先生』と陰で呼ばれることはまだまだ続きそうだ。
私はウシではなく人間である。




