カノジョめし
ついに彼女の乃愛ちゃんが作った料理が食べられる。
ハンバーグをリクエストしたが乃愛ちゃんが持ってきたスーパーの袋の中に肉らしきものは無かった。
リクエストと違ったが僕の家に料理を作りに来てくれるだけで嬉しいのでいい。
初めて見る乃愛ちゃんのエプロン姿はとても似合っていて可愛かった。
僕はテレビを見始めたが乃愛ちゃんのことが気になってキッチンに向かった。
「何を作ってるの?」
「ホワイトチャーハンよ」
チャーハンは好きだがどちらかというと男の料理というイメージがある。
覗くとボウルのプールで泳ぐ淡い黄色の長細い物体が目に入った。
「これは何?」
「切り干し大根を戻しているのよ」
ホワイトチャーハンと言っていたがどう見ても切り干し大根は淡い黄色だ。
でも大まかにいうと淡い黄色はホワイトなので気にしない。
「これは何?」
「これはみじん切りにしたさきいかで今はネギをみじん切りにしているところよ」
ネギはチャーハンに欠かせない食材だがさきいかはあまり聞いたことがない。
さきいかとネギは真っ白でホワイトチャーハンにピッタリなので文句はない。
だがホワイトチャーハンに合わないネギの緑の部分が少し気になった。
「ネギの緑の部分はどうするの?」
「緑のネギはもったいないから食べちゃうわね」
そう言って乃愛ちゃんはネギをムシャムシャと食べ始めた。
別の料理にネギを使うという僕の予想は見事に外れてしまった。
「缶詰使うの?」
「ホタテ貝柱水煮の缶詰よ。私、力がないから開けてくれる?」
乃愛ちゃんは僕より力が強い気がするが代わりに缶詰を開けた。
ホタテは好きなのでテンションは少しだけ上がった。
「ホタテを味見にひとつ食べちゃうわね」
乃愛ちゃんが幸せそうにホタテを食べているのを見て僕も幸せな気分になった。
ホタテ貝柱水煮が美味しくないわけがない。
「これもみじん切りにするの?」
「そうよ。今からホタテと切り干し大根をみじん切りにするわよ」
ホワイトチャーハンへの期待度は最初に比べると高くなっていた。
乃愛ちゃんは意外にみじん切りが上手くてとても輝いて見えた。
「この切り干し大根の戻し汁どうするの?」
「戻し汁はもったいないから飲んじゃうわね」
結構量があったが乃愛ちゃんは戻し汁を一気に全部飲み干した。
乃愛ちゃんの食いしん坊なところが可愛くて素敵だ。
「空のペットボトルある?」
「あるけど何に使うの?」
「見ていれば分かるわよ」
乃愛ちゃんは小さいガラス容器に卵を割り入れるとペットボトルを握ってヘコませた。
そして卵に近づけると黄身だけがペットボトルの中に吸い込まれていった。
「スゴいでしょ?」
「うん。この方法なら簡単だね」
ホワイトチャーハンなので卵の黄身は使ずに白身だけ使うみたいだ。
白身だけのチャーハンは初めましてでどんな風になるのか全く想像できない。
「白身だけ使うのか」
「卵の黄身は使わないから食べちゃうわね」
乃愛ちゃんはそう言った後にペットボトルからダイレクトで卵の黄身を食べた。
ホワイトチャーハンの他にもう一品欲しかったのに黄身は乃愛ちゃんの体内に消えた。
「余ったもの全部食べちゃうんだね」
「エコよ。エコ」
何でも食べちゃう乃愛ちゃんに段々と引き始めていた。
だが次は何を食べるのかという興味はまだ少しだけ残っていた。
そして乃愛ちゃんは油の入ったボトルを手に持って熱したフライパンに注ぎ始めた。
「あっ……」
油は揚げ焼きするならピッタリだがチャーハンにしてはかなり多い量で明らかに出し過ぎだった。
乃愛ちゃんなら『油を出し過ぎたから飲んじゃうわね』と言いかねないので怖かった。
「油はほんの少し多いわ」
そう言ってガラス容器に油を移そうとしていたので安心した。
ガラス容器に入った油を後で飲んじゃうことは有り得るがフライパンからダイレクトで飲まなかったので大丈夫だ。
「何から炒めるの?」
「まずは白身を流し入れて少し生な状態で取り出すのよ」
毎日料理をしているような慣れている感じで乃愛ちゃんは白身を炒め始めた。
一品ではなく何品も食べたいが他の料理を作る様子は全くない。
何品もあった方がいいがもちろんホワイトチャーハンだけでも構わない。
乃愛ちゃんは白身をフライパンから出してご飯を炒め始めたが僕は早く食べたいと思い始めていた。
「ちょっと味見しちゃうわね」
味見するといっても何も味が付いていない、ただの焼いた白飯だ。
全く意味の無い味見で何でもいいから胃袋に何かを入れたかっただけなのかもしれない。
「ここでみじん切りした食材を入れるわね」
そう言って乃愛ちゃんはフライパンに切り干し大根、ホタテ、さきいか、ネギを加えた。
もうホワイトチャーハンの一品のみしか作らないことはほぼ確定した。
でもまだ飲んでいないホタテ水煮の汁をスープにする可能性は少しだけ残っている。
「ここに塩コショウと料理酒とホタテ水煮の汁を加えるの。余った水煮の汁は飲んじゃうわね」
そう言って缶から汁を飲んでいたが、その姿がカッコよく見えてしまったのは僕がおかしくなったからなのだろうか。
絶対にホワイトチャーハンは美味しいに決まっているのでスープの可能性が無くなったことはどうでもいい。
「そして白身を加えて軽く炒めるの」
こんな斬新なチャーハンは誰も思い付かないと思うので乃愛ちゃんは天才だ。
「もうすぐ完成なので味見しちゃうわね」
そう言って乃愛ちゃんが口一杯にチャーハンを頬張ったが味見というよりどうみても食事である。
「味がよく分からなかったから、もう一口食べちゃうわね」
そう言ってさっきより多い量を口に入れたがどうみても食べ過ぎである。
いくら味見したって作りすぎたチャーハンは減らない。
「最後に白ゴマとしらすを散らして……。これで完成よ」
ホワイトチャーハンなのでカラフルではないが具の種類が多くて見た目は美味しそうだ。
「いただきます」
一口食べると予想を遥かに越える美味しさが僕の舌に伝わってきた。
リクエストしたハンバーグではなかったガッカリ感は何処かに置いてきてしまったようだ。
「すごく美味しいよ」
「本当に?良かった」
「乃愛ちゃんは食べないの?」
「私はダイエット中だから」
ダイエット中の人が余った食材を全て平らげた上にがっつり味見をする訳がない。
食べていないものといったら缶などの容器と卵の殻くらいである。
かなり美味しかったのでスプーンは進み結構な量を食べたが5分の2くらい残してしまった。
「もう食べられないよ」
「作りすぎたみたい。私が残り食べちゃうわね」
僕の倍のスピードで乃愛ちゃんは食べ進めて、あっという間に完食した。
「宇宙一美味しく出来たわね」
「そうだね。ちょっとトイレ行ってくるね」
『そうだね』と言ったが宇宙一は言い過ぎだと思う。
宇宙一なのはチャーハンの味ではなく乃愛ちゃんの胃袋のほうだろう。
いや、乃愛ちゃんの胃袋は宇宙一なんかではなく宇宙そのものだ。
トイレから戻ってくると乃愛ちゃんの顔から微笑みが消え去っていた。
「なによ、これ」
乃愛ちゃんが手に持っていたのは僕の元彼女からのラブレターだった。
トイレに行っている間に勝手に引き出しを開けて見つけたのだろう。
「返してくれよ」
「今すぐ処分するわ」
もうラブレターを破られても仕方ないと思って僕は取り返そうとしなかった。
元彼女からのラブレターを取っておいた僕が悪いのだから。
「あなたの元カノからの手紙も食べちゃうわね」
そう言って乃愛ちゃんはラブレターを丸めて口に入れてしまった。
食いしん坊なのは分かっていたがラブレターまで食べてしまうとは。
乃愛ちゃんはどこまで食いしん坊なのだろうか。




