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干支の順番

ファミリーレストランに家族とではなく親友と来ている。


私は飲み物があまり好きではないがドリンクバーを頼んだ。


ドリンクバーにカレーがあったがカレーは飲み物ではないのでおかしい。


私がマグカップでカレーを飲んでいると親友がこんなことを言ってきた。


「干支の順番は神様が動物たちに競争させて決めたらしいよ」


少し驚いたが私は干支というものを正直よく知らない。


何の動物がいるか聞いたことがある気はするが正確には分からない。


「ゴメン、親から電話かかってきた」


親友は電話で話すために外に出ていってしまった。


暇なので私は親友が言っていた『動物たちの競争』を想像をしてみた。


干支の順番を決める競争はたぶんこんな感じだろう。


********************


神様からこんなメールが送られてきた。


『干支を決める競争を行います。明日の朝7時に乾さんの家の前からスタートして5キロ離れた田中神社がゴールです』


別に僕は競争で1位になりたいと思ってはいない。


なので何位になっても喜んだり悔しがったりはしないだろう。


「おい、クマ!明日は朝5時に起こしてくれ」


「かしこまりました、乾様」


クマで執事の僕は乾様に毎日扱き使われている。


乾様は他の人には優しいのに僕だけに厳しいのだ。


ストレスはあるが飼っている毛虫くんとホタルちゃんが僕を癒してくれるので頑張れる。


虫さんと人間のどちらが好きかと聞かれたら虫さんと答えるだろう。


仕事なので明日は朝の5時にちゃんと乾様を起こそうと思う。




朝の5時になって僕は乾様を起こすために部屋へ入っていった。


「5時です、起きてください。ですがスタートが7時から10時になりましたのでまだ寝ていてもよろしいかと思いますが」


「それなら気を効かせてスタート2時間前まで起こさずに眠らせてくれた方がよかったぞ」


「すみませんでした」


ワガママな乾様は見慣れているので少ししかムカつかなかった。


スタートが3時間遅れたことを乾様の親友の羽生様や茂木様にも僕がメールで伝えてある。


「お水飲みますか」


乾様の喉が乾いていると思って僕はコップに入ったお水を勧めた。


「クマ!気が利くな」


水を一気に飲み干した乾様は再び眠りについた。


「おやすみなさい」




スタート直前になって僕は毛虫くんとホタルちゃんの入った虫カゴを持って家を出てスタート位置についた。


そしてスタートの時刻になったので僕は神社まで早歩きで向かった。


あまり長い距離ではないが運動不足で肥満の僕には辛かった。


競争の順位はどうでもいいのでマイペースで歩き続けた。


ゴールの手前に来たので僕は虫カゴから毛虫くんとホタルちゃんを出してあげた。


毛虫くんは1位、ホタルちゃんは2位でゴールしていきその後に僕もゴールしようとした。


すると前にタヌキが現れて僕より先にゴールして3位になった。


「蚊に化けてあなたの肩に乗り楽をして1位になろうとしていたのですが寝てしまって3位になってしまいました」


「全然気が付きませんでしたよ」


タヌキの作戦に感心しながら僕は4位でゴールした。


毛虫くんとホタルちゃんが「クマ執事さんありがとう」と言ってくれたので僕は顔がにやけた。




羽生様と茂木様が必死な顔で走ってきたのは僕がゴールした3時間後のことだった。


羽生様は5位で茂木様は6位だったので悔しそうな顔をしていたが僕を見た途端に鬼の形相に変わった。


「おい、クマ執事!騙したな」


二人にスタートが3時間遅れると嘘をついたのには理由がある。


羽生様と茂木様と乾様の3人が僕の悪口を言っているのを偶然聞いてしまったからだ。


「騙される方が悪いですよ」


その後、羽生様と茂木様が言い返してくることはなかったがかなり怖かった。


乾様は作戦通り最下位が確定して僕は隠れて小さくガッツポーズをした。


日頃の恨みを晴らすために最下位になるように仕向けたが少しやり過ぎただろうか。




結構な時間が経って向こうから乾様がゆっくりと歩いてきた。


乾様の顔を見ると晴れやかな表情をしていたので少しだけ安心した。


僕の前に来てから晴れやかだった顔は急に変わり雷が落ちた。


「バカヤロウ!本当は時間通りなのにスタート時刻が遅れると嘘付いただろう」


「すみませんでした」


「クマ!お前のことは一生許さないからな」


執事を辞める覚悟は出来ている。


人間が嫌いで虫さんが好きなので人間と関わる執事を辞めて虫さんと関わることが出来る昆虫博士になろうと思う。


「おい、ちゃんと聞いているか?お前をクビにだって出来るんだよ」


今までに見たことがないほど怒っているので『寝る時に勧めた水には睡眠薬が入れてあったんです』なんて言えない。




こうして干支の順番は決められたのだった。


********************


「ゴメンね。親との電話が長くなっちゃった」


「全然大丈夫だよ」


干支の順番を決める競争の想像という、とても有意義な時間を過ごせたので待たされたことは気にしていない。


「何の話をしてたんだっけ」


「干支の順番の話だよ」


今の私ならどんな干支のことを聞かれても答えられる。


「干支全部言える?」


「言えるよ」


考える時間があったお陰で恥をかかなくて済みそうだ。


私は親友に干支を自信満々に言い放った。


「『毛虫けむしほたるたぬき熊執事くましつじ羽生はぶ茂木もぎいぬい』でしょ?」


「『うしとらたつうまひつじさるとりいぬ』だよ。似ているけど全然違うよ」


私は恥をかいてしまった。

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