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誰にでも失敗はある

「すみませんでした」

僕は額が膝に付くくらい深く頭を下げた。

「ほら勇輝も謝りなさい」

ぼーっと突っ立っている小学生の息子に気付き僕は息子の頭を手で押した。

「ごめんなさい」

頭を下げている僕の目には玄関の高級そうな大理石の床が映っていた。

「わざとではないと思うのでそんなに謝らないでください。誰にでも失敗はありますから」

そっと頭を上げると隣の家の男性は優しい笑顔をしていた。

「窓ガラスは弁償しますので」

割ったのは息子だが全ての責任は僕にある。

「弁償はしなくていいですよ。はいこれ」

男性は持っていた野球ボールを息子に手渡した。

「ありがとう」

息子にやっと笑顔が戻って僕はほっとした。

「親子でキャッチボールなんて憧れますよ。次は気を付けてくださいね」

恐い人ではなく全然怒らない人だったので本当に良かった。

「はい。気を付けます」

今度キャッチボールをする時は大きな公園でしようと思う。




「すみませんでした」

僕は息子と一緒に体を前に思い切り折り曲げた。

「頭を上げてください。誰にでも失敗はありますから。それより息子さんのケガは大丈夫ですか?」

広すぎる玄関と広すぎる心は前と全然変わっていない。

「足を少し擦りむいただけなので大丈夫ですよ」

息子は元気のない暗い顔でずっと下を向いていた。

「良かったです」

何があってもいつも笑顔でいるこの男性のことを僕は見習わなくてはいけない。

「車の修理代は出しますので」

ポルシェを傷つけてしまったのは息子だが僕の教育が良くなかったせいだ。

「息子さんの自転車も傷ついてしまいましたよね。なので修理代は要らないです」

自分の車の傷より息子と自転車の傷を心配してくれていい人だなと思った。

「勇輝!これからはスピードを出さず考え事をしないで自転車に乗るんだぞ」

僕の息子はワンパクなところがあるので叱っても無駄だろう。

「道路に少しはみ出して駐車していたのかもしれないので僕も悪いです。ごめんなさい」

停まっている車に自転車で突っ込まれて傷ができたのに謝ってくるなんて優しいにもほどがある。




「本当に申し訳ありませんでした」

僕は正座をして手のひらと額をアスファルトに押し付けた。

「他の人も見ていますし土下座はやめてください。過ぎたことはもう戻らないので」

男性には何度も迷惑をかけてしまっているが今回は流石に許して貰えないだろう。

「取り返しのつかないことをしてしまい本当に申し訳ありませんでした」

隣同士だが謝ること以外で男性と接する機会はあまりない。

「そんなに謝らないでください。誰にでも失敗はありますから。頭を上げてください」

ゆっくりと視線を上げた僕の目にはオレンジ色の豪邸が映っていた。

「弁償したい気持ちはありますが僕には無理そうです」

大金持ちの男性家族に比べて僕たち家族は貧乏なのだ。

「大丈夫ですよ。あなたの家に燃え移らないことを祈っています」

僕が男性の立場だったらあんな笑顔でいられないと思う。

「もうロケット花火をしないように息子に言っておきますので」

息子が一人でやったことだが引火の全ての責任は親である僕にある。

「あまり息子さんを叱らないであげてくださいね。あと自分を責めないでくださいね」

男性は火事まで許してくれたが優しすぎて逆に恐い。




「お帰りなさいお父さん」

男性に何度も謝ったが本当は申し訳ないなんて少しも思っていない。

「勇輝ただいま」

これまで男性にかけてきた迷惑は全て偶然ではない。

「お父さんどうだった?」

男性は気付いていなかったと思うが実は男性に恨みを持っていた。

「謝って許してもらったよ」

スッキリしたので失敗を恐れず男性に復讐して良かった。

「もうお母さんと喧嘩しちゃ駄目だからね」

男性が全然怒らないことで有名だと知ってこの復讐を思い付いたのだ。

「もう喧嘩はしないよ。今日、学校はどうだった勇輝?」

僕の息子の勇輝は男性の息子にずっといじめられていたのである。

「友達がたくさん増えたよ」

弱いものをいじめるバカのいる町に引っ越してきたのは失敗だった。

「友達が増えたか。それは良かったな」

3つ年下の僕の息子をいじめていたバカの親が何でも許す男性なのは納得が出来る。

「今すごく楽しいよ」

僕は嫌いな人が不幸になるのなら土下座なんていくらしてもいいと思っている。

「新しい学校にはもう慣れたか?」

あの町から僕たち家族はいなくなったので僕の息子が男性の息子にもっといじめられる心配はない。

「学校には慣れたけど実は僕またいじめられているんだ」

予想していなかったのでかなり驚いて僕は頭を抱えた。

「お父さんがそのいじめっこを苦しめてやるよ」

何でも許す人以外にも通用する失敗しない復讐の方法は全然思い付かないが約束は絶対に守ってみせる。

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