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一番後ろの一番右

一番後ろの一番右。



そこは誰もが一番なりたくない席。



その席に座った者には地獄の日々が訪れる。



今まで何人もの児童がそこに座って元気を失っていった。



でも必ず誰かが座らなくてはならないのだ。



普通、席替えは楽しいものと考えるだろう。



しかし、このクラスの児童たちにとって席替えは恐ろしいものである。



さあ、もうすぐ席替えが始まる。



次の犠牲者は誰になるのだろうか。







前の席替えから約二ヶ月後の今日、席替えのくじ引きが行われた。



席が決まり安堵する人がいる中で僕は頭を抱えていた。



僕はくじ引きの結果、例の席になってしまったのだ。



「ドンマイ」



今まで例の席だった田中がそう言って僕の背中を軽く叩いた。



田中は今日の日をずっと待っていたのだろう。



地獄から抜け出した喜びからか、とても晴れやかな顔をしていた。



それに比べて僕は冴えない顔をしていた。



これから始まる悪夢を受け入れるしかないのだ。







「浜崎。チョークを職員室に行って貰って来てくれ」



僕は「はい」と答えて職員室に向かった。



みんなが恐れていたもの。それは先生のパシリ。



小学校のみんなには陰で『パシリをする橋本先生』略して『パシ本先生』と呼ばれている。



出口に一番近いという理由で一番後ろの一番右の席の児童がターゲットになる。



前には同じ学年の先生への伝言を頼まれたこともあった。



そのときは『隣の教室なんだから自分で行け』と思ってしまった。



僕は教室に戻るとパシ本先生にチョークを渡した。



パシ本先生は無言で受け取った。



『ありがとうくらい言ってもいいのに』と少し怒りがわいてきたが笑顔でいた。



顔は笑っていたが、心は笑っていなかった。







あれから約二ヶ月が経ち、今日は待ちに待った席替えの日である。



二ヶ月間、何とか耐え抜いた。



もう二度と例の席には座りたくない。



願いながら待っているとみんなの席が発表された。



僕の席は一番前の一番右だった。



僕は胸をなで下ろした。



すると例の席になった高橋が喋り始めた。



「先生、僕ここでは黒板の字が見えないです」



「じゃあ一番前の浜崎と交換しなさい」



例の席はまた僕になった。



僕は『高橋のバカヤロー』と心の中で叫んだ。



地獄はまだ終わらない。

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