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味噌ラーメン

なけなしのお金を握りしめて泊まるところもなく寒空の下を一人さまよっていた。


すると暗い夜道に淡い光が現れてきて、よく見るとのれんにはラーメンと書いてあった。


そして入り口のドアに貼ってある紙に書いてあった『味噌ラーメン半額』という文字が目に留まった。


通常380円みたいなので半額は190円。


持っている全財産は200円なので10円もお釣りがくる。


体を暖めるのには自動販売機で売っている『缶のおしるこ』という選択肢もあったが買わなくて良かった。


僕は寒さから逃げるように店内に足早に入っていった。


そこはカウンター5席のみの小さな店で僕は右端に座った。


寒い店の外を地獄とするなら暖かい店の中は天国と言っていいだろう。


冷えた体は正直に暖かいものを欲しがり迷わず入ってすぐに味噌ラーメンを注文した。


「味噌ラーメンひとつ」


「味噌ラーメンですね。分かりました。少し待ってくださいね」


店には80歳くらいの可愛らしいおじいちゃんしかいないみたいだ。


周りを見渡すと壁一面にびっしり紙のメニューが貼ってあった。


そのメニューは何をしたらこうなるのと思うくらいボロボロで薄黄色になっていた。


変色したのか元々この色なのか分からないが良い意味で古くさくて落ち着く。


200円を左手で握りしめながら右手で出された水を少し飲んだ。


約100種類の壁のメニューに一通り目を通し終わった時、味噌ラーメンが運ばれてきた。


「お待たせしました。味噌ラーメンです」


この安さでチャーシューが3枚のっているのは意外だったがとても嬉しかった。


早速レンゲで黄色を帯びた茶色のスープを掬って口に運んだ。


食道を熱いスープが通っていくのがよく分かった。


とても優しい味がして少しだけ寒くなくなってきた。


僕は割り箸を手に取って勢いよく割ったが上手く割れなかった。


割り箸は片寄って割れてしまうし会社はクビになってしまったし何をしても上手くいかない。


麺を割り箸で沢山掴んで思いきり啜った。


三日ぶりの食事だからなのか分からないがラーメンが今までで一番美味しく感じた。


僕の目からは自然と涙が溢れてきて泣き濡れながら啜り続けた。


店内はガラガラで客は僕しかいないので気にせずに涙を流せた。


スープに哀しみが溶け出して何だか少ししょっぱく感じた。


冷えた体は暖まったが凍った心が溶けることはなかった。


濁ったスープで丼の底は全く見えないが僕の進む未来も全く見えない。


麺は全部食べ終わったがスープの中でコーンが、もがいていた。


掬われないコーンに救われない僕を重ね合わせて涙が止まらなかった。


その後スープを一気に全部飲み干してコーンも全部美味しくいただいた。


僕はスープを飲み干したが僕を苦しめている不運というスープは誰も飲み干してくれない。


全てを失った僕に明日は来るのだろうか。


水を飲みながら色々考えていると壁に貼ってある一枚の紙を見つけた。


紙の文字を全て読み終えて僕は店主のおじいちゃんにこう伝えた。


「あの。住み込みのアルバイトがしたいんですけど」

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