君は縄。
親友の多田ただしは死んだ
そう思うしかなかった
電話をしても全然出ない
メールをしても返信がない
もう半日も音信不通
休みなので寝ているのか
携帯を忘れて外出したのか
親友を嫌いになったのか
色々考えたがどれも違う
どれも多田らしくない
やはり死んだのだろうか
僕は家に行くことにした
それしか方法がない
もし死んでいたら
もし血が流れていたら
もし殺されていたら
そう考えるだけで怖い
でも訪ねるしかない
僕は部屋の前にやってきた
そしてチャイムを鳴らした
『ピンポーン』
でも誰も出てこない
『ピンポーンピンポーン』
何度鳴らしても反応がない
これは死んだということか
いやまだ分からない
僕はドアノブを握った
そしてゆっくりと開けてみた
鍵はかかってないみたいだ
僕は部屋を外から覗いた
でも人の気配がない
僕は大きい声で呼んだ
「多田?いるか?」
だけど静かなままだった
「いないのか?入るぞ」
僕は部屋に入っていった
意外に綺麗な部屋だ
歩きながら周りを見渡した
どこにも血痕はない
でもまだ安心できない
僕は恐る恐る奥へ向かった
するとベッドが見えてきた
ベッドの上には人影が
見えたのは足らしきもの
そして段々全身が現れてきた
顔をみると多田ただしだった
ナイフで刺されてはいない
首を絞められてもいない
銃で撃たれてもいない
僕はとても安心した
「心配したんだぞ多田」
「…………」
多田の目は開いている
なのに僕の声に反応しない
「起きてるんだろう?」
「…………」
耳栓はしてないみたい
目はこっちを向いている
なのに全然喋らない
「無視しないでよ多田」
「さっきからウルサイな」
喋ったが少しおかしい
普段キレない多田がキレた
まるで別人で怖くなった
でもいつも通りに接した
「何で電話に出ないんだよ」
「お前は誰だ?」
親友からの驚きの言葉
もしかしたら記憶喪失か
そう思ってしまった
「僕だよ小林だよ」
「知らないな」
知っている多田はいない
寝ているのは知らない男
そう考えるしかなかった
「多田ではないのか?」
「もう喋らないで」
「何でだよ?」
「振り回されて疲れてるんだ」
振り回されたのは恋人なのか
それとも友達なのか
分からないが黙ろうと思う
でも気になることがある
「最後に一つ聞いていい?」
「いいけど最後だぞ」
すごく怖い顔をしている
だから言われた通りにする
「仕事は何をしてるの?」
「ダイエットトレーナーさ」
多田の職業は公務員のはず
分からないことが増えた
頭の中は渋滞していた
おかしいところが多すぎる
全然起き上がろうとしない
全然表情を変えない
全然体が動いていない
まるで石だ
待っていても変化しない
なので帰ろうとした
すると玄関のドアが開いた
そして女性が入ってきた
女性は僕を見て驚いていた
「あなた誰ですか?」
「親友の小林です」
「私は多田の彼女です」
少しだけ可愛い顔だ
そしてとても優しそうだ
でもタイプではない
それより大事なことがある
僕は状況を彼女に伝えた
「多田がおかしいんです」
すると彼女が笑い出した
そしてこんなことを言った
「今から解きますよ」
もしかして魔法使いなのか
それで石にされたのか
そう僕は想像していた
「魔法ですか?」
「いいえ催眠術です」
催眠術は恐ろしい
物にされるのだから
多田が可哀想に思えてきた
「何のためですか?」
「浮気のおしおきです」
そう言って指をならした
すると多田が起き上がった
とても不思議そうな顔だ
そして彼女が喋り始めた
「縄跳びの縄の気分は?」
「全く覚えていないよ」
多田は縄跳びになっていたのだ
これで謎は全て解けた
縄跳びは痩せるために使われる
確かにダイエットトレーナーだ
そしてさっき言ったこの言葉
『振り回されて疲れてるんだ』
これの意味もいま分かった
縄跳びは振り回される物
全部縄跳び目線だったのだ
でも本当は違うのかもしれない
もしかしたら本音かもしれない
彼女に振り回されている
催眠術に振り回されている
だからそう言ったのかもしれない
『振り回されて疲れてるんだ』
その言葉の真意は分からない
「無事でよかったよ多田」
「来てくれてありがとうな」
「じゃあね僕は帰るよ」
僕は安心して帰ろうとした
でも恐ろしいことが起きた
体が全然動かないのだ
まるで縄で縛られたように
僕は多田に助けを求めた
でも多田も動けないみたいだ
そして多田の彼女を見てみた
すると僕にニヤリと笑った




